第三十四話:舞台裏の駆け引き
Scene.131 勝者と敗者それぞれの夜
一回戦の、あまりにもスキャンダラスな結末。その余韻は屠殺場にも奇妙な形で残っていた。
ウチの周りだけぽっかりと空間が空いている。誰もがウチを遠巻きに見てヒソヒソと噂している。畏怖、嫌悪、そしてほんの少しの倒錯した憧れ。…ああ、気持ちいい。この視線、キライじゃない。
(…てかさ、聖樹様が言ってた七つの大罪?に、『色欲』ってのがいるんだっけ。ウケる。そいつどんなヤツか知らないけど、エロさ対決なら負ける気しないんだけどなー。…ま、どーでもいっか!)
ウチが自分のショーの余韻に浸っていると、控え室に設置された巨大な魔力モニターが次の試合を映し出した。
『さあ続いての試合は、このトーナメントを10度も生き抜いてきた生ける伝説!『古強者』ブランの登場だァ!』
(…あの、おじいちゃんか)
モニターに映し出されたブランは相変わらず飄々とした様子でアリーナに立っている。対戦相手は見るからに血気盛んな若い獣人の戦士。スピードもパワーも明らかにブランより上だ。
案の定試合は一方的な展開になった。ブランは防戦一方でジリジリと追い詰められていく。観客席からは「引退しろジジイ!」なんて汚いヤジが飛んでいた。
でもウチは分かっていた。
ブランのあの片目が一度も相手の勢いに臆していなかったことを。
そして勝負は一瞬で決まった。
若い獣人が勝利を確信し派手な必殺技を繰り出そうと大きく振りかぶったその瞬間。ブランの体が消えたように沈み込んだ。
相手の力を完全に利用した見事な足払い。巨体はバランスを崩し無様に前のめりに倒れる。その喉元にいつの間にかブランの剣の切っ先がピタリと突きつけられていた。
「…参った」
若い獣人は何が起こったか分からないという顔で降参を告げた。
ブランは剣を収めると相手にそっと肩を貸して立ち上がらせてやった。
(…やるじゃん、爺さん。伊達に10回も生き残ってないわ)
ウチの口元に自然と笑みが浮かんだ。
生きてりゃいーけど、なんて思ったけど、心配無用だったみたい。まぁあの爺さんは負けたとしても死なないっしょ。生き汚なさにかけてはウチといい勝負かも。
Scene.132 仲間からの便り
さて、二回戦までまだ少し時間がある。
ウチは剣を鞘に収めるとふと外の世界のことを考えた。
(エリナっち、ザハラ、カイト…アイツら、陽動の準備、上手くやってるかな)
ウチがぼんやりと控え室の天井近くにある小さな窓を見上げたその時だった。
一羽の青い鳥がその窓の鉄格子にちょこんと止まった。
この砂漠の国にはいるはずのない森の鳥。
その足には見覚えのある濃紺の布切れが固く結びつけられていた。…ザハラの腰に巻いていた布と同じ色だ。
鳥はウチと目が合うと一声高く鳴いた。
それは作戦開始前に決めておいた合図。
『準備は順調なり』
鳥はすぐに空へと飛び立ち、街の中心とは逆の方向…レジスタンスが武器や資材を調達している闇市場の方向へと消えていった。
(…来たか)
ウチの胸に安堵とそして新たな闘志が静かに灯る。
(アイツらも上手くやってるみたいじゃん。…ならウチもウチの仕事を完璧にやるだけだよね)
Scene.133 次の相手
ウチは立ち上がると魔力モニターに再び映し出されたトーナメントの組み合わせ表を見据えた。
ウチの、二回戦の、相手。
『二回戦 第四試合:莉央 vs “紅蓮の”リラ』
(…へぇ。次の相手は、あのプライド高そうなエルフのお姫様か。…脳筋のゴードンとはタイプが違うけど、まぁ、ウチの相手じゃないっしょ)
ウチは獰猛に笑った。
「面白いじゃん。花火じゃなくて本物の炎、見せてみなよね、お嬢様?」




