18話 月光の道化
こんにちは、あんなです!
今回はノードを1つ破壊するのと、月光の道化が登場します。どうぞ、お楽しみください!
ルナは、青白い光を放つ通路を先に進んだ。通路の先には、円形の巨大な空間が広がっていた。
空間の中央には、古びた祭壇のような台座があり、その上に黒曜石でできた球体が脈動する青白い光を放ちながら浮遊している。これが、ルミナの領域を支える最初のノードだ。
「あれがノード……すごいエネルギーだ。破壊したら、何が起こるか予測できないよ」
ジェームズは思わずポカーンとしてしまった。
ロジャーは、周囲を鋭く警戒した。
「ジェスター。ノードを破壊したら、本当にルミナに場所が特定されるんだな?」
ジェスターが答える。
「当然だ。これは領域の悲鳴だよ。だが、逃げ場はない。さあ、女王様。最初の代償を支払うんだ」
ルナは、祭壇の前に進み出た。ノードから発せられる強大なエネルギーが、ルナの体内の深淵の力と共鳴し、呼応する。ルナの手のひらが、鈍い紫色に光り始めた。
ルナは、全ての想いと決意を右手に集中させ、黒曜石のノードへ向けて、深淵の力を一気に放出した――。
――キィィィンッッ!!
ノードは、悲鳴のような高音を発し、爆発的な光を放った。次の瞬間、黒曜石の球体は砕け散り、空間全体を激しい衝撃波が襲った。
ノードが破壊された直後、空間全体を覆っていた青白い光が一瞬で消え失せ、真っ暗になった。
「来た、領域の守護者だ」
ジェスターの声が響き終わる前に、闇の中から、閃光がルナ目掛けて飛来した。
「ルナ!」
ベリーがルナを突き飛ばし、閃光はベリーの肩を掠めた。ベリーは壁に激突し、苦悶の声を上げた。
「ベリー!!!」
ルナは咄嗟に手を伸ばしたが、当然ながら手は届かない。
代わりに、ロジャーが慌てて駆け寄った。
「ベリー、大丈夫か!」
「んぐぅ……」
闇の中に、1人の男が姿を現した。その男は、白銀の鎧に身を包み、冷たい光を放つ長剣を構えている。
「“深淵の器”よ。ルミナ様の領域に手出しをした罰を受けよ!」
男の剣が、意識を失いかけているベリーに振り下ろされる。
ルナの瞳の奥で、何かが弾けた。
「やめてぇぇぇぇぇえええ!!!」
ルナの叫びと共に、体内の魔力が全て爆発した。ルナの体から溢れ出す紫色のオーラが、真っ白な光を放つ月光へと変貌した。
「……来たか」
ジェスターはふう、と息をついた。
ルナの表情が一変した。普段の青い瞳は消え、絶対的な自信と無邪気な傲慢さに満ちた黄金色の瞳に変わる。
「あっはは!」
ルナは、7歳の子供のようにたどたどしく、しかし圧倒的な速さで剣を持つの男の前に移動した。
「この玩具は、あたしが遊ぶから、そこで黙って見ててね、サイラス。この世界の女王は、誰だか、教えてあげる」
ルナの全身から放たれる月の光のような、白いオーラは、空間を幻想的に照らした。ルナは、まるで新しい遊びを見つけた子供のように、楽しそうに笑った。
「な、何だ、この力は!?」
刺客は、長剣を構え、ルナに斬りかかった。
「アハハ! 遅い、遅い! そんな鈍い動きじゃ、遊びにならないよ!」
ルナは、刺客の剣が当たる直前、子供がスキップをするように軽やかに背後に移動した。そして、右手の指先から、月光のオーラを凝縮した、鋭い光のナイフを放った。
「バイバイ!」
月光のナイフは、無邪気な楽しさを帯びたルナの声とは裏腹に、冷酷に刺客の白銀の鎧を貫いた。
「ぐあぁっ!!」
刺客は崩れ落ち、ルナは、倒れた刺客を見下ろし、口元に指を当てた。
「……ふぅん。つまらなかったな。ルミナの玩具は、みんな脆すぎるのよ」
ベリーが苦しんでいて、その隣でロジャーがどうすればいいのかわからない、というように視線を動かしているのを見て、ルナは、面白そうなものを見つけたようにベリー達に近づいた。
「全く、お前は余計なことばかりするね。でも、お前が壊れちゃうと、ルナが悲しい顔をするから、直してあげるよ」
ルナは、ベリーの傷に手をかざした。月の光のようなオーラが、ベリーの傷を遊びのような手つきで優しく治癒していく。
ベリーがゆっくりと目を開ける。
