第三十三話:悪魔のデビュー戦
Scene.128 開幕のゴング
「さぁ始まりましたチャンピオン・トーナメント!『大淘汰』を生き残った128名の犬どもが己の命と自由を懸けて今雌雄を決する!一回戦第一試合!東ゲートより、予選で仲間を無残に打ちのめされた復讐に燃える『剛腕のゴードン』が入場だァッ!」
アナウンサーの下品な絶叫に合わせ観客席から地鳴りのような歓声が上がる。
アリーナに現れたのは案の定、屠殺場にいた筋肉ダルマの仲間だった。身の丈2メートルはあろうかという巨体に巨大な鉄槌を担いでいる。その目は復讐の炎で赤く燃え上がっていた。
「対するは西ゲート!バトルロイヤルに彗星の如く現れた謎の女剣士!その戦い方はあまりにも優雅であまりにも残酷!銀のアッシュブロンドをなびかせ黒衣を纏うその姿はまさに悪魔!その名も…『莉央』だァァァッ!」
ウチはだるそうに耳をほじりながらアリーナへと足を踏み入れた。
ゴードンが憎しみに満ちた目でウチを睨みつけてくる。
「キサマ…!よくもボルグを…!」
「ボルグ?ああ、あの気絶してる顔がブサイクな筋肉ダルマのこと?心配しないでよ。キミもすぐに同じ場所に送ってあげる」
カンッと試合開始のゴングが鳴り響く。
Scene.129 一方的な舞踏
「うおおおおおおおっ!」
ゴードンが野牛みたいな突進でウチに殴りかかってくる。振り下ろされる鉄槌は地面を叩き割り砂埃を巻き上げた。でもその攻撃がウチに当たることは未来永劫ありえない。
ウチは剣を抜かなかった。
ひらりひらりと蝶のように舞い全ての攻撃を紙一重で見切る。
そしてすれ違いざまにヤツの脇腹に強烈な掌底。膝の裏に的確なローキック。巨体がバランスを崩して前のめりになる。
「なっ…!?」
「遅いって。デクノボウ」
ウチはゴードンの背後に回り込むと、その太い首に足をかけプロレスのフランケンシュタイナーみたいな体勢でヤツを地面に叩きつけた。
受け身も取れずに砂に顔面を突っ込むゴードン。
観客席がどよめいている。あまりにも一方的すぎる展開に。
Scene.130 倒錯のフィニッシュ
「…さて」
ウチはうつ伏せでぜぇぜぇと息を切らすゴードンの前にゆっくりと歩み寄った。
「キミさ、ウチに殺されるより、もっとサイコーの地獄、見たくない?」
ウチはニヤリと悪魔のように笑った。
「ウチの“女”にひれ伏して、そのままイっちゃいなよ」
「…喜んでよね。他のヤツらにはこんなサービスしないんだから」
―――ウチはその言葉通り、彼に男として最大の屈辱と、生き物として最高の快楽を、同時に与えてあげた。この試合のフィニッシュだ。
その、あまりにも異様で、倒錯的なKOシーンの詳細は、ウチの口からは言えない。
ただ、結果だけを言えば。
レフェリーが恐る恐る近寄った時、そこには完全に意識を失い白目を剥きながらも、その口元に恍惚の笑みを浮かべた『剛腕のゴードン』の姿があったという。
アナウンサーが絶叫する。
「な、なんなんだ今のはーっ!?ゴードン、完全に戦闘不能!し、しかしその顔はまるで天国にでも昇ったかのようだーっ!」
観客席は一瞬の完全な沈黙の後、今日一番の爆発するような熱狂と興奮の渦に叩き込まれた。
ウチは恍惚の表情で倒れるゴードンに一瞥もくれることなく背を向けた。
「勝者、莉央ーっ!」
ウチのショーはまだ始まったばかりだ。




