第四十四話:本当の敵
Scene.160 砕け散る黄金
ウチの全霊を込めた一撃が、魔人コガの赤熱した鎧の隙間に突き刺さる。
「ギィィィィィィアアアアアアアアアアアッッ!!」
断末魔の絶叫。
ヤツの体から黄金の魔力が光の粒子となって爆散する。
巨体はその場にゆっくりと崩れ落ちた。禍々しい金の鎧はガラスのように砕け散り、元のただの傷だらけの鎧武者の姿へと戻っていく。
勝負は決した。
Scene.161 英雄の慈悲?
アリーナは静まり返っていた。
「殺せ!」
「とどめを刺せ!」
という野蛮な声が観客席から飛んでくる。
ウチは息も絶え絶えに砂の上に横たわるコガの前に立ち、血に濡れた剣を振り上げた。
…だが。
その剣を振り下ろすことはできなかった。
ウチの目に映っていたのは魔人でも敵でもなく、ただ、マモンという絶対的な悪意に利用されただけの、一人の哀れな男の姿だったからだ。
(…いや、待ちなよ)
ウチは剣を下ろした。
(こいつ…別に、何も悪くないじゃん。ただ強くて忠義に厚い武士だっただけ。マモンのクソみたいなショーの一番デカい道具にされただけ)
(ウチがマモンを倒したら…こいつの呪いも解けたりすんのかな?…まぁ、どーでもいいけど。勝手に生き残りなよね)
ウチはもう地面に転がるコガには興味を失っていた。
アリーナ全体がウチのその不可解な行動に戸惑い、静まり返っている。
Scene.162 本当の敵
ウチの氷のように冷たい視線はアリーナのはるか上。
貴賓席で恐怖に顔を引きつらせている、全ての元凶…『強欲』のマモンだけを捉えていた。
(でもね、マモン。キミは別だから)
ウチは聖人君子でも勇者様でもない。
でも、人の命をオモチャにして、弱いヤツからなにもかも奪い尽くす。キミみたいなやり方は、一番ムカつくんだよね。
(だからキミがこの後、どんなに無様に命乞いをしようが関係ない)
(キミがこの街で築き上げてきた全てのモノ。その金も権力も、そしてそのくだらないプライドも。全部ウチが奪ってあげる)
ウチは血に濡れた剣の切っ先を、マモンに突きつけた。
(覚悟しなよね。…ショーの主役はもうウチなんだから)
それはこれから始まる、本当の“決勝戦”の開始ゴングだった。