「ル、ルナ……? ……あなた、誰?」
ベリーの問いに対し、ルナは、イタズラが成功した子供のような屈託のない笑みを浮かべた。
「フフフッ。あたしは、ルナの魔力。“夜の支配者”の本当の姿。あたしは……」
そこまで言うと、ルナはすっくと立ち上がり、完璧なピースサインを決めた。
「……月光の道化!」
その言葉を最後に、ルナの体を覆っていた白いオーラが急速に収縮し、ルナの瞳から黄金色が消え失せた。
ルナは、ガクンと力が抜け、ロジャーの胸に倒れ込んだ。
ルナは、ロジャーの胸で意識を取り戻した。
「ん、うぅん……」
ルナは、頭が割れるような痛みを感じ、ゆっくりと目を開いた。彼女の目の前に広がっていたのは、破片が散乱したノードの部屋と、心配そうに見つめるロジャーの顔だった。
「ロジャー……? わ、たし……」
ルナは言葉を探した。頭の中には、刺客を圧倒する自分の姿、そして、月光の道化の無邪気な笑い声が、断片的に残っている。
ベリーは興奮気味にまくしたてた。
「ルナ、覚えてる? もう1人のルナが、光る剣を持った男を、一瞬でやっつけちゃったんだよ! 子供みたいに笑ってね、私の傷を治したの!」
「ちょ、今思い出そうとしてるから、静かにして……」
ジェームズは、刺客の倒れている場所へ近づき、論理的な分析を始めた。
「あれはルナの力の暴走じゃない。自我を持った、もう1つの人格だ。しかも、あの治癒能力……ベリーの傷が、完全に消えている」
ジェームズは、スッと身体の向きを変え、ルナに対して問いを投げかけた。
「もう1人のルナは、月光の道化と名乗った。ルナは、それのことを知っているのかい?」
ルナは、わからない、と答えた。
「……でも、あれが“夜の支配者”の真の力なら……」
ルナの体が震え始めた。怪物になる恐怖が、再びルナを襲う。
「あんな力、私じゃない! ベリー達を傷つけるなんて……絶対に嫌!」
「おやおや、否定しても無駄だよ、女王様」
ジェスターは、崩れ落ちたノウズの破片の上で、優雅に立ち上がった。
「月光の道化は、君の心の最も深い場所、深淵そのものさ。力を使いすぎたことで、一時的に表へ出てきただけ。ルミナとの決戦までには、必ずまたお目にかかれるよ」
ルナの表情が絶望に染まった。怪物になる恐怖は、造られた器であるルナに常に付きまとう運命だった。
「じゃあ、どうするの!? 次のノードに行っても、またルナがああなっちゃうの!?」
ベリーがぴょこぴょこと不安そうに飛び跳ねた。
「簡単さ。君の衝動を鎮めればいい。月光の道化は、君の心が感情の極限に達した時に、安全装置として一時的に表へ出る。言わば、君の力の最終的なアウトプットだ」
ジェームズは、ジェスターの言葉を分析した。
「論理的に安全装置なら、暴走ではない。なら、そのスイッチが入らなくする方法はあるのか?」
「君達の真実の試練を乗り越えるためにルナが使った、最も重い力さ」
ジェスターは、ロジャーとルナを交互に見た。
「愛、だよ。君達が互いを信じ合い、ルナの心が『1人ではない』と確信し続ければ、“深淵の力”は衝動に走る必要がなくなる」
ルナは、ジェスターの言葉の意味を理解し、ベリー達の顔を見つめた。
「つまり……ベリー達だけが、私を止められるってこと?」
ロジャーは、1歩前に出た。相変わらず表情は乏しいが、赤い瞳が彼の強い決意を何よりも雄弁に語っていた。
「ああ。もし月光の道化とやらがまた出てきたら、俺達が、お前を正気に戻す。お前を1人で戦わせるなんて、絶対にしない」
「そうだよ! ルナが怪物になるなら、私達も一緒だよ!」
「チームの絆は、“深淵の器”にとって最強のバリアになるってわけだ」
ジェームズがウインクした。
ルナは、仲間達の言葉に安心し、再び立ち上がる。
「ありがとう。みんなと一緒なら、次のノードも、絶対余裕な気がするよ!」
ジェスターが、2本、指を立てた。
「素晴らしい。では、第2のノードへ向かおう。地図が示すのは、西にある、風の文明が築いた空中都市だよ」
いかがでしたか?
次話は「20話 空中都市」です。お楽しみに! ブクマ、評価、コメント、リアクションもお待ちしています。




