2話 ドラグラム帝国
こんにちは、あんなです!
今回は、異世界をちょっと周ります。どうぞ、お楽しみください!
その後、僕も同い年、俺は十四歳、誕生日はいつ? と、少し話が弾み、ルナとベリー達との距離は、少しだけ縮まった。
(ハハッ、やったね! ……じゃなくて! 結局、あいつの名前もわからなかったし⋯⋯いや、名前なんてどうでもいい。脱出しなきゃ!)
ルナは逃げ出す決意を固めていたが、男が口にした言葉が気になって、決意は少し薄れてしまった。
「さてと。挨拶も終わったことだし、ドラグラム帝国へ行かなければ」
「は? ドラグラム帝国?」
「大きくて、愉快なところだぞ」
ルナは聞き返したが、ミスター・Xは意味不明なことを言ってポケットの中をまさぐった。目当てのものを見つけ、手をポケットから出した時には、その手に不思議なものが握られていた。ガラスペンのようなもので、まるで水でできているかのように、触ると波紋が広がる。自ら光を放っていて、とても綺麗だ。
「あの、なんでしょう、それは?」
ジェームズが恐る恐る、そっと聞く。
「魔術陣を描くための、魔力のペンだ。柔らかそうだが、描くときはシャンとしているぞ」
「原材料は何ですか?」
ジェームズが尋ねたが、
「魔力だ」
と、謎めいたことを答えると、男はそのペンで「魔術陣」らしきものを地面に書き始めた。三角形と三角形が重なり合い、丸をいくつか描いたと思えば、星形を一番上に、下には四角を描く。
なんか、クリスマスツリーみたいだな、と思っていたら、男がパンと手を打った。
「ひゃあっ!」
「うわっ!?」
「ぐあっ」
「きゃっ!」
ぐわっと地面が揺れて、床に倒れた。
ルナは、今までスムージーにしてきた野菜や果物に、心の中で謝った。きっとこんな感じだったのだろう――。
「……い……お…い……おーい、大丈夫か……?」
目の前で手が振られている。聞こえてくる声がだんだんハッキリする。
(……あれ、ここ、どこ?)
ルナは周りをすーっと見渡して、顔からすーっと血の気が引くのを感じた。
(……何、あの植物! 何、あの建物! 何なの、あのバカでかい生物は――!?)
「ミスター・X、アレ、何!?」
「巨人だ。ここはドラグラム帝国、巨人の国だ」
「巨人……?」
「よし、みんな目が覚めたようだし、行くぞ」
『どこに?』
ミスター・X以外のみんなの声がぴったりそろった。
建物は、小さめの山ほどの大きさ。歩く人々は、二階建ての家くらい大きい。ルナには、通り過ぎる度に、巨人が睨んでくる気がした。特に自分のことを。
ルナは、だんだんみじめな小人のような気分になってきた。みんなもそう感じているのか、周りをキョロキョロ見回しながら、泣きそうな顔になっている。
「ぬおおぉわーっ!!!」
突然、轟くような叫び声が聞こえてきて、ルナ達はギョッとした。しかし、他の巨人やミスター・Xはピクリともしていない。
恐る恐る声の方を見ると、巨人がダンボール箱に足を引っ掛けて転んでしまったようだ。
そんなに叫ぶようなことか? と思いつつ、ルナは視線を外した。
その時、ベリーが言った。
「ねえ、ルナ見て! あの人、全然立ち上がらないわ。どうしたのかしら……」
「えー、立ち上がらない? びっくりしただけじゃないの?」
と言いながら、振り返ったら、ベリーの言った通り、その巨人は全く立ち上がろうとしない。そのうち、通りすがりの巨人が慣れた手つきで立たせ、壁に立てかけた。その間も転んだ巨人は、少しも動かない。
さすがにおかしいと思って、男に聞いてみたら、こんな答えが返ってきた。
「よくあることだぞ、この国ではな。巨人の体内構造は、人間と全く違うんだ。足が心臓よりも上に来たら、五分ほど身動きが取れなくなる。……ほら、あの巨人も、もう動けるようになったようだぞ」
「あ、ホントだ……」
城を見たときのルナの感想は、「わぁ、世界最大の山」だった。
「入るぞ」
ミスター・Xが言った。
「あれに?」
とルナは、山のように大きな城を指差した。
「ああ。⋯⋯巨人や城をアレ何、とか言いながら指指すのはやめろ。巨人達から反感を買う」
反感を買う――一体どんなことをされるのだろう?
