10話 魔術の訓練
こんにちは、あんなです!
今回は、コミカルな回にしようと思ったので、ギャグを詰め込んでみました。
どうぞ、お楽しみください!
巨人との乱闘の真実、不思議な祝福をした真夜中の記憶を取り戻して以来、ルナはずっとフードをかぶっている。
ミスター・Xが魔術を使ってご飯を作ろうが、レイヴンが自分たちが元々住んでいた世界では考えられないようなことをしようが、ルナは冴えない気分で「ああ」だの、「うう」だのと唸るばかりだった。
ベリーが心配して、色々質問してきたが、彼女は虚ろに笑って、「大丈夫」と繰り返した。ベリーは当然納得していないが、それ以上は何も聞いてこなかった。ロジャーも、「大丈夫か」「何かあったのか」「疲れているのか」と、何度もルナに話しかけてきた。
(最近、大好きなルナがちょっとおかしい)
ずっとフードをかぶっているし、何を聞いても「大丈夫」しか言わないのだ。ミスター・Xが凄い魔術を使ったり、レイヴンが驚くべきトイレの使い方を教えてくれた時も、ルナは全然驚いていなかった。
ベリーはロジャーにもジェームズにも、レイヴンにも言って、それとなく探りを入れてくれと頼んだが、特に情報は得られなかった。
心配ばかりしているうちに時は過ぎていき、ミスター・Xがこんなことを言い出した。
「魔術の訓練をするぞ」
魔術の訓練……。ルナは、制御不能になったあの夜の記憶が蘇り、ゾワリと背筋に鳥肌が立った。
(いやだ……いやだ……)
彼女は無意識のうちに首を横に振ってあとずさっていた。
「……ルナ、心配しなくていい。私が監督をするから大丈夫だ」
「うう……」
「まずは手本を見せよう。レイヴン、やってくれ」
男が言うと、レイヴンが丁寧にお辞儀した。
「はい、ミスター」
「まずは、具現化魔術だ」
レイヴンは手から淡い色の光を出した。その光はだんだんハッキリとした形になり、等身大のマネキンになった。
「次は、攻撃魔術だ」
レイヴンの手から鋭い光が放たれてマネキンに当たった。
「ギャーア」
マネキンが叫ぶ。
「この通り、マネキンの精度が高いと、声を発することもある」
男は満足気に頷いた。レイヴンは嬉しそうに少しだけ微笑んだ。
「最後に、癒し魔術だ」
レイヴンがマネキンに手を当て、傷を癒した。ベリーはぴょこぴょこ飛び跳ねながら拍手している。
「よし。……お前らもやってみろ」
一瞬、沈黙が流れる。
「どうやってだよ!?」
最初にジェームズが食ってかかる。
「できるわけがありません!」
ベリーも言う。
「ムリ〇ベ」
ロジャーはすいっと手を動かし、「ム◯カベ」のポーズをした。
「何それ」
「知らねえ?」
ロジャーはすいっすいっと手を動かしながら、にやっと笑った。
「まあまあ、落ち着け。念じるだけだ。わりと簡単なものだぞ」
「えー?」と疑うような視線をダークマスクに投げつけながら、ベリーは試してみている。ロジャー、ジェームズも、「できるわけがないけど」という様子でやっている。みんながやっているので、なんとなくルナも念じ始めた。
(マネキン……マネキン……マネキン……)
どどどどどっと三十体くらいのマネキンが一斉に出現した。
「わーお……」
ルナ自身がびっくりした。ベリー達はもっと驚いている。
「キャーッ! 凄いわ、ルナ!」
「こいつら、視線がウザい! 何も見てないくせに!」
ロジャーが天を仰いだ。続いてジェームズも突っ込む。
「服を着る義務を放棄した無職集団創り出してどうするつもりだよ!」
ミスター・Xも、「いいぞ、その調子だ。ちょっと多いがな」とかなんとか言ってくれた。
『ギャーアギャーアギャーアギャーアギャーア』
小さな叫び声が聞こえて、ルナが振り返ると、マネキン達が叫んでいた。
『ギャーアギャーアギャーアギャーアギャーア』
「ルナ! これって、マネキンの精度が高いってことよね!」
ベリーは喜んでいるが、ロジャー達は相変わらずふざけている。
「こんな静かなパニック、聞いたことないわ!」
「人間の存在意義を問う、一刻も早く燃えるゴミに出したい不燃物の群れかよ!」
次は攻撃……。あまり気は進まないけど、やるしかないか。
「攻撃……傷つけ……―――」
ブワァッと手から、大量の光が吹き出した。
「伏せろ!」
男が手から何やら光を出しながら、みんなに命令した。ベリー達が慌てて伏せる――。
ルナとベリー達の間には、透明の壁ができていた。おそらく、ダークマスクが出したものだろう。少し薄黒い。
「私……なんで……」
ルナの喉の奥から、しゃがれた声が出た。
男が、ボソリと言う。
「……これほどまでに強いとは………」
彼は顎に手を当て、何かをぶつぶつ呟きながら考えこんでいる。
周りは、もう真っ暗だ。星達が、チカチカと瞬いてそれぞれ自分の存在を主張している。
(もう、あそこに行きたいな……)
ルナはぼーっと思った。
(私のような危険な存在は、空にのぼって消えてしまえばいいんだ……)
「ルナ、大丈夫?」
ベリーが心配そうな表情で、壁越しにルナに言った。
ルナは軽く目を見開いた。こんな時、まず心配すべきなのは、自分ではないはずだ。自分なんかじゃなく、自分や、友達のことを心配した方が良いはずなのに……。
「……なんで?」
ベリーは、いつものようにふふっと笑って、答えた。
「ルナは私の……友達だから!」
ルナは息をのんだ。友達――。
「魔力が暴走しても、友達は友達。私だって、暴走させるほどの魔力があったら、そうなったかもしれないわ」
「充電MAXで暴走するルンバも家具をぶっ壊す以外は特に害はないしな」
「皿を割らずに置けない、質量兵器が友達で、俺は誇らしいよ」
誰にでも失敗はある、みたいなノリで許されてしまった。
ルナの視界が滲み、目の前の景色がぐにゃりとゆがんだ。
「ち、が……う……っ、ごめ……ん、なさい……っく」
感情が、決壊したダムのように溢れ出した。
ルナはベリーに駆け寄り、抱きしめ――
ガツーン…………。
――ようとしたが、何かに弾き飛ばされてしまった。
「痛っ……何、これ?」
クラクラする頭を振って、立ち上がる。
「……おっと、すまない。壁を消すのを忘れてしまっていたようだ」
男がおかしそうに笑いながら、悠々と薄黒い壁を消した。
ルナは、ク◯マスクを「あとで殺してやる」視線の超豪華版で睨みつけてやった。
(潰されたいのかしら? クソマスク! 中世脳オジサンマスク! あんたなんか、コンクリートにへばりついてるコケ以下よ! 小学生にもぎ取られたコケ以下!)
いかがでしたか?
次話「11話 悪魔」もお楽しみに! ブクマ、評価、コメント、リアクションお待ちしています。




