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第百五話:白い絶望

Scene.407 白い絶望


ルシエルの光の指がウチの額に触れた。

その瞬間。

世界が消えた。


ウチは純白の何もない無限の空間に独りで漂っていた。

音も匂いも重力もない。

暗闇に包まれる。


もうそれが一瞬なのか100年なのか何もわからない。

時間という概念すら失われた精神の牢獄。


やがてその白い無の中に一つの景色が浮かび上がった。


―――そこはウチが解放したはずの砂漠の国ソルダートだった。


だが街は炎上し人々は貧困に喘いでいる。


『お前のせいだ!』


ウチの目の前にザハラとブランの爺さんが立っていた。

その顔は憎悪と絶望に歪んでいる。


『お前がマモンを殺したせいで、この国の経済は完全に崩壊した!』


『マモンの強欲な支配の方がまだ秩序があった!お前はただ全てをめちゃくちゃにしただけだ!』


違う。ウチはそんなつもりじゃ…。


景色が変わる。

快楽都市ヴァニタス。だがそこは欲望が剥き出しになった犯罪と暴力が支配するスラム街へと変貌していた。


『偽りの幸福の方がよほど平和だった!お前が我々の心を奪ったんだ!』


ドワーフの都、ローリアの街…。

ウチが救ったはずの全ての人々が次々と現れウチを指差し罵倒する。

お前は英雄なんかじゃない。

ただの独りよがりの破壊者だと。

ウチは耳を塞ぎその場に蹲った。

違う、違う、違う…!



Scene.408 最後の拒絶


そのウチの目の前に、一番会いたくて一番会いたくなかった二人の姿が現れた。

エリナとリラ。


「…お姉ちゃん」


エリナが悲しそうな瞳でウチを見ている。


「ごめんなさい。…もうあなたの怒りと悲しみを見ているのが辛いんです。あなたの隣にいると私の心まで黒く染まってしまいそうで…」


「私たちは、あなたという嵐から解放されたいのです」


リラが氷のように冷たい声で言った。


「私は強大な力に仕えることを誓いました。ですが、今のあなた様はただ自分の感情に振り回されるだけの弱者。…私の忠誠を捧げるに値しません。私はもっと完璧な主を探します」


「…さようなら、莉央様」


二人はウチに背を向けた。


「待って…!」


ウチは手を伸ばす。


「待ってよ…!行かないで…!独りにしないで…!」


だけどその声は届かない。

二人の姿はゆっくりと白い光の中に消えていった。


―――そしてウチは独りになった。

魂ごと凍りつくような絶対的な孤独の中で。



Scene.409 白い闇の中で


更に永遠にも思える白い闇は続く。


ウチは独りだった。


エリナとリラが去っていった方向をただ呆然と見つめることしかできない。

ウチの全てだった。

あの二人はウチがこのクソみたいな世界で唯一信じられる光だった。

その光にまで見捨てられた。


『…見たか』


ルシエルの声が脳内に響く。


『それこそが真実だ。お前は愛する者すら不幸にする疫病神よ』


違う。

そんなことないって叫びたい。

でも声が出ない。

本当にそうなのかもしれないって思ってしまったから。


そのウチの絶望の淵に。

最後の幻影が現れた。

ウチがこの手で殺したたった一人の親友。


樹里。


だが、その姿はウチが死の淵で見たあの優しい幻じゃない。

ウチの心を殺したあの『嫉妬』の魔人の顔。

彼女はウチを心底軽蔑した目で見下ろしそして嘲笑った。


『…あんたが私を殺したんだ』



Scene.410 破壊者の烙印


「…ちが…」


違う。ウチはキミを救おうと…。


『うるさいな。言い訳すんなよ人殺し』


樹里の幻影はウチの罪を一つ一つ数え上げていく。


『あんたが強すぎたから私は歪んだ』


『あんたが私を甘やかしたから、私は一人じゃ何もできない弱い女になった』


『あんたが私の苦しみに気づかないフリして独りにしたから、私は『嫉妬』に魂を売った』


『そして、最後はあんたが私を殺した。…二度もね』


違う。違う。違う。

ウチの心が悲鳴を上げる。

だけど樹里の言葉は止まらない。


『あんたは救世主なんかじゃない。…ただの疫病神だよ、莉央』


『あんたが関わるもの全てを、不幸にして壊すだけの破壊者だ』


ザハラも、ブランも、オリオンも、ベルも、ベルゼも。

エリナも、リラも。

そして私も。

全部全部あんたが壊したんだ。


その言葉はウチの魂に深く深く突き刺さった呪いの刃。

そうだ。そうだったのかもしれない。

ウチはただ自分のエゴと暴力で全てを引っ掻き回して壊してきただけ。


(…ウチなんて人の役に立てない)


(ウチは誰かを壊すだけの存在だ)


ウチの心がぽきりと音を立てて折れた。



Scene.411 無


幻影が消える。

ウチはまた白い無の空間に独りになった。

だけどもう孤独も悲しみも感じなかった。

何も感じない。

心が砕け散って消え失せたのだから。


ウチはもう自分が誰なのか。

なんなのか。

何もわからない。


ウチは莉央じゃない。

黒狐でも調停者でもない。

ただの名前のない空っぽの何か。

ただそこに蹲るだけの肉の塊。

ウチの瞳から全ての光が消えた。

不屈の魂も、神の力も、仲間への想いも、全て。


そして莉央は光を失った。

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