第一話:黒い転生者
Scene.1 人生マジ、コスパ悪すぎ
「はぁ〜マジだりぃ…。てか今日の客、キモすぎじゃない? シャンパン入れたくらいで彼氏ヅラとかマジウチら舐めすぎでしょ」
深夜2時過ぎの歌舞伎町。ギラついたネオンが濡れたアスファルトを照らす中、ウチ、莉央はヒールの音を響かせながらさっきまでいた店を後にした。 ショーウィンドウに映る自分をチラッと見る。日サロで焼き込んだ小麦色の肌に、綺麗に染め上げたシルバーアッシュの巻き髪。バサバサのつけまに跳ね上げたアイライン、キラキラのラメシャドウ。気合入れてデコったロングネイル。体にフィットした黒いキャバドレスから伸びる脚。…うん完璧。今日もウチ、ちょーイケてる。
同伴からの延長地獄コンボ、からのアフター断固拒否でやっと解放とかマジ卍。
「つーかお腹すいたし。コンビニでなんか買って帰ろっかな」
独りごちてスマホをいじりながら角を曲がった、その瞬間だった。
キィィィィィッ!!
「え?」
目の前にありえないスピードで突込んでくる黒い高級車。ヘッドライトがちょー眩しくて一瞬で視界が真っ白になった。
「うっそでしょ…」
ドンッ!!!
身体が宙に浮くっていうスローモーション体験、マジであるんだね。痛みとか感じるヒマもなかった。意識が途切れる最後の瞬間、頭に浮かんだのは
「あー昨日変えたばっかのネイル、剥げちゃうじゃん」
っていう、クソしょーもないことだった。
Scene.2 白ギャル女神?ウケる
「ん…」
次に目を開けた時、ウチは真っ白でキラキラな空間にいた。え、なにこれ天国?にしては趣味ギャルすぎじゃない?なんか全体的にデコりすぎ的な?
「おはよー! 目ぇ覚めた? 莉央っち!」
声がした方を見ると、そこにいたのはとんでもないスタイルの女だった。透き通るような白い肌にピンクの縦ロール、3Dアートてんこ盛りのネイル。そして透けまくりの布を体に巻き付けたみたいな格好で、デカいおっぱいは半分以上はみ出てるし、股間のとこなんて布面積ヤバくてソコの形がうっすらわかっちゃうレベル。
「…誰?てかそのカッコ、ウケんだけど。新手のプレイ?」
「ちょ、失礼すぎ! アタシは女神のルナ様! アンタを異世界に転生させに来てあげたの。感謝してよねっ!」
女…いやルナ様とやらは腰に当ててぷんすかしてる。そのせいで、おっぱいがぷるんって揺れてマジ目のやり場に困るんですけどー。
「は? 異世界転生? なにそれ流行ってんの?」
「そーそー! アンタさっき死んだでしょ? ま、キミみたいな世界の理からバグって外れちまう魂は、たまーにいるんだけどね?その中でも莉央っちの魂はちょー黒光りしててマジ極上ってワケ!ウケるよね!」
「勝手に殺して勝手に品定めしないでほしいんですけど。てかウチを轢いたあのクソ車は?」
「あーアレね。どっかの社長だっけ? ま、ドラッグキメてたみたいだし因果応報的な? でも心配いらないし!ちゃんと地獄に堕としといたから! あ、莉央っちのは別ね! キミはちょー特別!」
ルナ様はウィンクしながらウチの肩を馴れ馴れしく抱いてきた。いい匂いするな、この白ギャル神。
Scene.3 契約とチート能力
「んで? 特別って何? ウチなんかいいことしたっけ? 毎日酒飲んで男転がしてただけなんですけど」
「そこ!そこがいいんじゃん! キミの魂ちょー黒光りしてんの! キレイなだけの魂とかマジつまんないし! 濁ってて強欲で自分の欲望に正直! そーいうのがアタシの世界には必要なワケ!」
めっちゃ褒められてんだけど、内容が全然褒め言葉じゃない的な?
