第二話:最初の仲間
Scene.6 冒険者ギルド? ウケるし
ウチが辿り着いたのはクロスロードっていう、まあ、フツーの宿場町だった。 情報収集しなきゃだし、とりあえず冒険者ギルドってとこ行ってみるっしょ! 扉を開けると、うわ男くさっ! 中にいたむさ苦しいおじさんたちの視線が一斉にウチに突き刺さる。ま、このイケてるウチが登場すりゃそーなるよね!
ウチはそんな視線はガン無視で受付カウンターへと向かった。
「すいませーん、登録したいんですけどー」
「…ここは遊び場ではありません。あなたのようなお嬢様が来るところでは…」
メガネをかけた真面目そうな受付嬢がマニュアル通りの塩対応。 ウチは溜息をつくとカウンターに身を乗り出して、そのメガネの奥の瞳を色っぽく覗き込んだ。
「へぇ、お堅いお姉さん、キライじゃないよ? てかウチ、結構強いんだけどなー。見た目で判断しちゃダメじゃん?」
【スキル:ギャルのカリスマ】
ウチがウィンクすると受付嬢の頬が一瞬赤くなった。でも彼女はすぐに表情を引き締める。
「とにかくダメなものはダメです!」
「んもー、分からず屋なんだから」
ウチは今度は笑みを消した。
そして氷のように冷たい視線で彼女の魂の奥をチラッと覗いてやる。ほんの一瞬だけ【絶対支配】の圧をかけてあげた。
「…もう一回言ってみなよ。…ダメだって」
「ひっ…!? も、も、申し訳ございませんっ! すぐに登録の手続きをいたします!」
「最初からそー言ってくれればいいじゃんね!」
ウチは一番下のFランク冒険者、『莉央』として登録を済ませた。目立つのめんどいし。
Scene.7 酒場の雑魚ども
ギルドの隣の酒場でご飯を食べてると、案の定めんどくさいのが絡んできた。三人組。
「よぉ嬢ちゃん! いい飲みっぷりじゃん! そのおっぱいも最高だね!」
リーダー格の汚いヒゲ面の男が下品な笑いを浮かべる。 ウチはジョッキを置くと、にっこり天使の笑顔を作ってあげた。そしてわざとテーブルに身を乗り出し、豊かな胸の谷間を見せつけてやる。
「えー、マジで? よく見てんじゃん。そんなに好き?」
「お、おう…!」
「てかさ、『おっぱい』って言葉、ちょーダサくない? もっとイケてる言い方、知らない感じ? …ま、いっか」
ウチの嘲笑とも憐憫ともつかない言葉に、男たちの顔が一瞬で怒りに染まる。
「…なんだとてめぇ…!」
激昂した男たちが襲いかかってきた。 ウチは「やれやれ」って感じで溜息一つ。 振り下ろされる拳をひらりとかわし、男の足元にジョッキのビールをぶちまける。 男はそれに足を滑らせて仲間を巻き込み派手にすっ転んだ。ちょーウケるんですけど。
ウチは立ち上がるとリーダー格の男の前にしゃがみ込んだ。そしてその喉元にピンヒールのつま先をそっと添えてあげる。
「ひっ…!」
ウチはその耳元で甘く囁いてあげた。
「ほら、見たかったんでしょ?」
ウチは少しだけマイクロミニの裾を持ち上げて、一瞬だけその先の景色を見せてやる。 男の目が見開かれた。
「これがアンタが一生頑張っても絶対手に入らないやーつ。目に焼き付けといたら?」
「…で、満足したならもうどっか行ってくんない? マジ、ウチご飯の途中だし。空気読んでほしいな」
ウチが足をどけると男たちは這うようにして酒場から逃げていった。 ウチは何事もなかったかのように食事を再開した。 この日クロスロードの街で、奇妙な噂が流れ始めた。…らしい。
Scene.8 最初の仲間
街での暮らしにも飽きてきた頃。 ウチは気まぐれに、森の薬草採集っていうちょー地味な依頼を受けてみた。 たまにはそーいうのもチルくていいじゃん? 森の中で鼻歌まじりに薬草を摘んでいた、その帰り道だった。 森の奥から子供の悲鳴が聞こえたのは。
(うわ、めんどくさ…)
一度はスルーしようと思った。でもその悲鳴がなんか耳に残って、ウチの足を止めやがった。 ウチが駆けつけた先では小さな女の子が数匹の魔物の狼に囲まれて震えていた。
ウチは舌打ちすると狼の群れに斬りかかった。 数分後。 狼の死体の山の中でウチはまだ震えが止まらない少女に向き直った。
「…立てる? ガキんちょ」
「あ…ありがとうございます…」
少女は怯えた瞳でウチを見上げている。フリルのついた白いワンピース。金色のふわふわの髪。
「名前は?」
「…それが分かりません。気づいたらこの森に一人で…。何も思い出せないんです…」
「記憶喪失とかマジ? ちょーめんどくさいじゃん」
ウチはその場を立ち去ろうとした。でも少女はウチの服の裾をギュッと掴んだ。
「お、お願いです…! 一緒に連れて行ってください…! 独りは嫌です…!」
その言葉にウチの胸の奥がチクリと痛んだ。 …独り。 そうだ。ウチもずっと独りだったじゃん。
「…はぁ。しょーがないなー」
ウチはその小さな手を振り払うことはできなかった。
「名前がないと不便でしょ。…んー…」
ウチは少女の顔をじっと見た。なぜかその名前がすっと頭に浮かんだ。
…『エリナ』
「え…?」
「今日からアンタはエリナ。文句ある?」
ウチがそう言うと少女は一瞬きょとんとした後、その顔をパァッと輝かせた。
「エリナ…! はいっ! 素敵な名前です! ありがとうございます!」
少女…エリナは嬉そうに笑った。ウチは照れ隠しにそっぽを向いた。
「足手まといになったらソッコーで置いてくかんね。覚悟しときなよ」
「! はいっ!」
こうしてウチの異世界での初めての仲間ができた。 ウチの長くてマジでちょー大変な旅の始まりだった。