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第二十二話:喰われる世界

Scene.91 神速の前菜


戦いの火蓋は切って落とされた。

ウチはレベル99の全能力を解放。神速の踏み込みで目の前の少年へと肉薄した。


「神速無双剣舞!」


音速を超えた斬撃の嵐が少年に襲いかかる。

大気を切り裂き空間そのものを歪ませるほどの無数の斬撃。

だが…


「わ、おいしそうな光だね」


少年はぱかりと無邪気に口を開けた。

その瞬間ウチの剣がまるで分厚いゼリーにでも突っ込んだみたいにピタリと空中で停止した。

ウチの剣に込めた闘気も剣自体が持つ魔力も、その全ての攻撃という概念が少年の小さな口の中に吸い込まれて消えていく。


「なっ…!?」


ウチは呆然とした。

ウチの最強の技がただの一口で喰われた。



Scene.92 神聖なるデザート


「お姉ちゃん!」


後方からエリナの絶叫が響く。

彼女はその小さな体にありったけの魔力を集約させていた。

レベル99の聖女が放つ究極魔法。


「星の光よ、全てを浄化しなさい! 《サンクチュアリ・ノヴァ》!」


極大の神聖なる光の奔流が少年へと突き刺さる。

だがそれすらも。


「あーん」


少年はその光の奔流をまるでマシュマロでも食べるかのようにぺろりと平らげてしまった。

そしてもぐもぐと口を動かし感想を言う。


「ん、ちょっと神聖すぎて味が薄いかな。でもなかなか良い食感だね」


少年はそこで、にこっと笑った。


「あ、そうだ。ボクはベルゼ。よろしくね、食材さんたち」



Scene.93 絶対的捕食者


手も足も出ない。

レベルとかステータスとかそんな次元の話じゃない。

こいつの能力はもっと根源的で絶対的だ。あらゆるエネルギー物理法則魔力概念すらも“喰らう”ことができる。

ウチらがどんなに強力な攻撃を放ってもそれはこいつにとってただの“食事”にしかならない。


「く…そ…!」


それどころかウチらの体から魔力や生命力そのものが吸い取られていく。

あっという間にウチらはその場に膝をついた。

レベル99の英雄がまるで赤子のように完膚なきまでに叩きのめされた。



Scene.94 未熟な果実


ベルゼは前菜を食べ終えたくらいの顔でウチらを見下ろした。

殺意も敵意もない。ただ品定めをするような美食家の目をしている。

まず少年はエリナを見た。


「キミはとっても美味しそうだ。星の味がする。でもねまだ『熟れて』ないや。もっともっとたくさんの経験と感情を吸って甘くならないとボクのお口には合わないかな」


次にウチを見た。


「キミはスパイスが強すぎる。怒りと憎しみと復讐の味。すっごく刺激的だけどこれだけ先に食べちゃうとメインディッシュの味が分からなくなっちゃう」


メインディッシュ…?

ウチとエリナが前菜…?

ベルゼは満足そうににっこりと笑った。


「『空腹』は最高のソースでしょ?」


「もっともっとこの世界が絶望して悲鳴をあげて恐怖に飢えて渇いて…。最高のフルコースディナーになった頃にまた会おうね」


それだけ言うとベルゼは自分の体を自分でぺろりと舐め尽くすようにしてその場から消え去った。

後にはウチとエリナ、そして絶対的な敗北感だけが残された。


レベル99。人間の限界。

それがなんだって言うんだ。

ウチらはあの化け物にとってまだ食卓に並ぶ価値すらない青臭い果実でしかなかった。

初めて心の底から恐怖した。

この戦い本当に勝てるのかな…?

ウチの拳が屈辱にギリと音を立てた。

世界はまだまだ広がります。

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