お姉さん
この小説はAIの補助が行われています。不快感を感じる方は閲覧をオススメしません。そしておねショタなんて大層なものでもありません。
中学二年の春、世界が灰色に見えるようになった。
教室の喧騒も、部活の掛け声も、SNSの流行りも、全部どうでもよかった。友達の笑顔も、親の心配も、先生の励ましも、ただ鬱陶しくて、耳障りで、遠くで風が鳴いているような感覚だった。なにかが壊れた音はしなかった。ただ静かに、音が、色が、意味を失っていった。
その日も、誰とも口を利かず、校門を出た。早足で家に帰る途中、ふと目に入ったのは、小学生の頃によく遊んだ公園だった。ブランコの鎖が錆びた音を立てて揺れている。
そのとき、不意に声がした。
お姉さん「……やっぱり、君だったんだね」
懐かしい声だった。けれど同時に、なぜか今にも消えそうな幻のような響きで。
振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。長い黒髪に、季節外れの白いコート。年齢は相変わらずわからない。小学生のころからずっと、彼女は年を取っていない気がした。
僕「……お姉さん」
口にした瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。感情のしこりが、そこだけ柔らかくほどけていくのを感じた。
お姉さん「まだ“少年”って呼んでいいかな?」
彼女は微笑んだ。あの頃と同じように、春の風みたいな笑顔で。
僕「……別に、いいよ」
返事をすると、自分の声が少し震えているのに気づいた。懐かしいという感情が、こんなにも温かくて、少し苦しいものだったことを、初めて知った。
お姉さん「久しぶりに一緒に歩かない? ほら、あの坂道、前は登るの嫌がってたでしょ」
彼女が先を歩き出す。後をついていくと、世界がほんの少しだけ色を取り戻しはじめた。
まるで、あの頃の続きを、今やっと始められるような気がした。
道の端を歩く彼女の後ろ姿を見ながら、ふと思った。
僕「ねえ、お姉さんって……今、いくつ?」
彼女はぴたりと足を止めた。
風がすっと吹いて、彼女の長い髪がふわりと舞った。小学生のころにも同じ質問をした記憶がある。そのときも、こんな風に、微妙な沈黙があった。
お姉さん「……その話は……やめたまえ」
視線を逸らして、額に浮かんだ汗をそっと拭いながら、彼女はぎこちなく笑った。
なんだろう、この既視感。記憶の奥の柔らかい部分がじんわりとあたたまる。
僕「やっぱ変わってないな」
そう言うと、彼女は少し照れたように笑った。
お姉さん「君もね。そうやって無遠慮に踏み込んでくるところ、昔とまったく同じ」
懐かしさというより、懐かしさそのものが言葉になって胸を満たしていく。誰かと会って、話して、心が動くことがこんなにも自然で、嬉しいことだったなんて、忘れていた。
坂道の上、夕焼けが町を染めはじめていた。
彼女の横顔は、その光を浴びて少し儚げだった。
僕「……ねえ、お姉さんは、何してる人なの?」
すると彼女は、今度は立ち止まらず、足を止めることもせず、ただ風に紛れるような小さな声で言った。
お姉さん「それも……やめたまえ。君の目が曇るから」
僕「……ますます怪しいじゃん」
笑いながら言うと、彼女もくすっと笑った。
変わらないままでいてくれる存在がいること。それが今の僕を、少しずつ、でも確実に、灰色の世界から引き戻してくれている。
それだけは、間違いなかった。
坂を登りきったあたりで、僕は立ち止まった。
夕焼けが沈みかけて、町が橙色から青へと滲んでいく。ふと、言葉がこぼれた。
僕「……お姉さん」
お姉さん「うん?」
ボク「もう、全部どうでもいいんだ」
彼女は振り向いた。けれど、すぐに目を細めて、何かを読み取るように僕を見つめた。
僕「勉強も、友達も、未来も。どうせ何も変わらないし、期待してもしんどくなるだけだし……だから、もう、どうでもいい」
ぽつぽつと、どこか他人事のように呟いていく僕の額を、彼女は突然、ぴしっと指で弾いた。
僕「いったっ……!」
お姉さん「それは今のうちに禁止ワードにしておこう」
少しだけ呆れたような、でもどこか慈しむような声だった。
お姉さん「とりあえず、明日。学校に行ってみたまえ」
僕「……意味ある?」
お姉さん「意味がないと感じてる間は、意味を探すために行くのさ」
そんな詭弁みたいな台詞、先生や親から聞かされても絶対に響かなかっただろう。でも、不思議と彼女が言うと、嘘っぽく感じなかった。
その日は、それで別れた。