「アタシが管理してる世界『ヴェルガリア』、今マジヤバくてさ。魔王とかが復活して人類マジぴえんこえてぱおん状態なの。そこにキミを勇者として送り込みたいわけ!」
「は? 勇者? ウチが? 無理に決まってんじゃん。正義とか1ミリも興味ないんですけど」
「だーかーらキミがいいの! ブラックヒーロー的な? 自分の欲望のために世界引っ掻き回しちゃってばもう誰にも何も奪われたりしない」
「…いいじゃん。その話、乗った」
ウチは不敵に笑った。つまんない現実世界よりよっぽど面白そうだし。
「決まりだね! じゃ早速転生させちゃうから! あ、ボディはアタシ好みの最強エロかわボディにしといてあげたから!」
「当然だし!どんな世界か知らないけど…全部ウチの色に染め上げちゃうかんね!」
光に包まれながらウチの意識は途切れた。
Scene.4 異世界デビュー
次にウチが目を覚ました時、そこは見知らぬ森の中だった。 木の葉の擦れる音、土の匂い、頬を撫でる生ぬるい風。 ウチはゆっくりと体を起こした。 …体が軽い。てかマジ肌のコンディション最高すぎない? ウチは自分の手足を見た。傷一つない完璧な肌。胸も心なしか前よりハリとボリュームがアップしてる気がする。肌の色は元の世界で大事に焼き込んできた健康的な小麦色で、髪の色も綺麗なシルバーアッシュのまま。うん完璧に再現されてる。ちょーイイ感じじゃん。あのギャル神いい仕事するじゃん。 ウチは心の中で「ステータス」って唱えてみた。
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名前:莉央
種族:人族(女神の寵愛を受けし者)
レベル:1
HP:150/150
MP:300/300
【スキル】
・絶対支配: 目を合わせた対象の精神を完全に掌握し、命令を強制する。
・女神の加護(小): 状態異常への耐性。幸運値の微量補正。
・ギャルのカリスマ: 言動が自然と相手を惹きつける。
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「…うわマジじゃん」
ウチはニヤリと笑った。 最強のスキルと最高のボディ。人生イージーモードの始まりじゃん!
Scene.5 初めてのリメイク
森を抜けて街道に出たウチは早速金策に取り掛かった。 目の前を通りかかる金持ちそうな商人の馬車。ウチはその前に飛び出すと、わざと悲しげな顔で馬車の主人に助けを求めた。
「旅の方ですか、お嬢さん。どうなさいました?」
「…助けてください…」
ウチは潤んだ瞳で商人の目をじっと見つめる。そして心の中で命じた。
(――― 有り金全部ウチにちょーだい)
「は、はい…! 喜んで…!」
商人とその護衛たちはまるで操り人形のように、金貨の入った袋と上等な二本の剣をウチの前に差し出した。ついでに荷馬車に積んであった一番マシな黒革のチュニックと黒いロングスカート、それにゴツい革のブーツも貰っとく。
「サンキュー! じゃあね!」
ウチはその場で戦利品を確認した。剣と金はいい。問題はこの服と靴だ。
「…うわ、ちょーダサいんですけど…」
手に入れたのは機能性だけを重視した、色気も可愛げもゼロのただの作業着。
「これとかマジありえなくない?ウケる。…しょーがないなー、ウチが今から最強にイケてる服にリメイクしたげる!」
ウチは手に入れたばかりの剣を一本抜き放つ。そしてその鋭い切っ先を器用に使い、自分の新しい服を“リメイク”し始めた。 まず黒いロングスカート。その裾を太ももの付け根あたりでざっくりと斜めにカットする。脚長効果ヤバくない?あっという間にアシンメトリーの超マイクロミニが完成。 次に黒革のチュニック。体のラインが綺麗に出るように両サイドに切れ込みを入れ、余ったスカートの布を紐状にしてクロスに編み上げる。コルセット風のタイトなデザインに。 最後に中に着る麻のシャツ。袖を引きちぎって胸元を計算されたV字ラインでざっくりと切り開き、谷間を大胆にアピール。
「んで、問題はこのブーツ…」
ウチはそのゴツいブーツを剣で器用に削っていく。余計な装飾と革を削ぎ落としてつま先をシャープに整え、踵を高く削り出す。 数分後。ただの編み上げブーツはハードでセクシーなピンヒールのショートブーツへと生まれ変わっていた。
「…ん。ま、こんな感じっしょ」
数分後、ただのダサい村娘Aの服と靴は、ウチ流の全身黒の『エロカッコいい戦闘服』へと生まれ変わっていた。これもウチの才能ってやつじゃん? ウチは満足げに頷くと、新しいコーデを完璧に着こなし、近くの街へと向かった。