第三十五話:紅蓮の屈辱
Scene.135 炎の舞踏
「さぁ闘技場は早くも灼熱の興奮に包まれております!二回戦屈指の好カード!炎を操る誇り高きエルフの魔術師!『紅蓮のリラ』選手が入場だァ!」
アナウンサーの絶叫と共にアリーナに現れたリラは昨日と変わらず優雅で美しかった。その立ち姿には一切の隙がない。
彼女はウチを一瞥すると、ふんと鼻で笑った。まるで汚物でも見るかのように。
「対するは一回戦であまりにも衝撃的なKO劇を見せつけた今大会最大のダークホース!銀のアッシュブロンドをなびかせ黒衣を纏うその姿はまさに悪魔!『莉央』選手の入場だーっ!」
ウチはわざと気だるそうに首をコキコキ鳴らしながらアリーナに姿を現した。そして観客席に向かって投げキッスを一つ。ブーイングと狂ったような歓声が同時に湧き上がった。
「…下品な女」
「せいぜいウチを楽しませてよね、お姫様」
カンッ!
試合開始のゴングが鳴り響いた。
開始と同時にリラはウチから一気に距離を取って詠唱を開始する。
「燃え盛りなさい!『炎の蛇』!」
彼女の両手から灼熱の炎でできた巨大な二匹の蛇がウチに襲いかかってくる。アリーナの砂がその熱でガラス化していく。
「うおおおおおっ!」
と観客席がどよめく。
だがウチは笑っていた。
「花火はもっと派手じゃないとね!」
ウチは炎の蛇の牙と牙の間をまるで踊るようにすり抜けた。
リラは驚愕の表情で次々と魔法を放つ。地面から炎の壁が噴き上がり空から無数の火の玉が降り注ぐ。
アリーナ全体が一つの巨大な炎の檻と化した。
だがその全てがウチに届くことはなかった。
ウチの神速の動きと『未来予知』のスキルが全ての攻撃をコンマ数秒前に完璧に予測していたからだ。
ウチは炎の中を舞い踊る。時折剣で炎を切り裂きその軌道を逸らす。観客にはまるでウチが炎と戯れているかのように見えただろう。
そして炎の嵐を無傷で突破したウチはリラの目の前に立っていた。
「なっ…!?」
「鬼ごっこは終わりだよ、お姫様」
Scene.136 悪魔の囁き
リラはパニックに陥り至近距離から最大の火力をウチに叩き込もうとした。
だがその詠唱が終わることはなかった。
ウチはリラが魔法の発動に使っていた杖を剣の柄で弾き飛ばす。そしてその華奢な体を軽々と地面に押し倒した。
ドサッと鈍い音。気品高いエルフのお姫様が血と砂に塗れた薄汚い地面に無様に転がっている。完璧に結い上げられていた髪は乱れ純白のローブは砂と汗で汚れていた。
「どうしたのお姫様?花火はもうおしまい?」
ウチはその美しい顔を足元から見下ろしてやった。
リラの気高い瞳が屈辱と怒りで激しく燃え上がっていた。
「…このっ!私を誰だと思っている!この下賤な人間がっ!」
彼女が最後の力を振り絞り何かをしようとしたその瞬間。
ウチは彼女の上に馬乗りになった。両手首を片手で頭上に押さえつける。
完全に無力。もはやウチから逃れる術はない。
ウチはその耳元に唇を寄せた。
観客席からはウチらが何を話しているか見えないだろう。だがそのあまりにも密着した恋人同士のような体勢にアリーナ全体が息を飲んで静まり返っているのが分かった。
「ねぇアンタさ。そのプライドだけ高そうなツンとした顔…。キライじゃないよ?」
ウチは囁いた。
「ウチがその綺麗なお顔をぐちゃぐちゃに歪めてあげる。アンタの中からもっと素直でいやらしい声、引きずり出してあげる」
Scene.137 堕ちた誇り
―――そしてウチは観衆からは見えないように、彼女のその気高い“プライド”を完膚なきまでに陵辱した。ウチの指と舌でね。
残念。その詳細はここでも語ることはできない。
ただ…
「…わ、私が…負け…ました…」
数分後。
リラはアリーナの真ん中で全身をびくびくと痙攣させ、頬を屈辱と今まで知らなかった快感の色に真っ赤に染め上げ、涙声で降参を告げた。
その瞳からはもう気高さもプライドも消え失せていた。
ウチは立ち上がると自分の唇を手の甲でぐいと拭った。そして未だに震えが止まらないリラを見下ろして笑ってやった。
「…ほらね?」
「そっちの顔の方がずーっと素直で可愛いじゃん?」
「勝者、莉央ーっ!」
そのコールが熱狂とスキャンダルの嵐に包まれたアリーナに虚しく響き渡っていた。




