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第6話「白翼の矢との邂逅」

いつもお読みいただきありがとうございます!

前回まででルオーネを旅立ったカエデたち《ひだまり》は、ついに大きな街フェルナードへと足を踏み入れます。

市場の喧騒と巨大風車に目を奪われつつも、冒険者としての新たな試練が彼らを待ち受けていました。

今回は、彼らが初めて大都市のギルドに挑むお話です。

第6話「白翼の矢との邂逅」


「わぁ……すごい!」

フェルナードの城門を抜けた瞬間、カエデの目に広がったのは、まるで別世界の光景だった。

石畳の大通りの両脇には色とりどりの屋台が並び、香辛料の匂いや焼きたてのパンの香ばしい香りが風に混ざって流れてくる。


「ほぉ、ルオーネとは比べ物にならんのぅ」

ザックは目を細め、大きく息を吸い込んだ。


「見て! あの風車、すごく大きい!」

リンが指差した先には、街の郊外にずらりと並んだ巨大な風車群が、風を受けて悠然と回っていた。


その賑やかな通りを歩いていると、前に見覚えのある顔があった。

「おお、君たち! ルオーネで助けてもらった行商のハルトだ!」

以前、山賊から救った商人が手を振って近づいてきた。


「ハルトさん!」カエデは思わず笑顔になる。

「街に来たばかりで宿を探しているんです」

「なら、知り合いの宿を紹介しよう。腕の立つ薬草商もいる。いい依頼を紹介してもらえるかもしれないぞ」


こうして《ひだまり》一行は、ハルトに導かれフェルナードの宿へ落ち着き、翌日、冒険者ギルド《翡翠の角笛》を訪れることになった。


ギルドの扉を押し開けると、広いホールが視界に飛び込んでくる。

人の出入りは絶えず、依頼掲示板の前には冒険者たちが群がっていた。


「さすが大都市……依頼の数がすごいのぅ」ザックが腕を組む。

カエデたちも掲示板を覗き込み、一枚の羊皮紙に目を留めた。


フェルナード依頼書(翡翠の角笛ギルド発行)


ランク:C


依頼名:薬草採取地の安全確保


対象魔物:トロル(単体確認)


依頼人:フェルナード薬草商組合


依頼内容:

谷奥にある薬草採取地にトロルが住み着き、薬草師や採取人が近づけなくなっている。

討伐または追放を行い、採取地の安全を保証せよ。


依頼報酬:金貨1枚(=100銀貨=10,000銅貨)


主な素材換金:

・トロルの牙 銀貨30枚

・トロルの腕骨 銀貨50枚

・トロルの魔核(希少) 金貨2枚前後


ギルド達成P:200P


冒険者個人達成P:50P


危険度:★★★(中級)


発行:冒険者ギルド《翡翠の角笛》・フェルナード本館

(※大型案件は《白翼の矢》に回されるため、当依頼は一般公開とする)


「トロル……」リンが声を落とす。

「大きいし、かなり危険な相手よね」


「ふん、報酬がしょぼいけぇ、大手は受けんのんじゃろ」ザックが鼻を鳴らす。

「白翼の矢が断ったんじゃ、下請けの《翡翠の角笛》に回ってきたんじゃな」


カエデはしばらく依頼書を見つめ、深く頷いた。

「小さな依頼こそ、信頼につながるんです。……うちには、こういうのが大事なんです」


「賛成です!」メイが元気に手を挙げる。

「薬草があれば、村の人も助かるし、何より困ってる人を放っておけません!」


リンも静かに微笑んだ。

「森でのことなら、私が案内するわ」

ひだまりのメンバーが盛り上がっていると申し訳なさそうにギルドの受付嬢が話だす。


「あの~すいません、この依頼は中級なのでGランクの「ひだまり」さんは受注できないんですよ~」


「え~ダメなんですか~、そこを何とか(てへぺろ)カエデが頼み込む


「そう言われましても規則なので・・・」

途方にくれる「ひだまり」メンバー、それを見かねた受付嬢が


「でしたら、今回だけ受注OKにします。ただしクエスト失敗したり死人が出ても当ギルドは一切責任は負わないと言う書類にサインしてもらいますからね」


(誰も受けてくれないからギルドの売り上げにならないしね)


「本当ですか~ありがとうございます」歓喜に沸く「ひだまり」メンバー


そんな時だった。ホールの扉が勢いよく開いた。

ざわりと冒険者たちが道をあける。


現れたのは、長大な弓を背負った少女だった。年の頃はカエデと同じくらい。

背にした弓は二メートルを優に超え、彼女が担ぐとまるで武器に呑まれるかのようだった。

その手には巨大な布袋――中から、血の臭いがした。


「し、白翼の矢だ!」

「五番隊の隊長、セレスティア様じゃないか!」

「見ろ、あれ……トロルの首だ!」


ギルド中がどよめきに包まれる。

セレスティア・アルヴェーン――通称セレス。

《白翼の矢》五番隊隊長。人間でありながら、その実力はギルド長の推薦で異例の抜擢を受けた少女だ。


「へぇ……あんたがギルドマスター? 見た感じ弱そうなのに、面白いね」

セレスはカエデに視線を投げかけ、口の端を吊り上げた。


「はい。弱いですけど……みんなで支え合っていきますから」カエデは真っ直ぐに答える。


「へっ! そんなの弱い奴らの集まり。力なき者は何も得られない。それがギルドよ!」

言い放つと、セレスは弓を地面に突き刺し、まるで《ひだまり》を真っ向から否定するかのように構えを見せた。


隣にいた長身のエルフの女性が、軽く咳払いをした。

「セレス。ここはギルドの中です。無用な威嚇はおやめなさい」

落ち着いた声が響く。彼女は副官のエレーナ・フェンリス。冷静沈着な暗殺者であり、ギルド長リュミエールの妹でもあった。


「ちぇっ……分かってるよ、エレーナ姉さん」

セレスは弓を背に戻し、肩をすくめる。


《白翼の矢》の背を見送りながら、カエデは胸の奥で固く誓った。

――弱くてもいい。けれど、仲間と共に歩む道を信じよう、と。


翌朝。

薬草採取地へ向かう準備を整えたカエデたちは、静かに街を後にした。


「薬草って、薬や傷薬に使えるんですよ。早く見つけたいです!」メイは嬉しそうに笑う。

「森に入れば、私の矢が役立つわ」リンが弓を確かめる。

「おぬしらの背中はワシが守るけ」ザックが大きく笑う。


そしてカエデは、心の中で日記を綴った。

「私は戦えない。でも、みんなを支えることならできる。小さな一歩が、いつか大きな信頼になるはずだから」


彼らの新しい挑戦が、いま始まろうとしていた。


カエデの日記


フェルナードは大きな街だった。

人も物も多くて、僕たちの存在は小さく見える。

でも、薬草商の人が困っていた。

誰も受けない依頼を、私たちがやる。

それが《ひだまり》らしさなんだと思う。


経営Tips:ブルーオーシャン戦略とギルド


大都市では、大手ギルドが高報酬の依頼を独占する。

逆に言えば、「割に合わない依頼」=ブルーオーシャンが必ず残る。

そこに目をつけ、小さな成功を積み重ねて信用を得るのが、駆け出しギルドの生き残り方である。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

今回は《白翼の矢》のセレス、そして副官エレーナの初登場回でした。

彼女がカエデを見下すのも当然ですが、この先、彼女の心に変化が訪れる瞬間がやってきます。

次回は《ひだまり》初めての「本格的な戦闘依頼」。ぜひお楽しみに!

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