ルナが想像してブルブル震えていたら、ミスター・Xがルナの想像を遥かに超える、恐ろしいことを言ってくれた。
「巨人は本来おとなしいはずの生き物だが、自分の種族や城に誇りをもっているからな。無礼なことをしたら、✕✕✕を△△で■■■■されるからな」
「ひぇっ」
ルナは慌てて背筋を伸ばし、口を噤んだ。
その後も襟をいじったり、髪をなでつけようとしていたら、ミスター・Xに、そわそわするな、と言われた。
城は石造りで、思ったより護衛や召し使いのような人は少なかった。壁には彫刻が彫られ、時々絵が飾ってある。
威圧的で攻撃的だが、どこか美しくて、重々しい。
あちこちを見学しているうちに、皇帝がいる部屋に着いた。
ボディチェックがされ、ミスター・Xに注意された。
「いいか、よく聞け。エンペラーは、この国で一番強くてデカい巨人だ。あくまで皇帝は自分より上の存在。お前らは、質問されたときしか口を開くな。敬語を使い、言葉の最後には、必ず『陛下』とつけるんだ。頭を低くして静かにしてろ。そうしないと、✕✕✕を△△で■■■■されるからな」
「⋯⋯はい」
ドアが開けられ、ルナは息をのんだ。
その生物は、地球の産みの親かと思うほど大きくて、ごつくて、強そうで、偉そうだった。ゴテゴテと装飾品のついた腕を上げ、深い重みのある声で言った。
「誰だ……何の用で来た………」
「私は、エイドリアン・ストラ。魔術陣使用の許可をもとめに来た者です、陛下」
「魔術陣? ……どこに行くのかを述べよ」
「エルフの王国です、陛下」
「ふむ……。よろしい、許可を出してやろう……その、後ろにいる者達も一緒か?」
「はい、陛下」
「わかった。……下がれ」
「感謝します、陛下」
今、ルナ達は大きな建物と建物の間にいた。ミスター・Xが地面にせっせと魔術陣を描いている。
「あんたの名前ってさ、エイドリアンって言うんだな」
両手をポケットに突っ込んで壁にもたれかかっているロジャーが言ったら、男は顔を上げて、フンと鼻を鳴らした。
「あんなもの、ただの偽名だ。私の名前は、ジェームズ・ボンドだと言っただろう」
ルナは、まーだ言ってる、と呆れて目を回した。
だが、男は本当にイライラしているように言った。
「あのな、お前らは信じていないようだが、私の名前は本当にジェームズ・ボンドなんだよ。そっちの世界の、映画か小説の主人公だかなんだかと名前がかぶってるようだが、たまたまだ」
えっ? とルナ達は顔を見合わせた。
(名前がかぶってるから、偽名だって決めつけてたけど……本当なのかも……?)
ベリーがおずおずと男に尋ねる。
「でしたら、ミスター・ボンドで良いですか?」
「ああ、勝手にしてくれ」
男は、また魔術陣を書き始めた。
この男の名前はジェームズ・ボンドだ、という事実をなんとか理解して頭を切り替えて、ルナは、ちょっと前からずっと気になっていたことをジェームズ・ボンドに聞いてみることにした。
「⋯⋯ねえ、ヴェーナ様って、誰?」
「知らないのか?」
「私が知ってて当然のこと?」
「いや⋯⋯ヴェーナ様というのは、こっちの世界の童話のプリンセスだ。地球でいう、眠り姫のようなものだな⋯⋯よし、魔術陣が描けたぞ」
ルナは魔術陣をチラッと見た。さっきよりもずっと、複雑だ。堂々としていて、シャープな感じだ。
ルナはふと思い出した。
(あ、そういえば、転移する時って、めちゃくちゃ気持ち悪いんだっけ……)
どこかで、パン、と手を打つ音がした気がした。
「ボンドさぁん、勘弁してくださいよぉ……」
吐き気に呻きながらルナが文句を言うと、ボンドは肩をすくめて、仕方ないだろう、と言った。
「これ以外の移動方法だと、時間がかかるんだ。……あ、転移酔いなら数分でおさまるはずだ」
ルナが睨んでいるのに気づき、ボンドは少し付け足した。
後ろでは男の子達が、いつの間に仲良くなったのか、話している。
「……あいつと同じ名前なんだな」
「うぇ、そうなんだよ。僕のこと、これからジミーとでも呼んでくれないか」
ロジャーはニヤッと笑って「ああ、ジミー」と答えた。そして、赤い瞳をきらめかせ、身を乗り出す。
「なあお前さ、〇〇って知ってるか?」
「もちろん!」
ルナはベリーにススッと近寄って、話しかけた。
「ねえ、ベリー。ここ、すっごく素敵な所だと思わない?」
「ええ、とっても」
エルフの王国は、とてもキレイだ。建物も道も、キレイに掃除されていて、歩いている人達は、みんなスタイルが良くてオシャレ。
これから、どんなところに行くんだろう?
想像していたら、男の声がした。
「よーし、着いたぞ。中に入れ」
それは、ボロボロの小屋のようなもので、壁の大部分は削れているし、窓はもう、パッキャパキャだ。カーテンが閉めてあって、中は見えない。
どでかい穴があるというのに、ボンドはわざわざドアを開け、中に入った。
先に入ったジェームズとロジャーが驚いたように小さく声をあげた。
なんだろうと気になって私達もいそいそと中に入る。
「わお⋯⋯」
「これは⋯⋯」
中は意外なことに、とてもキレイで、広い。ちょっとじゃなくおかしいが、どうせまた、魔術だろう。
「おかえりなさい、ミスター」
声がした方に視線を向けると、女の子がいた。
「こいつは、レイヴン・グレース。自己紹介しろ、お前らの案内役だ」
いかがでしたか?
次話「3話 レイヴン・グレース」もお楽しみに!
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