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第二十一話:飢餓の匂い

Scene.87 英雄の帰還


ウチらは英雄として精霊の国アルベリアの港町シルヴァンに帰還した。

船が港に着くとそこには信じられないくらいの数の人々が集まっていた。ウチらが街を救ったエルフの衛兵たち、パン屋のドワーフの親父、獣人の子供たち。みんながウチらの名前を叫び、歓声を上げている。


「莉央様!エリナ様!お帰りなさい!」


あの石頭だった衛兵隊長が深々と頭を下げてウチらを出迎えた。マジで気分がいい。



Scene.88 次なる一手


ギルドの奥にウチらのために用意された作戦室でウチは大陸の地図を広げた。


「さて、と」


ウチは聖樹のある大陸の中心部を指でなぞる。


「聖樹様の話じゃ、この大陸に少なくとも『強欲』と『色欲』の二匹がいるってことだったよね」


「はい…。聖樹様を直接蝕んでいる元凶です」


「魔王もムカつくけど、まずはエリナっちの実家を荒らしてるこいつらから掃除するのが筋ってもんじゃん?」


「どっかに手がかりないかなー」


ウチらはギルドに集まる高レベルの依頼の中から、その二匹に繋がりそうな不自然な事件を探し出す。それがウチらの新しい仕事になった。



Scene.89 豊穣の神殿


数週間後ウチらは一つの依頼に目をつけた。


『南の密林地帯に古代の“豊穣の神殿”が湖から姿を現した。しかし神殿に近づいた調査隊は原因不明の“飢餓感”に襲われ仲間同士で食い合いを始める寸前で逃げ帰ってきた。周辺の森は急速に生命力を失っている』


「…ビンゴじゃん。これ以上ないくらい臭いんですけど」


ウチらは依頼を受けるとすぐさま密林地帯へと飛んだ。

現場は想像以上に酷かった。緑豊かなはずのジャングルはまるで全ての養分を吸い尽くされたみたいに茶色く枯れ果てていた。動物たちは共食いを繰り返した果てに骨だけになって転がっている。不気味なほど静かだった。


そしてその中心に古代遺跡…豊穣の神殿はあった。

神殿の中はもっと地獄だった。壁画に描かれた人々に恵みを与える優しい神の顔は何かで引っ掻かれて飢えに苦しむ亡者のような表情に変えられている。祭壇には腐りかけの魔物の死骸が食い散らかされた状態で山積みになっていた。

鼻を突く腐臭と魂が凍るような絶対的な飢餓の匂い。


そしてその死体の山の頂上に“ソイツ”はいた。



Scene.90 『暴食』との遭遇


見た目は10歳くらいの無邪気な少年だった。真っ白な服にふわふわの金髪。祭壇にちょこんと座りまるで果物でも食べるように魔物の心臓をちゅーちゅーと啜っていた。


(…なんだ?この、ガキ…。こんな地獄みたいな場所で平然と魔物の心臓食ってる。…人間じゃない。でも、魔族とも違う。…こいつがこの惨状の元凶…?)


ウチらが部屋に入ってきたことに気づくと少年はにっこりと子供らしい笑顔を浮かべた。


「あれぇ?お客さん?ごめんね、今お食事中なんだ。何かおいしいものでも持ってきてくれたの?」


その純粋無垢な瞳の奥に宇宙そのものを飲み干してしまいそうな底なしの飢餓が渦巻いている。


「…キミがやったの?この森を枯らしたのは」


「え?うーん、そうかも。ボクがここにいたら周りのものが勝手にお腹に入ってきちゃうんだ。ボクはただお腹が空いてるだけだよ?」


話が通じない。こいつは善悪とかそういう次元で生きていない。ただ純粋な“食欲”の化身なんだ。

その瞬間ウチは確信した。


(この底なしの飢餓感…。…こいつ、まさか…。聖樹が言ってたのとは別の…。七つの大罪の一人…!)


「エリナっち、下がりな」


ウチは愛剣『星屑』を抜き放った。


「…こいつは、ウチがやる」


「はい…!お姉ちゃん、気をつけて!」


レベル99の全能力を解放しウチは神速の踏み込みで目の前の少年…『暴食』の魔人へと肉薄した。

戦いの火蓋が切って落とされた。


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