夜の女王と信者
こんにちは、あんなです!
今回は新キャラが登場します。どうぞ、お楽しみください!
ルミナが“月の支配者”だと断じた言葉は、ルナの頭の中でエンドレスにリピートしていた。それと同時に、学校の机や、クラスメートの顔や、ベリーと楽しく話したことも思い出していた。
(“夜の支配者”……? “月の支配者”……? そんなのになったら、私の生活はどうなるの?)
ルナの頭に、1人きりで王冠をかぶって、冷たく笑っている自分の姿が思い浮かんだ。
(そんなの、いやだ。私は私。女王なんかじゃない!)
普通の生活を奪われると思うと、目に涙が滲んでくる。
「感情的になるのは構わないが、現実は変わらないよ」
冷酷で、一切の感情を持たない声が、耳のすぐそばで響いた。ルナは反射的に涙を拭うことも忘れ、声の主――サイラスに視線を向けた。彼は、ルミナと同じように、ルナの絶望には何の関心も示していなかった。
「ルミナの準備が整ったら、君は負ける。勝ちたいなら、まずは彼女の光が届かない場所へ逃げることだ。転移陣を使えば地球へ行ける。だが、その座標は隠されている。お宝は二つだ。アダム・クローリーとレグルス・キング、彼らが“地図のピース”を持っている。早く探しな」
ルナは怒りで肩を震わせながら、サイラスを睨みつけた。こんな時までゲームみたいに話す彼に腹が立った。
「……わかったよ、サイラス・ジェスター。“地図のピース”でしょ? そいつらを見つければ、地球へ帰れるんでしょ? 女王様は、あんたのお宝探しゲームに付き合ってあげる。いいから、さっさと場所を教えなよ!」
ジェスターは、ルナの怒りのこもった目を少しも見ずに、愉快そうに笑った。
「おやおや、女王様はノリがいいね! ジェスターとしては、つまらない涙より、そのやる気の方がずっと嬉しいよ。……いいかい、最初のお宝はアダム・クローリーだ。彼はルミナが目を離した隙間で、今頃君の力を崇めているよ」
ジェスターの指示で、ルナ達は古びた石造りの建物の裏手に回り込んだ。ルナは振り返り、建物の影に隠れているベリー、ロジャー、ジェームズに目配せをした。「変なやつに会うかもしれないから、隠れてて」とルナが指示していたのだ。
ジェスターの後ろを歩いていたら、だんだん人通りが途絶えてきて、壁に苔が生えている、寂れた教会のようなところにたどり着いた。ルナは「まさかこんなところに……」と呟き、ジェスターを睨みつけた。
転移陣らしきものは、石盤のような見た目で、蔦に覆われている。その石盤のすぐ前に、一人の男がいた。男は薄汚れたローブを纏い、地面に両膝をついて、ルナ達の到着を待っていたかのように静かに頭を垂れていた。
「おいでになられた……!」
男――アダム・クローリーは、静かに顔を上げた。薄汚れたローブと、淡い金髪のコントラストが異様な印象を与える。その鮮やかな青い目は、ルナの顔ではなく、ルナの背後に見える闇の気配を狂信的に見つめていた。
「ああ、この世の真理、深淵の支配者様……ルナ様。この私が、貴女様を夜の真の王座へとお導きいたします。太陽の欺瞞に満ちた歴史を正し、世界を真の夜の恩寵へと還す偉大な御業に、このアダム・クローリーの全てを捧げます!」
アダムは、跪いたまま、ローブの懐から光を反射しない黒曜石のような小さな欠片を取り出した。
それは、ジェスターが言っていた“地図のピース”のようだった。
「ルナ様、まずはこれを。愚かな太陽の監視から逃れ、レグルス様の御元へ急ぎください。彼は、貴女様の力の根源を知る、真に忠実な御方です。全ての情報は、彼が握っております」
ルナは「うわっ」と声に出しそうになり、嫌悪感に押し出されるように一歩後ずさる。この男の熱い視線は、ルミナの冷たい無関心とはまた別の種類の恐怖だった。「女王様」なんて呼ばれると、背中がゾワゾワする。
「……あのさ、女王様とかやめてよ。私はルナ。それより、レグルスって誰? それは本当に有効なんだよね?」
「ルナ様が私などとお話しになるのは、愚かな時間の浪費でございます。レグルス様は、太陽が最も憎む御方。貴女様の力の根源である“領域”の全てを知り、太陽にすら隠し続けた真実を握っておられます。このピースは、そのレグルス様に会うための鍵でございます。どうか、一刻も早く闇の中へ!」
アダムがぐいっと“地図のピース”を差し出してきたので、ルナは仕方なく受け取った。
「ゔー……」
ルナは、それを急いでポケットに入れて、受け取った手を履いていたズボンの裾にゴシゴシこすりつけた。
そこに、ジェスターが介入する。
「はいはい、女王様のお遊びはそこまで。太陽が目を覚まさないうちに早くレグルスのところへ行くんだ」
「はいはい、行くってば。その前に教えてほしいんだけど、この男は何? レグルスって誰?」
ルナはイライラしながら言った。
「そのうちわかる」
ジェスターはルナの苛立ちを無視し、「さあ、急げ」とスタスタと歩き出す。ルナもその背中を追おうと歩き出し、さらに文句を言おうと口を開いた瞬間、ふいに足が止まった。
ルナは、まだ跪いたままのアダム・クローリーに向かって勢いよく振り返った。
「私のことは、『ルナ』って呼べ。命令だよ」
それは、支配者の口調と、ただの名前で呼ばれたい少女の願いが混ざった、妙な命令だった。
ルナは今度こそ、ジェスターの背中を追って歩き出す。そして、アダムの熱狂的な視線を背中に感じながら、今度は振り返らずに、ボソッと呟いた。
「……気持ち悪いけど、ありがとう。じゃあね」
アダムの答えを聞くことなく、ルナは早足で、建物の陰にいるベリー達のもとへ戻った。
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