六話 ファンタジア レルム
こんにちは、あんなです!
今回のルナは、泣きまくった直後で、ちょっと機嫌が悪いです。どうぞ、お楽しみください!
ルナは、部屋に入ってきた男を思いっ切り睨んだ。
「おいおい、部屋に入ってきたばかりなのに、いきなりなんだ」
ミスター・Xは呆れたように言った。
「わからない?」
ルナは食ってかかる。
「わかるはずがないだろうが」
「説明しなさいよ! 巨人や、魔術のことを!」
「それで、私のことをあんなに睨んでたのか?」
「そうよ?」
早く、というようにルナが布団を手でパフパフしたので、男は咳払いをして、話し始めた。
「巨人というのは、そういう種族だ」
「だろうね」
ルナが小さく口を挟む。
「身体が多いのが特徴で、もう一つ、大きな特徴がある。それは――視界が赤でいっぱいになると、極度の興奮状態になって、凶暴化することだ」
「えっ、つまり、赤しか見えないと、パニクって凶暴化するってこと?」
ルナはハッとした。確かにドラグラム帝国で赤い色はほとんど見なかったし、赤い服を着ている人は、一人もいなかった気がした。そして、自分が巨人に嫌な目で見られたのは、この赤毛のせいかと気づいた。
「ああ、まぁ、そういうことだ」
「あの巨人はどうして、視界が赤でいっぱいになったの?」
「お前のその赤毛だろう。レイヴンの報告によると、一緒に倒れてしまったそうだな。その時巨人は、ちょうど髪の毛のところに倒れてしまったから、赤い毛しか目に入らなくて、凶暴化したんだろう。不運なことだ。よりにもよって、こいつの髪の毛だなんて……」
皮肉っぽく鼻を鳴らすミスター・Xの言葉は、ルナの頭の中で何度も反芻された。
「………私の、せい……? 私のせいでみんなが危険な目にあったの?」
「落ち着け。あれはただの偶然だ。お前のせいじゃな――」
「私のせいに決まってるじゃない!」
ルナがいきなり出した大声に、みんなビクッとした。
「私がいなければ巨人は凶暴化なんてしなかったんでしょ? 私が、もしもロジャーやレイヴンのような黒髪だったら……もしもベリーのような金髪だったら、もしもジェームズのような茶髪だったら、みんなは危険な目に遭わなかったんだ! 私さえいなければ……」
目に涙が滲んでくる。ルナは髪をかきむしった。こんな毛、引き抜いてしまいたい。
「……ルナ、落ち着いて。私達、怒ってなんかいないわ。だって、ルナのおかげで巨人を倒せたんだから。逆に、感謝してるわ」
ベリーがそっと言ってくれた。他のみんなも頷いているが、誰が許そうが、自分が許せない。
「そんなわけない! だって、私……」
男がため息を吐いて、パチンと指を鳴らした。
(あれ? なんで私、わめいてるの?)
ルナは我に返った。
(よくわからないけど、まあいいか。そういえば、気になることがあるんだよね)
「私の手から光が放たれて、倒れてしまったのはなんでなの?」
「それに、目は赤くなってたし、髪の毛の色も変わってた」
ベリーがちょっと補足した。
「えっ……私、そんなことになってたの?」
「ええ」
確かに、視界に赤いフィルターがかかったみたいだったけれど、まさかそんな気持ち悪いことになっていたとは……としょげるルナを、みんなは慰めてくれた。
「結構、可愛かったわよ」
「うん。ああいうの、僕は好きだな、ルナ。僕は好きだ。僕は……」
ジェームズは無理やり言葉を繋ぐ。
「今はもう、治ったんだし」
ロジャーは簡潔だ。
「神秘的だったわ」
レイヴンはそう評価した。
だが、彼らの慰めには、どこか無理がある。
「ねぇ、私、魔術を使う度にそんな配色になっちゃうわけじゃないのよね?」
ルナがすがるように尋ねたが、返ってきたのは微妙な返事だった。
「今のところは、なんとも言えんな……」
ルナ達は今、この世界の歴史について教えてもらっているところだ。
ルナは正直、うんざりしていた。
(興味もない、役にも立たない、私とは関係のない昔の話なのに、どうして覚えないといけないの?)
ミスター・Xの言葉は、ほとんどルナの頭と耳を通り過ぎて、風にのってはるか遠くまで流されていく。
「――というわけだ……次は巨人の歴史について、説明しようと思うんだが、先ほど話した小鬼のアンバター国王の不倫戦争について何か質問がある者はいないか?」
みんなが黙っているので、ミスター・Xは話し始めた。
「昔、一万九千九百八十四年に、巨人とエルフと人間との間で歴史的な大戦争が勃発した」
ちなみに今は、二万二年らしい。
「元々は、エルフの国、シャスール王国で当時、王の座に座っていたダンナンカ王と、巨人の国、ドラグラム帝国の皇帝だったゴッツォーサン皇帝の間で起こった、娘自慢の小さな喧嘩だったそうだ……――」
ルナの頭の中を巡っている言葉は一つだけ。
(……暇だな)
「――……それで、ゴッツォーサン皇帝はどんどん追い詰められて、最後は自室のベランダにまで追い詰められたそうだ。国中が一望できる、皇帝のお気に入りの場所だった」
ちょうどいいところに追い詰めるもんだな、とルナは耳をほじりながら思った。
(鼻もかゆいから、ほじりたいけど、男の子もいるし、さすがにダメかな)
「ダンナンカ王は、三階からゴッツォーサン皇帝を蹴り落とした。高笑いしながらな。ゴッツォーサン皇帝が最後に願ったのは、もうすぐ死ぬ私の全てを国民に捧げたい――とかそんなものだ。それで、国で一番図体のデカいゴッツォーサン皇帝の全て――つまり、血肉、内臓、皮膚に眼球に、髪の毛や血管まで全て、国中にぶちまけられた。血や肉や、その他諸々グロテスクなものをかぶった国民達は、いつもならゴッツォーサン皇帝がニッコリと幸せそうに微笑みながら座っていたその椅子に、貪欲な笑みを浮かべたダンナンカ王が、どっかりと座っていることに気がついた。国民は、目に憎しみの炎を燃え上がらせながら、ダンナンカ王を潰しに行った……」
ミスター・Xは、凄惨な過去を淡々と語っていく。
「……わずかに生き残った巨人は、その中から、新たな王を選んだ。子どもを大量に産んで、種族を絶やさないのに必死だった。親子だろうが兄妹だろうが、性別が違えば一緒に子供を産んで育てた。わりと最近までそんな地獄が続いていたが、他の国からの応援もあって、ようやく立ち直ったんだ。だが今でも、その恐怖心が心の片隅には残っている。赤色を見ると、前王や敵や仲間の血を思い出すんだ……」
隣のベリーを見ると、泣いている。
「……そんな……悲しい過去が……グスン……あったなんて……」
ルナは腕時計をチラッと見た。話し始めて三時間経ったようだ。もっと経ったと思ったのに、時の流れとは不思議なものだ。
何気なく男を見ると、いつも身につけているローブの中から、恐ろしいものを出していた。
ルナの表情はピキリと凍った。




