第三十八話:決勝前夜
Scene.144 決勝前夜の戯れ
屠殺場の夜は静かだった。
準決勝が終わり、明日の決勝戦を待つのみとなったこの場所には、もうほとんど人影はない。
勝ち残ったのはウチとあのクズ蛇、サイラスだけ。
奴隷の身だからエリナっちやザハラたちに会うことはできない。
(…ブランの爺さん、大丈夫かな)
ウチは独房同然の石の寝台にごろんと横になりながら、今日の昼間の戦いを思い出していた。
あの老獪な剣捌き。そして、最後にウチに全てを託してくれたあの覚悟の目。
ウチはあの爺さんの想いも背負って、明日は戦わなきゃならない。
考えれば考えるほどアドレナリンが体中を駆け巡る。戦いが続きすぎて完全に頭も体もムラムラしてた。
「…莉央様」
暗闇の隅から声がした。リラだった。
あの日以来、ウチがどこへ行こうとこのエルフはまるで従順なペットみたいに付いてくるようになった。
「…なに?エルフ。まだ起きてたの?」
「はい。莉央様がお休みになるまで、お側をお守りするのが私の役目ですので」
「…ふーん」
ウチは体を起こすと暗闇の中で静かに佇むリラの美しいシルエットを手招きした。
「ねぇ、リラ。こっち来なよ」
「…はい、莉央様」
リラは何の疑いもなくウチの寝台の側までやってきた。
ウチはその細い腰をぐいと引き寄せる。
「キミさ、ちょー従順なペットなんでしょ?」
「え…?」
「だったらさ、ご主人様がムラムラしてんだから、ちゃんとお世話しないとダメじゃない?」
―――その夜、ウチは決勝前の昂りを鎮めるために、リラっちのその気高い体と従順な心で徹底的に遊んであげた。
誇り高いエルフがウチの下でどうなっちゃったか。
その詳細はもちろん言えないけどね。
Scene.145 ウチが“No.3”だった頃
リラがウチの腕の中で猫みたいに静かな寝息を立てている。
ウチは魔法で作り出した細い煙草に火をつけると独房の小さな窓から見える砂漠の月を眺めていた。
明日、サイラスを倒せばウチはマモンの目の前に立つことができる。
その光景を想像したらなんだか昔のことを思い出した。
(…なんだ。やってることあの頃とあんま変わんないじゃん)
ウチが歌舞伎町でNo.3だった頃。
毎晩お気に入りの派手なドレス(勝負服)を着てネイルも髪も完璧にキメて店に出る。
ライトを浴びてフロアを歩けば全ての男の視線がウチ一人に集まる。他の女たちの嫉ITの視線が逆に快感だった。
「莉央ちゃん、こっち!」
「今日は俺の席でしょ!」
男たちは競うようにウチを指名して高いシャンパンの栓を抜いていく。
あの頃も毎日が戦いだった。
男たちのプライドと財布の中身をどっちが先にへし折るかのゲーム。
ウチはそのゲームの最強のプレイヤーの一人だった。
(…そうだよ。明日の決勝も結局ただの指名試合じゃん)
ウチはフッと笑った。
(明日の対戦相手は店のNo.2で枕営業で客横取りしてたあの性悪女的な?そしてそいつを倒した先に待ってる一番の太客がマモン…!ふーん、最高のステージじゃん!)
そう思ったら急に気分が軽くなった。
ウチは莉央だ。
ただの異世界転生者でもレベル99の英雄でもない。
男を転がし夜の世界でテッペンを目指してた、ただのイケイケのギャルだ。
だったらやることは一つ。
(さて、と)
ウチは煙草の火を指で弾いて消した。
(明日はこのオアシスで最高のショーを見せてあげる。ウチがこの街の新しい“主役”になる、その瞬間。…それは勝利のコールじゃない)
(それは断末魔の悲鳴が上がる、最高の暗殺劇の始まりのゴングだ)
最高のショーで魅了して、油断させて、その喉笛を掻き切ってあげる。
覚悟しときなよね、マモン。




