13話 ルミナとサイラス
こんにちは、あんなです!
挿絵は、ルミナ・アウレアのイメージイラストです。
それと、今話から三人称の書き方にします!
時間があれば、前に投稿したやつの編集もやりたいんですけど……
湿った夜の空気は、黒曜石のように冷たく、重い。
「これが……私の、力………」
ルナはかすれた声で呟いた。喉が、サソリの巣のように乾いている。暴走した魔力は、まだルナの手の皮膚を舐めるように、チリチリと音を立てていた。
勝利の余韻も、安堵の息も、この場には存在しない。あるのは、混沌とした闇だけだった。
「ルナ! 大丈夫か?」
ロジャーが最初に駆け寄ろうとする。しかし、彼の足は、地面に根を張ったように動かない。
ルナが魔力を暴走させた場所──今、ルナが立っている場所を中心に、地面の草木が乾いた炭のように黒く変色していた。
ジェームズが顔色をかえて叫んだ。
「待て、ロジャー! それ以上近づくな! この現象は……まるで、生命エネルギーの局地的な枯渇だ!」
「は……?」
ロジャーとジェームズが睨み合う。
「……ルナ、これ」
ベリーの震える声が沈黙を破った。ベリーは、力の奔流に触れた左手を、まるで他人のもののように見つめている。手の甲には、細い血管が蜘蛛の巣のように浮き上がり、指の先は黒く変色していた。
ルナはクッと息を詰めた。
「な、ん……で………」
嗚咽で喉が詰まった。目尻にこんもりと熱い雫が盛り上がる。
「ベリー、ごめ……」
「大丈夫……あたし、大丈夫だよ、ルナ。大丈夫だから……」
ベリーは汚染された左手を見つめたまま、カチカチと鳴る歯の音を、ルナに聞こえないように押し殺した。
そして、顔を上げた。その顔に浮かんでいたのは、いつもの屈託のない、可愛らしい笑顔だった。
「私、ルナのこと……信じてるから………」
だが、ルナには見えた。その笑顔の奥底で、何かが激しく震えながら、泣いているのが。
その瞬間、頭上の夜空が音を立ててひび割れた。
漆黒の闇に、針のように鋭く、ギラギラした光が走り抜ける。それは、夜を打ち消す光ではなく、夜の闇を貫く、純粋な暴力だった。
そして、声が降り注ぐ。冷たく、しかし、どこか救いを求めるような、悲しい響きを持った声。
「素晴らしい夜の力ね、ルナ・エリア」
ルナは顔を上げた。
空には、真夏の太陽を凝縮したような、ギラギラとした金色の光の塊が浮いている。
光の塊は、優雅に地面に降り立ち、傷ついたベリーを一瞥して、ルナに慈悲深い──ように見える──笑みを向けた。そこで初めて、ルナは光の塊だと思っていたものが、人間だったことに気づいた。
ブロンドの髪に、完璧に整った顔立ち。感情を排した冷たい黄金色の瞳は、凍った金属のように鈍く光っている。ミステリアスな雰囲気と対照的な、カジュアルな服装だ。
「その力は愛と友情という甘美な毒によって穢されている。その代償を、貴女は理解できないのね」
淡々としているが、どこか悲しげな喋り方だ。
「私に渡しなさい。その力は、夜も光も恐れない、純粋な器にこそ相応しい……真の力は、愛情という不純物を捨てた者にしか扱えないのよ」
ダークマスクが、ふわりと表情の仮面をかぶり、にこやかに言った。
「ルミナ様、お久し振りです。お目にかかれたということは、また世界を救うという、面白味のないご用事でいらしたのでしょうね?」
「あ、もしかして、お知り合い? 積もる話があるでしょうから、私達は席を外しますね!」
……なんて言ってそそくさと立ち去れたら、どんなにいいだろう、とルナは思った。ダークマスクのどこかよそよそしい、皮肉めいた敬語と、元々冷たかったあの人の目が絶対零度に達したところを見ると、2人はかなり複雑な関係らしい。
ルミナが口を開く。
「久しぶりねぇ、サイラス」
(サイラス……?)
ルナは、ダークマスクことミスター・Xの本当の名前は、サイラスかもしれないもいうことを、丁寧に頭の中の引き出しにしまった。
「残念ながら、ルミナ様。貴女の知る『サイラス』は、役目を終えてしまいました。この舞台での私は、ミスター・Xでございます。まあ、名前を変えるなど、ルミナ様の正直な頭では、理解不能でしょうがね」
とサイラスが丁寧にルミナを侮辱した。イライラしたようにルミナが言う。
「ミスター・X? ……相変わらず、下品な名前だわ」
「そう、お考えで?」
少しも揺らがない笑顔で、男が言った。
「ええ、とっても」
スパッと言い捨てる。
「私は、サイラス・ジェスターの方が好きだったわ」
「それは残念でございます」
ダークマスクは、本当に残念そうに言った。
(サイラス・ジェスター……。これは、ダークマスクの前の偽名? それとも、本名?)
この疑問も、頭の中の引き出しにしまっておいた。
(ん、もう! ダークマスクの謎はどんどん増えていくな。一つ一つ、虱潰しにしていかなきゃ。そうそう、謎と言えば……)
「あのう……ルミナ、さん? 夜の力って、何ですか? それと、貴女は誰ですか? ダークマス──ンンっ──ミスター・X──あの、サイラスさんとは、どういう関係なんですか?」
ルナはサイラスの呼び方に混乱しながら、尋ねた。
するとルミナは、少し考えるように目をふせた。
「そんなに同時に、色々聞くのはやめなさい。……けど、そうね……。まずは、私とサイラスの関係についての質問に答えてあげましょう。一番短く済むから。私とサイラスは、元恋人よ」
ルナ達は大きく目を見開いた。
(やだ! この美人なお姉さん、あんなのと付き合ってたの!? もしかしてダークマスクって、仮面で顔は見えないけど、素顔はイケメンなのかなぁ)
ジェームズは、考察するように顎に手を当てた。
(何故別れることになったんだろう? 食べ方がどうとか、節電がどうとか、くだらない理由かもしれない。でも、あの2人の様子だと、もっと深いわけがありそうだぞ……)
ジェームズは、あの2人からは絶対に片時も目を離さないと心に誓った。
いかがでしたか?
前は男のことをダークマスクって呼ぶのを定着させるとか言ってましたけど、やっぱりジェスターにします。本当にすみません! ごめんなさい!




