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第三十二話:奈落の役者たち

Scene.123 淘汰の後で


大淘汰ザ・カリング』が終わった後の屠殺場スローターハウスは奇妙な静けさに包まれていた。

500人以上いた奴隷は128人まで減り、床に残るおびただしい血の跡だけが数時間前の地獄を物語っている。

生き残ったのは当然実力者ばかり。誰もが互いの力量を測るように牽制し合いピリピリとした空気が漂っていた。トーナメント本戦の組み合わせが決まるまでしばしの休息だ。

ウチの周りには半径5メートル以内に誰も近寄らなかった。あのバトルロイヤルでのあまりにも異質な戦い方と最後の“アレ”で、ウチはこいつらにとって得体の知れない“化け物”認定されたらしい。好都合だ。



Scene.124 古兵の忠告


「…見事な戦いぶりだったな、嬢ちゃん。だが…」


その沈黙を破ったのは片目の古兵ブランの爺さんだった。彼はウチの隣にどかっと腰を下ろすと持っていた水袋を差し出してきた。


「そのやり方は敵を増やす。無用な侮辱は自分の身を削るだけだ。…嬢ちゃんはどうも自分を一番粗末に扱っているように見える」


…チッ。

この爺さん、分かってやがる。ウチがあの時ただ相手を馬鹿にするためだけじゃなく、自分自身に「ウチなんかこの程度の価値だ」と刻み続けるためにあーゆーことやってるのまで見透かしてやがる。説教臭く言わないだけ年の功ってやつ?


「…余計なお世話だよ、おじいちゃん。ウチのやり方だし」


「そうか。…なら、いい」


ブランはそれ以上何も言わなかった。ただ静かに自分の剣の手入れを始めた。



Scene.125 紅蓮と黒狐


その時、すっとウチの前に一つの影が立った。

見上げると燃えるような赤い髪をした美しいエルフの女。有力候補の一人『紅蓮のリラ』だった。


「あなたが噂の新人ですね。面白い戦い方をします。まるで自分の命を消耗品のように扱いながら舞っている」


「キミもじゃん?遠くから火ぃ吹いてるだけとか、ちょー楽なお仕事でうらやましいなー。花火みたいで綺麗だったよ?」


ウチが皮肉で返すとリラは少しだけ眉を上げた。


「…口も達者なようで。決勝でお会いしたいものですわね」


それだけ言うと彼女は優雅な仕草で去っていった。

その後ろ姿を見送りながらウチは肩をすくめた。



Scene.126 潜む化け物たち


(…プライド高そうな、お嬢様って感じ?)


ウチは他の有力候補たちにも意識を向けた。

アリーナの隅ではあの熊みたいな獣人『不壊のガウム』が巨大な岩を軽々と持ち上げてトレーニングをしている。分かりやすい脳筋。

壁際には蛇みたいな目つきの男『毒蛇のサイラス』が毒の小瓶を弄びながらじっとウチのことを見ていた。目が合うとヌルリとした笑みを浮かべる。マジ、キモい。


(どいつもこいつも、一癖も二癖も、ありそうじゃん)


ウチは周りのヤツらから意識を逸らし自分の内側へと集中力を高めた。

問題はこいつらじゃない。『強欲』のマモンだ。



Scene.127 『強欲』の分析


(暴食の『捕食』とは明らかに違うはず。ヤツの能力は何…?)


ウチは自分の首にはめられた『服従の首輪』にそっと触れた。微弱な魔力が常にウチの力を監視し縛ろうとしている。


(この首輪…これがマモンの魔力そのもののはず。この力は…何かを消滅させる力じゃない。もっとこう…相手を『束縛』して、その存在そのものを、自分の『所有物』にする力…?)


『喰らう』のが暴食。全てを無に還す。

『欲しがる』のが強欲。全てを自分のモノにする。

性質が違う。だとしたらあるいは…。


その時だった。

カンカンカン!と甲高い鐘の音が地下に響き渡った。

控え室の奥の壁に巨大な魔力モニターが浮かび上がる。


「貴様ら犬ども!よく聞け!これよりトーナメント本戦の組み合わせ抽選を行う!」


衛兵の声と共にモニターに生き残った128人の名前が渦のように現れた。そして一本の線で結ばれ巨大なトーナメント表を形成していく。

ウチは自分の名前を探した。あった。ブロックの一番上だ。

そしてその隣。一回戦の最初の相手の名前。


『“剛腕”のゴードン』


屠殺場でウチに絡んできた筋肉ダルマ…ボルグの、仲間の一人だった。

ウチは口の端を吊り上げた。


(…上等じゃん)


(一人ずつ、丁寧に掃除してあげる)

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