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第四十六話:金色の塵

Scene.166 金色の塵と新たな疑問


ウチがマモンに背を向けたその瞬間。

ヤツを縛り付けていた『強欲』の権能。そのドス黒い黄金のオーラが、悲鳴と共にヤツの体から抜け出ていった。そして、キラキラしたただの綺麗な金色の塵になって、破壊された貴賓席ロイヤルボックスに舞い落ちていく。

その汚いくらいに綺麗な光景を、ウチはただ黙って見下ろしていた。

下からは民衆の怒りの雄叫びと、命乞いをする男の無様な声が聞こえてくる。


(…アイツ、言ってたな。『声を聞いた』とか)


マモンの最後の見苦しい命乞いが脳裏に蘇る。

絶望の淵でヤツに力を与えた、何者かの声。


(じゃあ、あのデブを、『強欲』にした大元がいるってこと?)


(七つの大罪をこの世界にばら撒いた、本当のクソ野郎が…)


その存在は魔王よりも厄介な相手かもしれない。

ウチの本当の最後の敵になるのかもしれない。

ウチは頭をガシガシと掻いた。

込み上げてくる溜息。


「…まぁ、いいや」


今はどうでも。考えるのは後だ。


「…マジで、疲れた…」


アドレナリンが切れた。

途端に全身の骨が軋むような疲労感が津波のように押し寄せてくる。魔人化したコガに、壁に叩きつけられた時のダメージが、今更ズキズキと痛み出した。



Scene.167 英雄の凱旋


ウチはボロボロの貴賓席から眼下のアリーナへとふわりと飛び降りた。

そこには。


「お姉ちゃん!」


泣きそうな顔でエリナが駆け寄ってきた。


「ご無事で…!本当にご無事で…!」


ゲートからはリラっちとブランの爺さんたちも駆けつけてくる。


「…莉央様。見事な、お働きでした」


リラがうっとりとした熱のこもった瞳でウチを見ている。


「…お見事だった嬢ちゃん。いや、もう嬢ちゃんなどと呼ぶのは失礼か」


「陽動は成功だ」


ザハラとカイトたち『デザート・ドーン』の連中もアリーナに集まってきていた。


「街の衛兵の主力は今頃街の反対側で偽情報に踊らされている。ここの兵もあらかた片付けた。…街は解放されたんだ」


その言葉を証明するように。

アリーナに残っていた奴隷剣闘士たちの首にはめられていた『服従の首輪』が、一斉に光を失い、カシャン、カシャンと音を立てて地面に落ちていった。

マモンの絶対的な『所有権』の契約がヤツの力の消滅と共に消え去ったんだ。


人々は最初何が起こったか分からずにいた。

だがやがて一人が自由になった自分の首に触れ歓喜の声を上げる。

それが伝染し波紋のように広がっていく。

憎き支配者の支配からの解放。圧政からの解放。

絶望の悲鳴はやがて割れんばかりの歓喜の雄叫びへと変わっていった。

その全ての賞賛と感謝の視線がウチ一人に注がれている。


「…ちょ、うるさいんだけど」


ウチはその熱狂の渦に背を向けた。

英雄になるつもりも救世主になるつもりもないし。


「行くよ。アジトに帰る」


ウチはエリナとリラ、そしていつの間にかウチのパーティーみたいになったブランの爺さんやザハラたちに声をかけた。

ウチらは熱狂する人々を置き去りにして静かに闘技場を後にした。

今はただ休みたい。

仲間たちと一緒に、安心して眠れるあの薄汚いアジトで。

今はただそれだけで十分だった。

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