第二十八話:決戦はコロッセオ
Scene.111 反撃の作戦会議
レジスタンス『デザート・ドーン』のアジト。薄暗い作戦室のテーブルに広げられたオアシスの地図。その中心にそびえる『ヴォールト・シタデル』の絵をウチとエリナ、そしてザハラは険しい顔で睨みつけていた。
「…やはり、正面からの潜入は不可能だ」
ザハラが重い口を開いた。
「マモンの城は物理的な守りだけじゃない。高位の魔術師が何重にも張り巡らせた探知と迎撃の結界。見張りは24時間体制で息を吸う音ですら感知されると考えた方がいい」
「チッ。マジで鉄壁の引きこもりだね、あのクソ豚」
「何か、ヤツをあの金庫から引きずり出す方法はないんでしょうか…?」
エリナが不安そうに呟く。
毒殺、暗殺、爆破…。考えうる限りの手をシミュレーションしたが、どれもマモンの用心深さと城の警備の前では成功率が低すぎる。
Scene.112 唯一の隙
「…いや」
ウチは地図の一点を指でトンと叩いた。
円形闘技場…『ギルデッド・ケージ』。
「ヤツが唯一、あの金のタマネギ頭から、自分でのこのこ出てくる場所があるとすれば、ここしかなくない?」
ウチの言葉にザハラが目を見開く。
「闘技場…。まさか」
「そう。年に一度のチャンピオンを決めるトーナメント。その決勝戦。街一番のビッグイベントじゃん?主催者でこの街の王様であるマモンが、観戦に来ないワケない。最高の席で民衆に自分の権力を見せつけながらね」
それがヤツの唯一の油断。そしてウチらが付け入る唯一の隙だ。
Scene.113 最悪の暗殺計画
「作戦はこうだよ」
ウチは不敵に笑って史上最悪の暗殺計画を語り始めた。
「まず、ウチが奴隷剣闘士としてこのトーナメントに出る」
「なっ…!だめです、お姉ちゃん!」
エリナが悲鳴のような声を上げた。
「奴隷だなんて…!それに闘技場での戦いはルール無用の殺し合いです!何があるか分かりません!」
「危険すぎる」
とザハラも即座に反対した。
「キミは我々の切り札だ。そんな不確定な作戦でキミを失うわけには絶対にいかない」
「不確定?だからいいんじゃん」
ウチは二人の反対を鼻で笑い飛ばした。
「一番警戒が厳重な時だからこそ、ヤツは一番油断するんだよ。『まさかこんな場所で自分の命が狙われるわけがない』ってね。それに誰がやるの?ウチ以外に決勝まで余裕で勝ち上がれるヤツ、ここにいる?」
ザハラと周りで聞いていたレジスタンスのメンバーはぐっと言葉に詰まる。
「いい?よく聞いて」
ウチは地図を睨みながらそれぞれの役割を言い渡した。
「まず主役はウチ。奴隷商人に身を売って剣闘士として登録する。そして決勝まで派手に圧倒的に勝ち進む。街中の視線をマモンの目をウチ一人に釘付けにさせる。これが第一段階」
「エリナは客として観客席に紛れ込みむ。決勝戦の一番盛り上がる瞬間…ウチが対戦相手をブチのめして勝利の雄叫びを上げた、その一瞬が合図。エリナの最大火力の神聖魔法…『ホーリー・ジャベリン』を観客席からマモンがいるであろう貴賓席のど真ん中に寸分の狂いもなくブチ込むの」
「そしてザハラ。キミたち『デザート・ドーン』は裏方。ウチとエリナが動くその数分間…いや数十秒間だけでいい。衛兵の足を止め通信魔法を妨害しマモンの逃げ道を全て塞ぐ。同時に街の数カ所で派手な陽動も起こして。衛兵の注意を闘技場から一瞬でも逸らせればそれでいい」
完璧な暗殺計画。だがそれは一つでも歯車が狂えば全員が死ぬ片道切符の作戦でもあった。
Scene.114 女帝の覚悟
作戦室は重い沈黙に包まれた。
やがてザハラが顔を上げた。その目にはもう反対の色はなかった。あるのはウチと同じ覚悟の色。
「…分かった。その作戦、乗ろう。我々の全てをキミたちに賭ける」
「お姉ちゃん…」
「心配しないで、エリナっち。ウチは負けないよ」
ウチは不安そうなエリナの頭をポンと撫でた。
「それにエリナがいるでしょ?ウチとエリナが揃えば神様だって殺せるってマジで思ってるから」
ウチの言葉にエリナの瞳に強い光が宿る。彼女はこくりと力強く頷いた。
「よし、決まりだね」
ウチは地図の上の円形闘技場を指でなぞった。
「開幕だね。このオアシスで一番派手で一番血生臭いショーの」




