第二十六話:裏路地の出会い
Scene.104 鉄壁の城
「…話になんないんだけど」
ウチは天にそびえる黄金の塔…マモンの居城『ヴォールト・シタデル』の正門前で悪態をついた。
あまりにも警備が厳重すぎる。
門の前には寸分の隙もなく整列した、魔法強化済みの黄金聖闘士みたいな近衛兵がずらり。門そのものも物理と魔法の両面から強力な結界で守られてる。
「砂漠の王マモン様に御用ですか?アポイントメントは?」
「ないよ。今から取るの」
「左様で。ではまず資産証明を。総資産が金貨100万枚以下の方は申請書をお受け取りになる資格すらございませんので」
門番の隊長はウチらを虫ケラみたいに見下しながら事務的に言い放った。
ウチは舌打ちして踵を返す。
やろうと思えばこいつら全員なぎ倒して門をぶち破るくらいのことはできる。レベル99だよこっちは。
でもその先にはこれと同じレベルの兵士が無限に湧いてくるだろうし、街全体を巻き込む大騒ぎになってエリナっちを危険に晒すことになる。ダメだ。スマートじゃない。
「正面突破は無理か。あのタマネギ頭マジで用心深い引きこもりだね」
「どうしましょうお姉ちゃん…」
ウチらは完全に手詰まり。文字通り途方に暮れて人混みの中をあてもなく歩いていた。
Scene.105 パンとガキと面倒事
その時だった。
「泥棒だーっ!そこのガキを捕まえろ!」
人混みをかき分けるように痩せっぽちの少年が脇にパンを一つ抱えて必死の形相で走ってくる。その後ろからパン屋のデブ店主と用心棒らしきチンピラが二人追いかけてきていた。
少年は運悪く人混みの中で足をもつれさせ、ウチらの目の前で派手にすっ転んだ。
あっという間にチンピラどもに囲まれる。
「見つけたぞクソガキ!盗みとはいい度胸じゃん!」
「腕の一本でもへし折ってやんないと気が済まないな!」
チンピラの一人が少年の細い腕を掴み捻り上げようとする。
…ああもう。マジでめんどくさい。
「きゃっ!」
チンピラが振り上げた拳はしかし少年の顔に届くことはなかった。ウチがその手首を鷲掴みにしていたからだ。
「…んだお前は!?」
「ん?」
ウチは男の手首をギリと握りしめる。ミシミシと骨が軋む音がした。
「え、ちょ、ウチの連れに何か用事でもある感じ?」
「い、痛ぇ!離せ!そいつは泥棒だ!」
「へぇ。で?」
ウチは懐から金貨を一枚取り出すとデブ店主の顔に投げつけた。
「パン代とキミのその醜いツラをウチの視界に入れた迷惑料。釣りはいらないから。さっさと消えてくんない?ブタさん」
ウチの全く笑っていない目にチンピラどもは完全にビビっていた。すごすごと退散していく背中にウチは追い打ちをかけるように言った。
「次にこの子に手ぇ出したらキミらの腕、マジでへし折って砂漠のトカゲにディナーとしてプレゼントしちゃうよ?」
Scene.106 スラムへの案内人
嵐が去った後、残されたのはウチらとまだ地面に座り込んだままの少年だけだった。
「…立てる?」
「…」
少年はウチの顔を疑り深そうな野良犬みたいな目で見ている。
「別にキミを助けたつもりはないし。ただ目の前で胸糞悪いモン見せられて気分が悪かっただけ」
「…」
「行くよエリナっち」
ウチが背を向けて歩き出そうとすると少年が慌ててウチの服の裾を掴んだ。
「…ま、待ってくれ!」
「あん?」
「…助けてくれた。礼がしたい。でも俺には金も何もない。…だからもし寝る場所に困ってるなら、俺らの“ネグラ”に来いよ。雨風くらいは凌げる」
“ネグラ”。その言葉にウチの勘が反応した。こいつただのガキじゃない。
ウチはニヤリと笑った。
「…いいじゃん。案内してよ」
少年…カイトと名乗ったガキに連れられてウチらは街の最下層スラム街『ガター』へと足を踏み入れた。
カイトは迷路みたいなスラムを慣れた様子で進んでいく。そして固く閉ざされた古い地下水路の鉄格子の前で立ち止まった。
Scene.107 地下のレジスタンス
隠された扉を抜けた先は思ったより広い空洞になっていた。
そこには武器を手入れする者や地図を囲んで何かを話し合う者…20人ほどの光を失っていない目をした連中が集まっていた。
「カイト!無事だったか!」
「…姉貴」
奥から現れたのはしなやかな黒豹のような日に焼けた肌を持つ女だった。顔には古い傷跡。その鋭い瞳はウチらがただ者ではないことを一瞬で見抜いていた。
カイトが事情を説明する。女はウチらに向かって一度深く頭を下げた。
「私はザハラ。ここのリーダーだ。カイトを救ってくれたこと感謝する」
「別に」
「だが礼は言うが歓迎はしない。キミたち何者だ?この街の人間じゃないな。その身にまとう力尋常じゃない。目的は何?」
試すような鋭い視線。こいつそこらのチンピラとは格が違う。
「ウチらの目的?てっぺんのあの金のタマネギ…マモンの首だけど、それが何か?」
ウチは単刀直入に言った。
その言葉を聞いた瞬間ザハラだけでなく周りにいたレジスタンス全員の目の色が変わった。数人がウチらを取り囲むように武器に手をかける。
「…大きく出たな」
ザハラは油断なくウチを見据えている。
「その言葉を吐いたよそ者は今までにも何人もいた。だがそいつらは皆、マモンの黄金に目がくらんで犬に成り下がったか、闘技場の砂に還ったかだ。キミたちがそいつらと違うとどうして信じられる?」
「…」
「我々を炙り出すためにマモンが放った“テスト”かもしれない。違うか?」
ウチは囲まれながらも不敵に笑ってやった。
「…違うって言ったら信じるの?」
ウチらとレジスタンスとの間にピリついた緊張が走る。
まぁそりゃそうだよね。
どこの馬の骨とも分かんないよそ者なんか簡単に信用する訳ないわな。
面白くなってきたじゃん。




