第三十六話:『強欲』のシステム
Scene.138 忠犬エルフと準決勝の顔ぶれ
「莉央様…お水をどうぞ」
「…いらない」
「では、肩でもお揉みします」
「いらないって、言ってんだけど!」
屠殺場の片隅。ウチの背後にはいつの間にか、あのエルフ…『紅蓮のリラ』が忠犬みたいにぴったりと張り付いていた。
試合でプライドごとぐちゃぐちゃにしてやったのが、逆に変なスイッチを入れちゃったらしい。ウチを「様」付けで呼び、何かと身の回りの世話を焼こうとしてくる。
(…マジでうざっ。ペットにでもなったつもり?このエルフ)
ウチは内心で悪態をつきながら、魔力モニターに映し出される他の試合を眺めていた。
準々決勝。ベスト8の戦いだ。
モニターの中では『不壊のガウム』…あの熊の獣人が相手の剣を素手で受け止めへし折っていた。純粋なパワーだけなら多分コイツがこの闘技場のトップだ。
別の試合では『毒蛇のサイラス』が相手の懐に蛇のように潜り込み、試合が終わった後、相手は口から泡を吹いて倒れていた。相変わらず戦い方がクズすぎる。
そしてブランの爺さん。相手は自分より遥かに若くて体力もある戦士だったが、ブランは巧みな剣術でいなし捌き、相手が根負けして大振りの一撃を放った瞬間、その力を利用してカウンター一閃。見事な勝利だった。
これでベスト4が出揃った。
ウチ、脳筋ガウム、クズ蛇サイラス、そして曲者のブラン爺さん。次の準決勝で誰と当たるか。
でもそんなことよりウチの頭の中は別のことでいっぱいだった。
Scene.139 最悪の仮説
(…マジ、どーしよ)
トーナメントを勝ち上がるのは多分余裕だ。問題はその先。決勝でマモンと対峙したその時。
暴食と同じようにこっちの攻撃が一切通じなかったら?その可能性がウチの頭から離れない。
「…ねぇ、エルフ」
「はい、莉央様!」
「キミ、魔術師でしょ。なんかこの闘技場、変だと思わない?」
ウチの唐突な問いにリラは不思議そうな顔をした。
「マナの流れだよ。この国全体妙に魔力が薄い。なのにこの闘技場とてっぺんのタマネギ頭だけ異常に濃いの。まるで街中のマナを全部そこに吸い上げてるみたいに」
ウチの指摘にリラははっとして目を閉じて集中した。そして数秒後、驚愕の表情で目を開ける。
「!…ま、まさか…。確かにそうです。これは自然なマナの流れではありません…。街全体が、一つの巨大な『集約の魔術式』になっています…!まるでこのオアシスという都市そのものが、あの王城に力を捧げるための…“祭壇”であるかのように…!」
“祭壇”。“捧げ物”。
その言葉がウチの頭の中でパズルのピースみたいにカチリとはまった。
(捧げ物…?所有…?てか、そういうこと!?)
ウチは戦慄した。
暴食は目の前のエネルギーを『喰らう』だけだった。
でも『強欲』は違う。
自分の支配領域にある全てのエネルギーを自動的に『徴収』するんだ!
このオアシスにある富も権力も人々の欲望も、そして魔力や生命力すらも。その全てが24時間365日、マモンの力としてあの城に吸い上げられ続けている…!
(…ヤバい。最悪じゃん。ここでヤツと戦うのは最悪の一手だ!)
あの城にいる限り、いやこのオアシスにいる限りヤツは街そのものをバッテリーにして無限に力を回復し増幅させ続けることができる。
エリナっちの神聖魔法で脳天をブチ抜いたところで、街一つ分の生命力で一瞬で再生するだろう。
(…だとしたら、やることは、一つ)
ウチの脳が高速で回転する。
(ヤツをこの街から引きずり出すか。あるいは…)
ウチはアジトに残してきたザハラたちの顔を思い浮かべた。
(この街全体の『徴収』システムそのものを、陽動に乗じてぶっ壊すかだ…!)
ザハラたちに任せた陽動はただの目くらましじゃない。この作戦の本当の心臓部になった。
ウチの口の端に獰猛な笑みが浮かぶ。
見えたじゃん。あのクソ豚をハメる唯一のチャンスが。
Scene.140 運命の相手
その時再び控え室に鐘の音が鳴り響いた。
モニターに準決勝の組み合わせが表示される。
『第一試合:莉央 vs “古強者”ブラン』
「…へぇ」
相手はあのブランの爺さんか。
これも何かの運命ってやつかな。




