第三話:慢心と絶望
Scene.10 絆と悪評
数ヶ月の旅が過ぎて、ウチらはいくつもの街を渡りいくつもの依頼をこなした。
ウチとエリナの絆も深まってた。 夜に焚き火を囲みながらウチは自分のいた世界のことを話した。歌舞伎町のネオンの光、ウザい男たちの話、そしてたった一人の親友だったジュリの話。 エリナはただ黙ってウチの話を聞いてくれた。彼女は自分の過去を何も覚えていない。だからこそウチの過去を自分のことのように大切に聞いてくれた。
だけどウチのその順風満帆なやり方は、別の問題も生んでいた。ウチの評判だ。 冒険者ギルドの酒場に行けば必ずヒソヒソ声が聞こえてくる。
『おい、見たかよ昨日の“黒衣の悪魔”』
『ああ。依頼対象のオークの群れを支配して、互いにケツを舐めさせて悦に入ってたらしいぜ』
『マジかよ、えげつねぇな…』
『この前の騎士団の護衛任務じゃ、色仕掛けで隊長を篭絡して任務そっちのけで三日三晩部屋に閉じこもったって話も聞いたぞ』
強さへの尊敬と、そのえげつなくてエロくて下品なやり方への恐怖と軽蔑。ウチの周りにはいつしかそんな複雑な空気が渦巻いていた。 …まぁウチ的には雑魚がビビって絡んでこなくなったから、ちょー快適だったけどね!
Scene.11 慢心の果て
そしてウチの増長は頂点に達した。
「てかもうよくない? こんな雑魚狩り。マジ飽きたんだけど。ラスボス、倒しに行こっか」
ウチはついに魔王への挑戦を決意した。 エリナが顔を蒼白にして必死にウチの腕にすがりつく。
「だめですお姉ちゃん!無謀です!もっとちゃんと準備をしないと…!」
だがウチはその手を優しく振り払った。
「大丈夫、大丈夫! ウチ最強だし!」
ウチは魔王の情報を手に入れ、ヤツが前線基地にしている古城へと向かった。 この時のウチは本気で思っていたんだ。魔王ですらウチの魅力と力の前にひれ伏すだろうと。
Scene.12 最初の対峙
玉座の間でウチは魔王と対峙した。 そのあまりにも美しい銀髪と赤い瞳。 魔王はウチの隣で震えるエリナに一瞥をくれると指を軽く振った。それだけでエリナの体は金縛りにあったように動かなくなり声も出せなくなった。
「ほう。面白い客人が来たな」
「へぇキミが魔王? 意外と顔面偏差値高めじゃん。ウチ、アンタのこと気に入っちゃったかも」
ウチは不敵に笑い色っぽく唇を舐め上げた。
「…ウチのペットにしてあげよっか? 今まで知らなかったこといーっぱい教えてあげる」
「ひれ伏しなよ魔王クン! 【絶対支配】!」
だが魔王は笑った。
「ククク…あはははは! 面白い! だがな小娘。この我の絶対的な意志の前ではお前のその安っぽい色仕掛けなど児戯に等しいわ!」
ウチの最強のスキルが初めて通じなかった。
Scene.13 敗北と屈辱
そこからは一方的だった。 ウチは為す術もなく魔王の力の前にねじ伏せられた。 そしてアイツはウチのその安っぽい自信とプライドを完全にへし折るために、女の子としてマジで最悪の屈辱をウチに与えてきた。
その一部始終をエリナは金縛りのまま見せつけられていた。 助けを求めるようにこちらを見る莉央の瞳。だが自分は何もできない。声も出せず指一本動かせない。その無力感は彼女の心に生涯消えることのない深い傷を刻みつけた。
―――その地獄みたいな時間の詳しいことは思い出したくもないし、ここに書くのはナシってことで。
Scene.14 呪縛と逃走
「…ふん。こんなものか」
魔王はボロボロになったウチを見下ろすと一つの呪いをかけた。
「その傲慢な力の代償だ。絶望を味わうがいい」
魔力の縛りが解かれウチは床に叩きつけられた。自慢のリメイクした戦闘服は見る影もなくボロボロに引き裂かれている。 ウチはまず動けずに涙を流すエリナの金縛りを力任せに解いた。 そしてまだショックで震えているエリナの手を掴むと、最後の力を振り絞ってその場から逃げ出した。 遠く後ろで魔王の高笑いが聞こえていた。
…次に目を覚ました時。 ウチは自分のステータスを見て本当の絶望を知った。
【スキル:絶対支配】
▲使用不可(魔王の呪縛による封印)
ウチの全てだった力が奪われた。 ウチの順風満帆だった物語は最悪のバッドエンドで幕を閉じた。