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第三十一話:大淘汰

Scene.120 屠殺場スローターハウス


屠殺場の巨大な鉄格子が完全に開け放たれた。

その向こう側で何万人もの観客が飢えた獣のようにウチらの死を待ち望んでいる。


「殺せ!」


「ハラワタをブチまけろ!」


「死ね、奴隷ども!」


汚い罵声がシャワーみたいに降り注ぐ。

合図と共に500人以上の奴隷たちが雄叫びを上げて白い砂のアリーナへと雪崩れ込んでいった。

すぐに地獄の釜の蓋が開いた。弱い者臆病な者から順に殺されていく。アリーナのあちこちで断末魔の悲鳴が上がり白い砂がまだらに赤黒く染まっていく。

まさにバトルロイヤル。


だけどウチは動かなかった。

ブランの爺さんの言った通り。アリーナの隅、壁を背にした絶好のポジションを確保し腕を組んで目の前の殺し合いを冷めた目で見物する。

馬鹿どもが勝手に数を減らしてくれる。ウチがわざわざ手を汚す必要もない。



Scene.121 生き残るための術


しばらくするとアリーナの勢力図が見えてきた。

実力のあるヤツは自分の周りに死体の山を築きテリトリーを作っている。弱いヤツらは徒党を組んでなんとか生き残ろうと必死だ。


(…へぇ、あの爺さん、やるじゃん)


ウチはアリーナの一角にブランの姿を見つけた。

派手な戦いは一切しない。物陰に潜み地形を利用し一人また一人と襲いかかってくる相手を最小限の動きで的確に無力化していく。老獪。まさに歴戦の古兵の戦い方だ。


だけどウチの“休憩時間”もそう長くは続かなかった。

ウチが一人で女でしかもまだ一滴も血を浴びていないことに気づいた、十数人のグループがウチを格好の獲物だと判断したらしい。


「ひゃっはー!女だ!」


「怪我してないぞ!」


「殺して武具を奪え!」


下卑た笑い声を上げながらウチを取り囲む。

ウチはふぅと面倒くさそうに溜息を一つ吐いた。


「…しょーがないなー。掃除の時間、かな」


ウチは二本の剣を抜くと襲いかかってくる男たちの群れへと自分から突っ込んでいった。

ウチの動きはもはや舞いだった。

振り下ろされる剣を紙一重でかわしその腹に強烈な蹴り。槍の突きを剣の腹で受け流しそのまま相手の腕を逆関節に極める。

ウチは刃を一度も使わなかった。剣の峰で骨を砕き柄で急所を打ち鞘で意識を刈り取る。

数秒後。ウチの周りには手足をありえない方向に曲げて呻き声を上げる十数人の男たちが転がっていた。

ウチの服には返り血の一滴すら付いていない。



Scene.122 最悪の挑発


そのあまりにも異様な光景に周りで戦っていた奴隷たちも動きを止めてウチを見ていた。

その静寂を破ったヤツがいた。

屠殺場でウチに絡んできたあの筋肉ダルマ、ボルグだ。


「言っただろ女!お前は俺様のもんだって!」


仲間を二人引き連れて自信満々でウチの前に立ちはだかる。

ウチはニヤリと笑った。ちょうどいい。こいつらには特別な“サービス”をしてあげないとね。


「ヒャッハァ!」


取り巻きの二人が左右から同時に斬りかかってくる。

ウチはその場でふわりと高く跳躍した。そして空中で開脚するように両足で二人の顔面を同時に蹴り飛ばす。ゴシャッと嫌な音がして二人は鼻血を噴き出しながらぶっ倒れた。

残るはボルグ一人。

ヤツは巨大な戦斧を力任せに振り下ろしてきた。ウチはそれをバックステップで余裕でかわす。

そしてウチは攻撃するのをやめた。


「…?」


ウチはニヤニヤしながら目の前の死体の山に片足をかけた。そしてゆっくりと腰に巻いたボロボロの革の腰巻きの裾をくいと持ち上げた。


―――その詳細はここには書けない。


「…なっ」


ボルグの目が点になる。

ウチは最高の笑顔で言ってやった。


「しょーがないなー。そんなに見たいなら見せてあげる。…アンタが一生かかっても手に入れられない最高の景色。目に焼き付けなよね」


男は完全にフリーズしていた。

恐怖でも戦いでもなくこのあまりにも常軌を逸した絶対的な“侮辱”の前に思考が停止したんだ。

ウチはその隙だらけの顔面のど真ん中に寸分の狂いもなく渾身の回し蹴りを叩き込んだ。

ゴッと鈍い音がしてボルグは白目を剥いてその場に崩れ落ちた。


ブオオオオオオオオッ!


その瞬間バトルロイヤルの終了を告げる角笛が鳴り響いた。

ウチは何事もなかったかのように腰巻きを直すと、気絶したボルグの顔をヒールで軽く踏みつけ


「つまんないの」


とだけ呟いた。


そして他の生存者たちがまだ呆然とウチを見ている中、一人悠々と勝者だけが進める次のゲートへと歩いていった。

観客席は一瞬の静寂の後、爆発するような熱狂と興奮の渦に包まれていた。

この日ウチはただの奴隷からこの闘技場の新しい“スター”になった。

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