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第二十九話:血塗られた舞台

Scene.115 勝利への道筋


作戦が決まった翌日レジスタンスのアジトではザハラが集めてきた情報がテーブルの上に広げられていた。

円形闘技場コロッセオ…『ギルデッド・ケージ』で開催される年に一度のチャンピオン・トーナメント。その血塗られたルールと優勝候補たちの顔ぶれだ。


「まず本戦に出場できるのは128名。だが毎年出場希望者は500人を優に超える。そこで初日に行われるのが『大淘汰ザ・カリング』だ」


ザハラの声は静かだが重い。


「アリーナに出場希望者全員を一度に放り込む。武器は自由、ルールは一つだけ。『最後まで立っていた者、上位128名が本戦に進める』。ただの殺し合いのバトルロイヤルだよ。ここで毎年半分以上が死ぬか再起不能になる」


「ウケる。効率いいゴミ掃除って感じ?」


「生き残った者は翌日からトーナメント戦に移る。七回勝ち続ければ決勝の舞台に立てる。」


ザハラは数枚の似顔絵をテーブルに並べた。


「現在最も優勝に近いと言われている有力候補はこの四人」


一枚目は角の生えた熊みたいなデカい獣人の男。

「現チャンピオン『不壊のガウム』。圧倒的なパワーと並の攻撃では傷一つ付かない頑健な肉体が武器。脳筋の代表みたいなヤツだね」


二枚目は蛇みたいな目つきをした痩せた男。

「『毒蛇のサイラス』。元暗殺者でスピードと毒を塗った短剣での騙し討ちが得意。対戦相手はいつも試合後に謎の死を遂げているらしい」


三枚目は燃えるような赤い髪をしたエルフの女。

「『紅蓮のリラ』。珍しい戦闘魔術師バトルメイジだよ。強力な炎の魔法で相手を黒焦げにする。遠距離ではまず勝ち目はない」


「…パワー馬鹿にスピード系のクズ、それに魔法使いか。へぇ」


ウチは似顔絵を眺めながらタバコを吹かした。


「お姉ちゃん…」


エリナが心配そうにウチを見る。


「この人たちを殺してしまうのですか…?」


「…さあね」


ウチは意地悪く笑って煙を吐き出した。


「ま、安心してよ。殺したりはしない。めんどいし。死体とか後片付けダルいじゃん?それにこいつらはただ自分のために生きるために戦ってるだけ。どっかのクソ豚みたいに他人の命を弄んでるわけじゃない。ウチと同じでね」


目的はあくまでマモンの首一つ。余計な血は流すつもりはない。

戦闘不能リタイアにして舞台から降りてもらえればそれで十分だ。



Scene.116 奈落への第一歩


「問題はどうやってウチが“奴隷剣闘士”になるかだよね」


ザハラが一番の懸案事項を口にする。


「闘技場の剣闘士は全てマモンが所有する『奴隷』だ。その身分になるには信頼できる奴隷商人を介して身柄を売り渡すしかない」


「心当たりはあんの?」


「一人だけいる。ヤツには大きな“貸し”がある。我々の計画通りに動くだろう」


話はすぐに決まった。

その日の夜ウチは全ての装備を外しボロボロの布を一枚だけ纏った姿でオアシスの裏路地にある奴隷商館へと連れて行かれた。ザハラがウチの“前の主人”役だ。


「こいつは莉央。元はそこそこの傭兵だったが賭けで莫大な借金を作ってな。今日から売りに出す」


「…へっ。威勢のいい顔してやがる。商品としちゃ悪くねぇ」


買い手として現れた闘技場のスカウトマンが家畜を品定めするようにウチの体をべたべたと触る。歯を食いしばり込み上げてくる屈辱と殺意を必死で腹の底に押し込めた。これも作戦のうちだ。


契約が成立するとウチは首に冷たい金属の輪をはめられた。


「そいつは『服従の首輪』だ。マモン様の魔力が込められてる。おかしな気を起こせばお前の首なんざ簡単に吹き飛ばせるからね。覚えときな」


首輪から微弱な魔力がウチの力を抑制しようとしてくるのが分かった。レベル99のウチだからどうってことないけど、普通の人間ならこれだけで完全に無力化されるだろうね。



Scene.117 しばしの別れ


闘技場へと連行される直前、ウチは物陰でエリナと変装したザハラに最後の言葉を告げた。


「じゃあ、行ってくる」


「お姉ちゃん…!絶対に無茶はしないでください…!」


目に涙を浮かべるエリナの頭をウチはガシガシと撫でてやった。


「泣かないの、エリナっち。すぐに最高の席でウチのショーを見せてあげるかんね。特等席で瞬きとか禁止だから!」


「…はい!」


ウチは次にザハラに向き直った。


「陽動の準備頼んだよ、リーダー」


「…ああ。必ず成功させる。キミこそ死ぬなよ、莉央」


「誰に言ってんの?」


ウチはニッと笑うと背を向けた。

鉄と血と砂の匂いがする闘技場の地下へと続く巨大な鉄の門。

衛兵に背中を押されウチはその暗闇の中へと一歩足を踏み出した。

ゴウッと重い音を立てて背後で門が閉まる。


「…さて」


ウチは暗闇の中で獰猛に笑った。


「大掃除の時間だね」



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