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第百十六話:あたらしい世界

Scene.452 新しい生命


2026年。東京都世田谷区のとある病院。

産声が響き渡る。

分娩室の隣の待合室で、まだ若い父親が落ち着きなく歩き回っていた。

やがて扉が開き助産師が顔を出す。


「おめでとうございます!元気な女の子ですよ」


男はその言葉に顔をくしゃくしゃにして喜んだ。


数時間後。

病室のベッドの上で汗だくの母親がその腕に小さな赤ん坊を抱いている。


挿絵(By みてみん)


その母親の顔はどこかこの世の者とは思えないほど美しく、そしてそのノーテンキな笑顔は天上の女神を彷彿とさせた。


「見て、あなた。私たちの宝物よ」


「ああ…!」


父親はその小さな赤ん坊の指にそっと触れた。


「名前、決めたかい?」


「ええ。…『莉央りお』」


母親は愛おしそうに赤ん坊の頬を撫でた。


「この子が自分のことを大好きになって、満開の花のように笑える人生を送れますようにって」


「…いい名前だ」


夫婦は微笑み合った。

その腕の中で赤ん坊はすやすやと眠っている。

どんな戦いも苦しみも知らない、穏やかな寝顔だった。



Scene.453 母の日のプレゼント


そして7年の月日が流れた。


小学校の校門から元気よく一人の女の子が飛び出してきた。

ピカピカの赤いランドセルを背負った銀髪の女の子。


「ママ!」


彼女は門の前で待っていた母親に駆け寄る。

その母親は7年前と変わらず美しく、その優しい笑顔はやはりどこか神々しかった。


「見て見てママ!今日は母の日なんだよ!」


挿絵(By みてみん)


女の子…莉央はそう言うとランドセルから一枚の画用紙を取り出した。


そこにはクレヨンで一生懸命描かれた母親の似顔絵。

『だいすきなママへ』と拙い文字が添えられている。


「まぁ上手に描けたじゃない」


「でしょー!」


母親がその絵を受け取り、楽しそうに眺める。


「あらでもママこんな面白い顔してる〜?」


「もう!ママの意地悪!」


莉央はぷくーっと頬を膨らせた。


「樹里ちゃんも上手だって言ってくれたもん!」


「はいはい、ごめんね」


母親はそう言って少しスネた娘の頭を優しく撫でた。


何気ない親子のやり取り。

どこにでもある平和で幸せな光景。


そしてその母親の似顔絵の横には、莉央が付け加えたのであろう小さな落書きがあった。


星の飾りがついた白い服を着て優しく微笑んでいる女の子。

赤い服を着て少しキリッとした顔の、なんだかちょっと耳の長い女の子。


莉央には時々見える不思議な友達。

いつも彼女のそばにいて彼女を見守ってくれている二人のお姉ちゃん。


少女は知らない。

その三人がかつて世界を救った最強の英雄だったことなど。

彼女にはもうその記憶も力もない。

だがその魂の一番奥深くには。

嵐のような人生を駆け抜け世界を救い、そしてかけがえのない仲間たちを心の底から愛した一人の女の物語が確かに息づいている。

彼女の二度目の人生は、きっとたくさんの笑顔と温かい思い出で満たされるだろう。


…もう彼女は独りではないのだから。



Scene.454 救世の祝日


あれから10年の月日が流れた。


莉央がその存在と引き換えに世界を救ったあの日。

『再創世の日』と名付けられたその日は世界の公式な祝日となった。

かつて各種族がいがみ合っていた歴史は終わりを告げ、莉央が遺した絆を元に『世界連合』が組織された。


そして10年目の節目を迎える今日。

世界中のあらゆる国で盛大な祭りが催されていた。


砂漠の国ソルダートではザハラが率いるパレードが街を練り歩く。

ドワーフの都では莉央の破天荒な銅像の前に、大量の酒樽が捧げられている。

人々は歌い踊り語り継がれる英雄の歌に耳を傾け、この平和な時代を心の底から楽しんでいた。


その祝祭の中心地は聖樹エリュシオン。

世界連合の本部が置かれたこの場所には、世界中から何十万という人々が集まっていた。

その中心の式典台の上に、10年前世界を救った二人の英雄が立っていた。



Scene.455 二人の英雄


一人はエリナ。

かつての聖女は今や星の民の女王であり世界連合の最高司祭となっていた。

少女の面影は残しながらもその佇まいは神々しいまでに気高く美しい。その慈愛に満ちた微笑みは見る者全ての心を癒す。

彼女は集まった群衆に静かに語りかけた。

莉央が教えてくれた「選択の自由」の尊さを。そして未来への希望を。


もう一人はリラ。

『紅月』は今や『霜炎の賢者』と呼ばれ、世界連合軍の総司令官の地位にあった。

その赤い瞳はかつての激情の代わりに、全てを見通す冷静な叡智を宿している。

彼女は力強く語りかけた。

この平和を守り抜くための覚悟を。そして莉央という英雄を決して忘れないという誓いを。


二人の演説は世界中に中継され、人々の胸を熱くした。



Scene.456 星空への献杯


夜も更け祭りの喧騒が遠のいた頃。

エリナとリラは二人きりで聖樹の根元にある莉央の小さな慰霊碑の前に座っていた。

そこには今もあの白い羽根が大切に祀られている。

二人は極上のワインをグラスに注ぎ静かに献杯した。


挿絵(By みてみん)


「…あの方は本当に最初から最後まで、手のかかるお方でしたわね」


「ふふっ…。でも本当に温かい太陽のような人でした」


二人は思い出話を始めた。

莉央の破天荒な戦いぶり。下品な冗談。そして時折見せる不器用な優しさ。

思い出は尽きることがなく、二人の笑い声が静かな聖域に響き渡った。


やがて二人は立ち上がると満天の星空を見上げた。


この世界の三つの月と無数の星々がキラキラと輝いている。


「見ていますか莉央様」


リラが静かに語りかける。


「あなたが守った世界です。…あなたの剣である誇りは、今もこの胸にありますわ」


「お姉ちゃん…」


エリナが続く。その瞳には涙が浮かんでいた。


「私たちは元気です。みんな元気でやっています。あなたが与えてくれたこの未来を今精一杯生きています」


「だから…」


「「…ありがとう…」」


二人の想いが一つになったその瞬間。

夜空を、一筋ひときわ強く美しい流れ星が流れていった。

まるで彼女たちの声に応えるかのように。

二人はその光の軌跡を見つめて微笑んだ。

涙に濡れた最高に美しい笑顔で。


「…届いているんですね」


「…ええ。きっと」


彼女たちの物語もまた続いていく。

莉央という太陽に照らされたこの新しい世界で。


ずっとずっと先まで。


fin


挿絵(By みてみん)

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

莉央たちの再起、絆と成長の物語。いかがだったでしょうか。書きながらちょっとうるうるしてしまいました。


自分が読む側に立った時、やっぱり一気に読みたいので、がんばって一気に仕上げたものの、なろうのシステム上、その分あまり人目につかず埋もれてしまいました。


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ご評価・ブックマーク、ぜひお願いしまーす。


挿絵(By みてみん)

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