7話 知識
こんにちは、あんなです!
結局、男が取り出していたものはなんだったんでしょう?
……えっ、まさか……―――?
もうだめだ――終わった――無理だ――お願いだから――やめて――……。
ルナの凍り付いた視線の先にあったのは、ミスター・Xが全員に配り始めた、自作の「テスト」だった。
(話、聞いておけばよかったな……)
猛烈に後悔しているが、それでどうこうなる話ではない。
「まあ、お前らにそこまで期待はしていない。二十点位が関の山だろう。話を聞いていたなら、九十点はとれるはずだが、まあ、期待はしてないからな」
あの口調だと、ちょっと期待しているらしい。ルナは愕然とした表情でテストを受け取った。
「話を真剣に聞きすぎて、疲れちゃったの」「人間界の歴史と混ざっちゃったわ」「エルフとエフリって名前が似ているわよね」……。
言い訳を考えながら、問題用紙をチラッと見た。
「一.セーゼッコ王の好物を述べよ」
(知るか! 知らんわ! セーゼッコ王の……好物なんて……知ってる……。私、知ってる。セイレーン肉だ)
ルナの頭の中に、その情報が明確に浮かんだ。セーゼッコ王は、セイレーンの肉が大好物で、絶滅させた罪で死刑になったが、セイレーンの血には不老不死の力があったので、首をはねられてもまだ生きていた。だから、牢屋に閉じ込められて、ずっと首の痛みと飢えに苦しんだ。結局、セイレーンは絶滅していなくて、わずかだが残っていた。
(……なんでわかるんだろう? 話なんか聞いていなかったのに)
それでも、確信がある。どうせ他の答えなんて思いつかないんだし、賭けてみようか。
ルナはペンを走らせた。
結局、ルナは全部わかってしまった。
合っているかどうかはわからないが、全百問中百問が確信のある答えを見つけることができた。
ドキドキしながら男に提出した時、表情は見えないが、一瞬、ミスター・Xの動きが固まった気がした。
「テストの採点が終わった。魔術を使ったので、おそらく間違いはないと思うが、採点ミスがあれば報告してくれ。ストロベリー、ジェームズ、ロジャー、レイヴン、……ルナ」
ミスター・Xは名前を呼びながら次々と、答案用紙を渡していく。
ルナの時だけ、渡すのを少し躊躇った気がしたが、気のせいだろうか。不安に思いながら、答案用紙をめくった。
……あー、これはそうなるよね。
「百点満点……か」
ルナは小さく呟いた。全然嬉しくないのはなんでだろう? 自分でやった気がしないから? なんでわかったのかわからなくて不安だから? ミスター・Xの反応のせい?
「ルナ、何点だった?」
ルナはハッとして、ベリーを見る。
「私は六八点だったわ。ジェームズは四二点、ロジャーなんか、十二点だったのよ」
ベリーはクスクスとおかしそうに笑う。彼女の言葉に後ろめたさや躊躇いは少しも感じられない。本当に話を一生懸命聞いて、半分以上覚えたのだろう。
後ろではジェームズが、「非科学的だ!」「マリョクってなんだよ!」と叫んでいる。
嬉しそうに胸をはっていたベリーだが、ふいに顔を曇らせた。
「レイヴンは、百点だったわ。……私も早く、そうならないとね」
レイヴンには負けていることに、ベリーはちょっとしょんぼりしている。
(私も百点だった、なんて、口が裂けても絶対言えないな……)
「一回話を聞いただけで68点なんて、すごいわ。私なんて、〇点だったんだから。レイヴンは、ずっとここにいたから、歴史に詳しいのよね。私達もレイヴンを目指して頑張らなきゃ」
ルナの口から嘘がスラスラと出てきた。にっこり笑ってベリーを騙している。自分が予想以上に嘘をつくのが上手いことに軽く衝撃を受けた。
「……ええ、そうね。一緒に頑張りましょう!」
ベリーはグッと拳を握って、ルナの目を真っ直ぐ見る。その目はどこまでも真っ直ぐで、正直で、眩しかった。
いかがでしたか?
次話「8話 真夜中の魔術」お楽しみに! ブクマ、評価、コメント、リアクションもお待ちしています。




