第二十五話:欲望の坩堝
Scene.100 命の値段
オアシスのメインストリートを歩くだけじゃこの街の半分も理解できない。ウチらは情報収集も兼ねてこの黄金の監獄のもっと奥深くへと足を踏み入れた。
まず向かったのは街で一番歓声と悲鳴がデカい場所。
円形闘技場…この街では『ギルデッド・ケージ(金メッキの鳥籠)』って呼ばれてるらしい。
灼熱の太陽の下、すり鉢状の観客席は人の熱気で埋め尽くされていた。涼しい日陰の特等席でワインを傾ける貴族たち。賭けに勝って雄叫びを上げる商人。有り金全部スッて顔面蒼白になってる貧乏人。
そしてその視線の先、血と砂に塗れたアリーナでは剣闘士たちが牙を剥く魔物と殺し合いを演じていた。剣闘士は借金で身を売った人か捕まった犯罪者。どいつもこいつも明日の命も知れない使い捨ての駒だ。
「きゃあああああっ!」
観客席から甲高い悲鳴が上がる。一人の剣闘士が巨大なサソリの魔物の尻尾に貫かれあっけなく絶命した。賭けてたヤツらが汚い言葉で罵る声が聞こえる。死んだ男のことなんて誰も気にしちゃいない。ただの「ハズレ馬券」になっただけ。
「…マジ、胸糞悪いんですけど」
人の命をギャンブルのチップ代わりにして高みの見物とか。
でもウチは戦う剣闘士たちの目から目を逸らせなかった。絶望の中にそれでも「生きたい」っていうギラついた光があった。分かる。ウチもずっとそうやって生きてきたから。
Scene.101 シャドウ・バザール
次にウチらは街の“裏側”へと向かった。
表の市場とは別にここでは「シャドウ・バザール」と呼ばれる闇市が毎晩のように開かれている。場所は地下に広がる古い水路跡。ジメジメしててカビとヤバい薬の匂いが充満してる。
「…マジでなんでもアリだな、ここは」
売られてるモンがヤバすぎる。呪われた武具、即死効果のある毒、禁じられた悪魔召喚の巻物…。壁の掲示板には殺しの依頼まで堂々と貼り出されてる。
客も売る側も全員がフードや仮面で顔を隠してる。信用できるのは金だけ。ここでは金さえ払えば王様の命だって買えるんだろう。
「ちょーヤバい場所だけど…逆に使える情報とか“ブツ”が眠ってそうじゃない?」
ウチは闇市の空気を肌で感じながら冷静に分析していた。この街で『強欲』と戦うにはこっちも毒を持って毒を制す必要がありそうだ。
Scene.102 天国と地獄
そしてウチらはこの街の“格差”を象徴する場所へと足を踏み入れた。
まず丘の上に広がる貴族街。高い塀に囲まれた屋敷はどれも城みたいにデカい。塀の内側からは砂漠じゃありえない青々とした庭園や噴水の音が聞こえてくる。
その真逆。街の一番低い城壁に沿って広がるのがスラム街…通称『ガター(溝)』だ。
今にも崩れそうなボロ小屋が空を奪い合うように密集してる。道には汚物が垂れ流し。病気の匂いと絶望の匂いが鼻を突く。痩せこけた子供たちがウチらを感情のない目で見ている。
同じ街でこの差。
あの金ピカ頭のタマネギの中に溜め込んでるお金の1%でもこっちに回せばこの子たちもお腹いっぱいご飯食べれるじゃんね。
ウチの腹の底で黒い怒りがフツフツと湧き上がってくる。
Scene.103 命の独占
そして最後にウチらはこの街の心臓部であり全ての“悪意”の象徴である場所へと辿り着いた。
街の中央に存在する巨大な湖。文字通りの『オアシス』だ。
砂漠の奇跡、命の源。
でもその奇跡は高さ10メートルはあろうかという巨大な壁と無数の武装した兵士によって完全に囲われていた。
湖の水は黄金のパイプを通って貴族街とあのクソデカい中央の塔…王城にだけ供給されている。
「な…!じゃあ他の人たちは…!?」
「アレ見なよエリナっち」
ウチが指差した先には壁の麓に作られた小さな給水所があった。そこには長蛇の列ができていて人々は僅かな水を手に入れるためになけなしの金を払っている。
命の水すらこの街では金で買う“商品”なんだ。
「…分かったわ」
ウチは中央にそびえる黄金の塔をもう一度睨み上げた。
「命の水まで独り占めとか。マジでやることがキング級にゲスいじゃん『強欲』のマモン」
この街の全てを理解した。
この美しい街は巨大な寄生虫…マモンが人々の命と欲望を吸い上げるために作り上げた精巧な“牧場”なんだ。
だったらやることは一つ。
あの大元のでかいダニを頭から完膚なきまでに踏み潰してやる。
それだけだ。




