第四十三話:金色の魔人
Scene.157 金色の魔人と二人の連携
闘技場は完全に地獄絵図と化していた。
パニックに陥った観客が閉ざされたゲートに殺到し怒号と悲鳴が渦を巻いている。
そしてその中央。ウチはもはやあの孤高の武士の面影もない、金の化け物…『強欲の魔人』と化したコガと対峙していた。
「グルオオオオオオッ!」
理性を失った咆哮と共に魔人コガが突進してくる。その動きは獣のように荒々しいが、振るわれる刀は、かつての達人の軌道を、なぞっている。
ウチは神速の動きでその猛攻をかわす。ヤツが振り下ろした刀がウチがさっきまでいた場所の地面をクレーターのように抉り取った。
(クソ…!硬すぎでしょ、この金メッキ武者!)
ウチの剣がヤツの黄金の鎧に弾かれる。レベル99のウチの斬撃が、だよ?並の攻撃じゃ傷一つ付けられやしない。
防御だけじゃジリ貧だ。どうする…!
「お姉ちゃん!」
観客席からエリナの凛とした声が響く。
「私がヤツの動きを鈍らせます!お姉ちゃんは鎧の関節部分を狙ってください!《重圧の光》!」
エリナが放った不可視の光の重圧が魔人コガの巨体にのしかかる。ヤツの動きがほんの少しコンマ数秒鈍くなった。
だけどウチにはそれで十分すぎる!
「ナイス、エリナっち!」
ウチは鈍った動きの死角に潜り込む。そして鎧と鎧の僅かな隙間…膝の裏、脇の下、首の付け根を二本の剣で的確に抉っていく。
浅い。でも確実にダメージは通っていた。
ウチが斬りつけエリナが援護する。ウチらがこの世界に来てからずっと磨き上げてきた二人だけの連携。
じわじわと、でも確実に魔人コガを追い詰めていく。
Scene.158 紅蓮の助太刀
だが魔人は怒りに任せてその身に受けた全ての傷を無視した。
「グガアアアアアアアアアッ!」
ヤツは全身から溜め込んだ黄金の魔力を一気に解放した。刀の切っ先が眩い光を放つ。
「奥義!『黄金地獄斬』!」
ヤツが刀を振るった瞬間、アリーナ全体を薙ぎ払う黄金の斬撃波がウチを襲った。
「ぐっ…!ヤバ…!」
ウチはとっさに剣を十字に構えてガードしたがそのあまりにも強大な威力に木の葉のように吹き飛ばされアリーナの壁に叩きつけられた。
口の中に鉄の味が広がる。肋骨が何本かイったかも…?
「これで、終わりだ…!」
コガが勝利を確信しウチにとどめを刺そうと巨大な刀を振り上げた。エリナの次の魔法が間に合わない…!
もうダメか、とウチが奥歯を噛み締めたその時だった。
ゴオオオオオオオオッ!
ゲートの方向から今までとは比べ物にならないほど極太の紅蓮の炎の奔流が放たれた。
それは槍のように鋭く一直線に魔人コガのがら空きだった脇腹を焼き尽くした。
「ギッ…!?グオオオッ!?」
不意の一撃に魔人の巨体がよろめき、ウチへのとどめの一撃が逸れていく。
ウチはゲートに視線を向けた。
そこには肩で息をしながら両手を前に突き出したリラの姿があった。その後ろにはブランの爺さんたちの姿も見える。
(…へぇ、やるじゃん、エルフ)
ウチの口元に笑みが浮かぶ。
(…そーいや、『紅蓮の』なんとかって通り名だったっけ。マジ、ナイスなんだけど)
Scene.159 もう一息!
リラっちの渾身の一撃はただウチを救っただけじゃなかった。
「お姉ちゃん!あの部分です!」
エリナが叫ぶ。
「高熱でヤツの鎧の魔力的な結合が弱まっています!今なら…!」
見るとリラの炎に焼かれたコガの脇腹の鎧が赤熱し溶けかかっていた。
そこが唯一の弱点。
「…ああ、見えてる」
ウチは壁を蹴って立ち上がった。全身の痛みが逆にウチの闘志に火をつける。『荊棘の女王の抱擁』のスキルが発動し受けたダメージが何倍もの力となって体に漲ってくる。
「これが最後だよ! エリナ! リラ!」
ウチは三人分の想いを剣に乗せた。
そしてウチのありったけの力を込めた最後の一撃を叩き込むために赤熱する魔人の一点へと弾丸のように突進した。
「これで、終わりだよっ!」




