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三級魔術師シオンの革命的魔術理論 ~出来損ないと呼ばれても魔術の道を究めてみせる~  作者: 秋野 錦
第一章 幼少年期篇

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第19話 鴉の爪


 街道にぽつんと佇む寂れた廃墟。

 月明りのみが照らすその一室に、男たちが集まっていた。


「次の獲物はシルフィード伯爵家で異論ないな?」


「ああ、オレはボムの旦那と違って主義主張なんてないからな。どこでもついていくぜ。それがオレの主義みてぇなもんさ。あ、今のちょっとカッコよくね?」


「…………」


「タンク、お前ちゃんと聞いているか?」


「……ああ、問題、ない」


「二人ともスルーしないでくれよぉ。オレだけ喋ってたらなんか気まずいじゃん」


「少し黙れマウス。人目を忍んで集まっていることを忘れるな」


「へいへい」


 ボム、マウス、タンクと互いに呼称する三人は、性格も体格も年齢も不揃いな三人組であった。

 共通点があるとすれば、それはただ一つ。


「次の目的地は決定した。早速、獲物目指して飛び立つとしよう」


 墨染めされた漆黒の髪。

 闇に溶けるような色合いのそれは、とあるギルドメンバーに共通する特徴だ。


「──行くぞ。鴉の爪は決して獲物を逃がさない」


 そのギルドの名は『鴉の爪(クロウ・クロウ)』。

 王国を騒がす一大犯罪ギルドの名であった。



  ◇ ◇ ◇



「ん……んん?」


 寝苦しさを感じて目覚めるシオン。

 彼はすぐに寝苦しさの原因になっていた犯人を見つける。


「レウ、お前また僕のベッドにもぐりこんだな?」


 呼びかけるが寝息を立てるレウから反応はない。

 数日前に父から不穏な話を聞いて以降、毎日のことだった。


 以前から時たま護衛と称してベッドにもぐりこむレウだったが、話を聞いてからはその頻度が爆増している。

 年頃の女の子をベッドに連れ込むなんて紳士としてどうかと思うが、シオンとしても不安は感じているので、追い出すようなことはしないでいる。


 それに相手はレウだし。

 若干失礼なことを考えていると……パチリ、とレウの目が開く。


「うおっ、びっくりした! 急に目覚めるなよ!」


 言ってから気付く。

 急以外にどうやって目を覚ませばいいのか、と。

 だが、レウはそのことにツッコむ暇もないようで……


「……誰か来た」


「え?」


 真剣な表情でレウが呟いた瞬間、屋敷中に爆音が響いた。



  ◇ ◇ ◇



「裏庭からだ! 警備の者を呼べ!」


 屋敷の一階にある従者用の居住スペースから飛び出したセバスは、起きてきた使用人たちに指示を飛ばしながら裏庭を目指していた。

 何かあった時にすぐに動けるように心構えはしていたつもりだが……まさか、こんなに早く事が起きようとは思ってもみなかった。


(幸い私が一番近い! 賊の襲来なら私が全て対処する……!)


 裏庭に向かうと、屋敷の一部の壁が破壊されていた。


「お、一番乗りは爺様か。ざんねーん。オレは女の子が良かったんだけどなぁ」


「…………っ!」


 振り返ると、そこには廊下の壁に寄りかかる様に一人の男が立っていた。

 鴉のように黒い、漆黒の髪を乱雑に伸ばした若い男であった。


「ま、仕方ないか。仕事だもんね。えり好みは良くないね」


「貴様、もしや、『鴉の……」


 セバスが言い切るより前に、男の手元で魔法陣が煌めく。

 反射的に男を無力化しようと、言葉を飲み込み駆け出すセバス。


「──『白風(フェイン)』」


 だが……次の瞬間には、セバスは白目を剥いて地面に倒れていた。


「はい、まず一人っと♪」


 歴戦の戦闘技術を持つセバス。

 彼の敗北は、まさしく一瞬の出来事であった。

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