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第百七話:世界が動く時

Scene.415 残された二人の戦い


莉央が、たった一人で最後の旅へと姿を消したあの日。

聖樹エリュシオンの聖域にはエリナとリラの二人が残されていた。

エリナは莉央が去っていった北の空をただ呆然と見つめていた。


「…行ってしまわれましたわね」


リラが静かに呟く。


「はい…。お姉ちゃんはいつだってそうです。一番辛くて一番大変なことを、全部一人で背負い込んで…」


エリナの目に涙が浮かぶ。

莉央は隠し通せていると思っているようだが、もう戻らない決意でいることなど、この2人にわからないはずがない。そして、それを止めることができないことも。


だが、リラはその赤い瞳に闘志の炎を宿していた。


「…ですが、我々はあの方のただの荷物ではありません」


「私たちはあの方の『光』であり『剣』。…ならば我々も我々の戦いを始めなければ」


リラのその言葉にエリナははっとした顔で頷いた。

そうだ。ただ待っているだけじゃない。

莉央の帰る場所を守り、そして莉央と共に戦うための力を手に入れる。

それが残された二人にできる唯一のこと。

こうして彼女たちの三ヶ月に渡る「外交」という名の戦いが始まった。



Scene.416 外交パート①:砂漠の国の誓い


まず二人が向かったのは砂漠の国ソルダート。

リラの空間魔術でオアシスの城門の前に降り立った二人を街は熱狂的に歓迎した。

『白星』と『紅月』の帰還。

二人はすぐに評議会の議長となったブランと、国軍の最高司令官となったザハラの元へと通された。


「…最後の大罪『傲慢』との決戦。そのために莉央様はたった一人で旅立たれました」


評議会の席でリラは冷静に、しかし力強く事実を告げた。


「これは莉央様一人の戦いではありません。…この世界に生きる全ての者の戦いです。あなた方がその自由を取り戻せたのも莉央様の自己犠牲のおかげ。…今こそ、その恩を世界に返す時です」


だが評議会の議員たちは顔を曇らせた。

相手は最強の大罪。国を挙げて戦いを挑むにはあまりにもリスクが大きい。

その沈黙を破ったのはエリナだった。

彼女は一歩前に出ると、その場の全員に涙ながらに訴えかけた。


「お姉ちゃんはいつも悪態ばかりついて、自分はろくでなしだと笑います。でも、本当は誰よりも優しくて、誰よりも傷ついているのを私は知っています」


「彼女はきっと独りで死ぬつもりです。私たちを、この平和になった世界を守るために」


エリナの魂の叫び。


「…お願いです!どうか彼女を独りにしないでください!」


その言葉を聞いた瞬間。

ザハラがテーブルを拳で叩き割り立ち上がった。


「…当たり前だ」


その瞳には怒りの炎が宿っていた。


「あのバカがまた独りで無茶をしようというのなら、力づくで止めるまでだ!」


「全軍に告げろ!我らが解放者『黒狐』の名の下に、総力を挙げて北へ向かう!文句のあるヤツは私が斬る!」


ザハラのその言葉に、ブランもカイトもそして評議会の全員が立ち上がった。

ソルダートは莉央のために、世界のために、戦うことを決めた。



Scene.417 外交パート②:山脈のドワーフたち


ソルダート王国の全面的な協力を取り付けたエリナとリラ。

二人が次なる目的地として選んだのは北の『鉄牙山脈』。

かつて莉央が『獣将軍バエル』から解放したドワーフの国だった。

ドワーフたちは二人を英雄の仲間として歓迎した。

だが、彼らの王は頑固だった。


「我らは莉央殿に大いなる恩がある。だがそれはそれ。これはこれだ。我ら山の民が住み慣れたこの山を離れ、人間の戦に加わる義理はない」


リラの論理的な説得も、エリナの必死の願いも、分厚い石の扉のように閉ざされたドワーフの王の心には届かない。

交渉が決裂しかけたその時。

リラは一つの賭けに出た。


「…では王よ。私と勝負していただきたい」


「ほう?」


「もし私が、あなた方が誇る最強の戦士に勝ったなら、我らの話に耳を傾けていただきたい。…鍛冶の腕でも飲み比べでも結構ですわ」


そのあまりにも大胆不敵な申し出にドワーフたちはどっと沸いた。

そして数時間後。

リラはドワーフの最強の戦士をアームレスリングでねじ伏せ、国一番の大酒飲みを飲み比べで潰し、そして伝説の鍛冶師に


「莉央様への愛の熱意が足りませんわ!」


と説教を垂れて一本取っていた。


彼女のその常識外れの強さと覚悟に、ドワーフの王はついに折れた。


「…分かった。そこまであの『黒狐』に惚れ込んでいるのなら仕方あるまい。…我が国最強の『戦斧団』を貸そう。そして神殺しの武器も不眠不休で打ってやろう」


ドワーフたちはその無骨な心に火をつけられ、最後の戦いに加わることを誓った。



Scene.418 外交パート③:エルフの故郷


そして最後の難関。

リラは、エリナと共に自らが追放された故郷エルフの国へと向かった。

数百年の時を経て彼女が足を踏み入れた故郷は、リラを「一族の恥」として冷たく迎えた。

かつての許嫁の一族からは石を投げられ罵声を浴びせられる。

だがリラはもう昔の彼女ではなかった。

彼女は長老たちが集まる評議会の場で、たった一人頭を下げずに立った。


「私は過去の罪を許されに来たのではありません。あなた方に未来を選んでいただくために参りました」


彼女は語った。

七つの大罪のこと。世界の危機のこと。

そして莉央という不完全で破天荒で、だが誰よりも強い光を放つ人間の女のことを。


「私はかつてエルフとしての誇りを失いました。ですが今、私にはあの偉大なる方の『剣』であるという新しい誇りがある!」


「私はあなた方に許しを乞いません。ですがどうか、あなた方のその古き誇りを守るために、我々と共に戦っていただきたい!」


その魂の叫びは頑なだったエルフたちの心を確かに揺さぶった。

評議会の一番上座に座っていたリラの父親が、静かに立ち上がり言った。


「…見事な演説だった我が娘よ」


「…お前の新しい誇り。…この父にも見届けさせてくれ」


エルフの国はその最強の魔法弓兵部隊を派遣することを約束した。

リラはその時初めて故郷で涙を流した。



Scene.419 希望の軍勢


その噂は瞬く間に世界中を駆け巡った。

『黒狐』の仲間たちが、最後の戦いのために兵を集めていると。

ヴァニタスからは復興のための莫大な資金が。

アクアリアからは各国の兵を運ぶための大船団が。

名もなき街々のギルドからは腕利きの冒険者たちが。

莉央が救い、変えてきた全ての人々が今、彼女のために立ち上がった。

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