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刀に映る物語のその先で(仮)  作者: 湊川 琥珀
出会いと盃
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3.僕たちの夢


三人が話に花を咲かせていると夜が更けていく、そうなると流石に三人とも眠くなってくる。ただでさえ、ネーアは身体が弱くアスマは久方振りのまともな食事で強烈な眠気が襲ってきている。ロミルはまだ平気そうだったが。


「流石にもう寝ようか。ネーアも限界みたいだし」

「はい、とっても眠いです」

「分かった。俺はどこで寝ればいい。ここの床で寝てもいいのか」


この部屋にはベットが一つしかなくネーアとロミルは二人でベットで寝るとしてもアスマが寝れる場所は見当たらない。なのでアスマは床で寝るしかなくどこで寝ていいのかロミルに確認する。ロミルは少しの間考えこみ、口を開いた。


「うーん。お客さんを床で寝かせるわけにはいかないし、アスマにベットで寝てもらうとしてもネーアは床で寝かせられないしなぁ。かといって間違いが起きるかもしれないからネーアと2人で寝かせるわけにもいかないし……」

「間違いとは何だ」

「ま、間違いは間違いだよっ。知らないならいいけど、とにかく2人でベットは寝かせられない」

「だからワシは床でいいと言っておるだろう」

「いやでもそれは…………」


ロミルが1人でどうしたもんかと悩んでいるとネーアが一つの提案をする。


「いっそのこと3人でこのベットに寝ればいいのではないのでしょうか?兄さんが真ん中で寝れば兄さんの不安も解消されると思いますし」

「このベットで三人はきついと思うが」

「んー、頑張って詰めたら3人でも寝れるとは思うけど……僕とアスマが身体をくっつけて寝るのも問題がある気がするしなぁ……」

「問題ないだろう。別に男同士なら」

「た、確かにそうだね。まあ、大丈夫だよね。気にしなければ大丈夫大丈夫……」

「決まりですねっ」

「決まったなら早く寝るぞ。流石にもう眠い」


「どうしようか、僕がいるとしても女と男を同じベットで寝かしてもいいのだろうか……」

顔を赤くしてぶつぶつ独り言を言うロミルを置いてアスマとネーアはベットに向かう。


「ウチのベットは狭いですが寝心地はいい方だと思います。どうですか?」

「寝られれば何でもいい。……まあ、いいと思うぞ」

「ふふ、ありがとございます」

「おい、お前、寝ないのか。……こいつ聞いておらん。もうワシは寝るからな」

「ふあぁー、私も眠いので寝ます。兄さん、アスマさんおやすみなさい」

「……ああ」

「2人ともおやすみ。というか僕を置いて二人とも寝ないでよっっ。僕も寝るから真ん中空けてっ」


一人の世界から戻ってきたロミルがアスマとネーアの間に身体を入れ込む。ロミルがベットに入り込むと三人が想像していた通りベットがきつきつになった。


「……狭いですね」

「狭いな」

「まあ、まだ肌寒い時期だしさ。ちょうどいいんじゃないかな」

「ベットで寝れるだけでもありがたい。狭いくらいでは文句は言わん。」

「路地裏で寝てたアスマにとってはそうだろうね」

「路地裏と比べられるのはいつもここで寝ている私としては少し複雑な気持ちです」

「まあ、明日ギルドに行くんだから早く寝ようか」

「ワシらはもう寝るところだったんだが……其方が邪魔をしてきたんだろう」

「そうですよね。もう眠いです……」

「とっとにかく、もう灯りをけすからね」


ロミルが家の灯りを息を吹きかけ消す。


「改めておやすみ。2人とも」

「おやすみなさい」

「……ああ」

「寝る時くらい素直におやすみって言いなよ」

「うるさい。もう寝るんだろ」

「はいはい。分かったよ。おやすみ」


三人はそれからすぐ眠りについた。



夜が明けてすぐ、まだ空が全体的に暗く東の空の端の方だけ赤みがかっている頃、アスマは目が覚めた。それは久方ぶりの快眠で気持ちの良い目覚めだった。アスマは横でまだ眠っているニ人を起こさないようにそっとベットから抜ける。そのままアスマは家の外に出て腰に差してある刀を抜く。そしてそのまま刀を構え、真っ直ぐ振り下ろす、振り上げる、斜めに振り下ろす、斜めに振り上げる、水平に振る、突く、それを左右どちらも行う。それを数十回こなした後、足運びを追加しさらに速くさらに鋭く精錬された動きをアスマは繰り返す。これはアスマの朝の日課であった。この街に来てからというものアスマは生きていくため、できる限り体力を使わないように行なっていなかったが久方ぶりにまともな生活を送れたため、朝の日課を行えるようになったのだった。


アスマは今まで日課をできていなかった遅れを取り戻すかの様にさらに集中力を高め刀を振っていく。


……どれくらい経っただろうか。アスマが一息つこうと刀を一旦鞘に納めると隣の気配に気がつく。そちらに目線を向けるとロミルがアスマの方を向き立っていた。いつからそこにいたのだろうか。集中してたあまり気が付かなかった。危害を加えるつもりがなさそうとはいえ近づく気配に気づかなかったのはアスマの未熟ゆえだとアスマは自分を恥じた。


