第二十三話:砂漠の金色の王
Scene.95 敗北の味
港町シルヴァンに帰還したウチらは英雄の凱旋とは程遠い重苦しい空気をまとっていた。
ギルドの作戦室に閉じこもり来る日も来る日もウチらは『暴食』との戦いを反芻していた。
「…ダメだ。何度シミュレーションしても、勝つビジョンが見えない」
ウチはテーブルに突っ伏した。レベル99が聞いて呆れる。こっちの攻撃は全部“食事”でMPも生命力も全部“デザート”。ルールが違う盤面で無理やり戦わされてるようなもんじゃん。
「お姉ちゃん…」
「分かってる。力押しがダメなら、頭使えって話でしょ。アイツらの“ルール”を理解して、その裏をかくしかない」
ウチの心は折れちゃいない。むしろ逆だ。あの屈辱がウチの中の黒い炎に新しい燃料を注ぎ込んでいた。
ただの復讐心じゃない。もっと冷たくて計算高くて、勝つためなら何でもするっていう凍てつくような闘志。
「聖樹様の話じゃこの大陸にはあと『強欲』と『色欲』がいるはず。まずはそいつらの情報だ。…ギルドに何か新しい依頼は来てないかな?」
もう闇雲に戦うのは終わり。これからは情報戦だ。
Scene.96 謎の金貨
ギルドへ向かうとウチらの顔を見たマスター(渋いエルフの爺さんだ)が奥から一枚の封筒を持ってきた。
「莉央殿、エリナ殿。昨夜、フードを目深にかぶった謎の人物が、これを、お二人にと」
差出人の名前はない。中に入っていたのは一枚のやけにギラギラした金貨だけだった。
「…なにこれ。ウチらを、バカにしてる感じ?」
ウチが金貨を摘まんで光にかざした瞬間、エリナがはっと息を飲む。
「お姉ちゃん、これ…!ただの金貨じゃありません!微弱ですが、神聖な魔力が込められてます!」
エリナが金貨にそっと触れて祈りを込めると金貨がまばゆい光を放ち、空中に幻の地図を描き出した。地図はここアルベリアの西…広大な砂漠地帯を指し示し、その中心にある一つの都市を赤黒く点滅させていた。
そしてどこからともなく囁き声が聞こえてくる。
『“強欲”の名はマモン。金色の王は欲望の玉座に座す。砂の檻ソルダートにて、裁きを』
「マモン…。『強欲』の真名か…!」
「ソルダート…。西の砂漠を支配する巨大な商業国家です!」
エリナの言葉にギルドマスターが頷く。
「ソルダート王国…。豊富な鉱物資源と大陸中から集まる富で栄える国じゃが、その富に惹かれてならず者や裏社会の人間も多く集まる。全てを支配するのは『砂漠の王』と呼ばれる謎の豪商だと聞く」
謎の情報屋。そして次のターゲット。全てのピースがピタリとはまった。
Scene.97 砂漠への旅支度
「行くよ、エリナっち。次のゴミ掃除の場所は決まったかんね」
「はい!」
ウチらの目に迷いはなかった。
だが今度は無策で突っ込んだりしない。ウチらはギルドの資料室に籠りソルダート王国について徹底的に調べ上げた。
気候、文化、政治、そして裏社会の噂。
緑豊かなアルベリアとは何もかもが違う。必要な装備も戦い方も全く変わってくる。
ウチらはシルヴァンの民に別れを告げた。英雄の旅立ちを街の誰もが祈りと共に見送ってくれる。
「莉央殿、これを。我らエルフの民が育てた最速の騎乗獣『サンドゲイル』じゃ。砂漠を疾風の如く駆ける」
「お守りです!どうかご無事で…!」
みんなの想いを背中に受けてウチらはシルヴァンを後にした。もうウチらは独りじゃない。
Scene.98 金色の蜃気楼
サンドゲイルはその名の通り風のように速かった。
数日でウチらはアルベリアの緑の国境線を越えた。
景色は一変した。
生命力に満ちた森は消え失せ乾いた風が吹き荒れる赤茶けた大地がどこまでも続く。空は高く太陽は肌を焼くようにジリジリと照りつけていた。
精霊たちの優しい歌声はもう聞こえない。ここにあるのは欲望と渇きだけだ。
そしてさらに数日後。
地平線の向こうに陽炎のように揺らめく巨大な都市が見えてきた。
「…見えてきたじゃん。ソルダート王国の首都、『オアシス』」
城壁も塔も宮殿も全てが太陽の光を反射して金色に輝いている。まるで巨大な金のインゴットで作られた悪趣味な蜃気楼。
美しい。でもその美しさは人の欲望を吸い尽くして咲いた毒の花みたいだった。
ウチはサンドゲイルの手綱を引き、その不気味なほどに美しい街を静かに見据えた。
「待ってなよね、『強欲』クン。アンタが貯め込んだモン、利子つけて根こそぎいただいちゃうかんね」