「……いつからそこにいた」

「んー。いつからっていうのは難しいけど少し前からかな。ちょっと早めに目が覚めちゃってね」

「そうか」

「うん。あのさ、井戸に水汲み行くの手伝ってよ」

「ああ」


二人でバケツを持って歩き出す。井戸に着くまで二人の間に会話は無かった。しかしそれは気まずいものではなくなぜか少し心地よいものだった。


かなり歩いた先にある井戸からロミルが水を汲む。

その姿を見ながらアスマは口を開いた。


「いつもこんな遠くまで水を汲みに来るのか」

「まあね。僕とネーアは村生まれでね、コネも金もない僕らは誰かに捨てられたあのボロ小屋しか住むところがなかったのさ。そのせいで水汲みも一苦労だよ」


ロミルはそう言いながら自虐的な笑みを浮かべた。


「生まれ育った村に帰れんのか」

「戦争でなくなったよ。親もね。だから僕らはここにしか居場所がないんだ。まあ、ここも居場所があると言いづらいけど……」

「悪いことを聞いた。すまん」

「別にいいよ。もう終わったことだから。それにいつまでもくよくよしてられないよ。ネーアもいるし前を向かなきゃ」


そう言ってなお笑顔を見せるロミルがアスマには凄く大人に見えた。年齢など関係なく大きく逞しく見える。自分のことしか頭になく今しか気にしていない自分の小ささが際立って見える様だった。


「お前は……ロミルは凄いな。ワシとは大違いじゃ」


アスマがそう言って微笑む姿を見てロミルは驚いた後笑顔になった。


「キミに初めて褒められた気がする。それにまた名前で呼んでくれたね。」

「っふん。たまには呼んでやろうと思っただけだ」

「すなおじゃないなー。じゃあ、帰ろうか」

「ああ」

 

二人は互いに片手にバケツを持ちながら来た道を戻る。家まで後少しと言うところでロミルが口を開いた。


「あのさ、アスマは夢とかあるの」

「急にどうした」

「いや、その歳で他国に1人で旅に出るなんて何か大きな夢とか目的があるのかなって」

「旅の目的は教えんと言ったはずだ」

「ちょっとでいいから教えてよ、ほんの少しでいいから」

「……強くなりたい。誰にも負けないくらい」

「何のために?」

「少しだけと言っただろう」

「えー、もうちょっと喋ってよ。というか一部喋ったんだから全部言っちゃおうよ。誰にも言わないから。

ね?」


ロミルがしつこくアスマに尋ねる。アスマは厄介だと思いつつ、恩を考えればこいつになら喋ってもいいと感じて話す。


「誰にも劣らない将軍になりたいんだ。だから強くなりたい」

「いい夢だね。キミに相応しい夢だと思う」

「……ワシの話はした。お前の夢も話せ」


そういうアスマをロミルは驚いた顔で見る。


「驚いた。キミがそんなこと言うとは思わなかったよ。僕に夢か……キミの話を聞いた後じゃすごくアバウトな夢だけど……大事なものを守れる人になりたいんだ。欲を言えば僕の周り全部を守りたい」

「でかい夢だな」

「そうなんだよね。どうすれば叶うかわかんない。

だから今は普通の生活を送れるようにすることを目的に働いてる」

「普通の生活とはどんなだ」

「毎日三食ご飯をお腹いっぱい家族に食べさせられることかなあ」

「それだけか」

「後は今の貧民街のボロ小屋じゃなくて中古でもいいから家を買ってネーアに服を買ってあげて、他にもたくさんあるよ。今の生活じゃ足りないものばかりだよ」

「そうか、金があれば叶うのか」

「まあ、端的に言うとね。お金がないと生きていけないから。お金がないと幸せになれないってわけじゃない、今だって幸せだ。ネーアも同じことを言うと思う。だけどねお金がないと他の人が普通に持ってる幸せが得られない。ネーアに普通を与えたいんだ。僕たちは悪い事なんかしてないのに普通を奪われた。僕たちは普通を得る権利がある。まずは奪われたものを取り返す。普通を守れる人間になる」


初めてロミルの本気を見た。語るロミルの眼には色んな感情が渦巻いている様に見えた。口では表せないほどの感情、それをロミルに感じる。でもそれは強く、誰かを思い遣ったものだ。自分に足りないものをこの少年は持っている。それを強く再認識させられた。だからだろうか、頭で考えるより先に口が開いた。


「手伝ってやる。お前の目的が叶うまでの間だけ」

「え?それってどういう……」

「だから手伝ってやると言ったんだ。少しだけお前に興味が出てきた。だから手伝ってやる。だがあくまでお前が普通を得るまでだ。お前に夢までには付き合わん。ワシにもやることがあるから」

「本当にいいの?手伝ってもらえるのは嬉しいけど」

「恩もある。別に構わん」

「ほんとにほんと?やっぱなしはなしだよ?」

「武士に二言はない」

「じゃあ、約束」


そう言ってロミルは拳をアスマに向けた。


「ほら、約束の証に拳合わせるの。常識でしょ。はやくっ」

「そんな作法知らん」

「じゃあ今覚えて」

「…………ああ」


 二人は拳を合わせた。その二人の背中を朝日が照らし地面に合わさった二人の影ができた。


「改めてよろしくアスマ」

「ああ、よろしく」


 


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