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三級魔術師シオンの革命的魔術理論 ~出来損ないと呼ばれても魔術の道を究めてみせる~  作者: 秋野 錦
第一章 幼少年期篇

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第12話 1年後


 シオンが王都を訪れてから1年が経過した。

 シオンの兄、オズワルドは学園を卒業し家督を継ぐために勉強中。


 もう一人の兄、テオも無事に進学し順調な学園生活を送っていた。

 そんな中、シオンはと言うと……


「ああああああッ! また、使えない魔術だったぁぁぁぁぁ!!」


 シルフィード邸の自室にて、発狂していた。


「なんだなんだ、何の騒ぎだい?」


「聞いてください、大兄さま! 大金はたいて買った新しい魔導書が三級魔術師に使えない魔術ばかりが載っているゴミ本だったのですっ!」


「まあ、その手の魔導書は二級以上の魔術師が読むこと前提で書かれているからね……あ、僕もちょっと興味あるからまた後で貸してもらっていい?」


「もちろんです! というかもう要らないので差し上げます!」


 怒りに任せ魔導書を投げ捨てる……ような真似はせず、丁寧に両手でオズワルドに魔導書を手渡すシオン。


「ありがとう。でも良いのかい? 結構高かったんじゃ……」


「金なら腐るほどあるので良いのですよ。使い道も他に思いつきませんし」


「だからってこう魔導書ばかりって言うのは……どうなの?」


 オズワルドが周囲を見渡すと、そこには何百冊という数の魔導書が乱雑に積み上げられていた。

 一冊一冊が数十万もする魔導書をこれだけ保有しているとなると、一体どれだけの散財を行ったのか……まあ、シオンからすれば正当な出費なのだろうが。


「学園の入学試験に実技があるともう少し早く知っていればこうも焦ることはなかったのですが……っ! 恨みますよ父上ェ……!」


 父ウィリアムはシオンが入学資金を用意できるとは思っておらず、入学に必要な要件についても話していなかった。

 故に、こうしてシオンは必死に新しい魔術を覚えようとしていたのだ。


「試験内容は毎年違うみたいだから、使える魔術の数がそれだけ対応力になって受験では有利になるんだけど……シオンは今、使える魔術二つだけだよね?」


「はい! しかも受験では何の役にも立たなそうな『微風(ブレス)』と『自動型書記(タイプ・ライター)』だけです! これは絶望的ですねぇ! はっはっは!」


「なんか言葉のわりには楽しそうに見えるけど?」


「ネガティブになっても事態は好転しませんからな! 気持ちだけでも前向きに! そうでなくてはやる気も出ないというものです!」


「なるほどねぇ」


 底抜けに前向きなシオンの考え方は見習うところがある。

 オズワルドは年の離れた弟の奮起を見てそう思った。


「あ、しまった。これで未読の魔導書は最後なのでした。また『紙々の集い(オリヴァーン)』に文を送って、新しい魔導書を見繕ってもらわないと……」


「……そのことなんだけどさ、シオン。そのやり方は少し効率が悪いと思う」


「そう……なのですか?」


「普通の魔術師は魔導書を読めばそれだけ使える魔術が増えるわけだけど、シオンの場合はまずその魔導書に書かれた内容を修得できる保障がないわけだろう? 魔導書の内容を吟味して、使えるかどうかを判断しなきゃいけないって、それが非効率なんじゃないかなって」


「それは分かっていますが……それ以外にどう勉強しろと言うのです? 大兄さまや父上が扱う魔術はどれも一級のもので僕には使えませんし。家庭教師を雇おうにも、わざわざ効果の低い三級魔術師専用の魔術を修得している人なんて……」


 魔術の行使にあたり必要となる魔力量は魔術によって異なる。

 より多くの効果を得るなら、より多くの魔力を消費する必要がある。


 どうせ同じ系統の魔術を覚えるなら、自分が扱える中で最大の効果のものを修得したいと思うのは当然のことだ。


 必然、三級魔術師専用の魔術は世にあまり認知されていない。

 魔導書の多くが、三級魔術師が読むことを想定されていない理由でもある。


 つまり、需要がないのだ。需要がなければ供給も少なくなるのは必然のこと。

 だが、オズワルドにはその数少ない供給源に心当りがあった。


「実は学園の卒業生の知り合いに魔術オタクが一人いてね。そいつは修得魔術数で言うと学年トップの秀才だったんだけど、ちょっとした事情で就職浪人することになっちゃって……そいつならきっと、シオンの役に立つと思う」


「ほ、本当ですか! ぜひお願いします! 僕にその人を紹介してください!」


 学園の卒業生であれば、試験の内容にもある程度の推測が立つかもしれない。

 家庭教師として雇うにはうってつけの人材に思えた。


「ただ……その、一つだけ問題があってね」


「何でしょう? 金銭面であればどうとでもなりますが」


「いや、そうじゃなくてね、少しだけその……」


 オズワルドは言いにくそうに頬を掻く。


「性格が、ね──ちょっとだけ終わってるんだよね」



  ◇ ◇ ◇



 それから一週間後。

 オズワルドの紹介で件の卒業生はシルフィード邸を訪れていた。


「あなたがシオン・ロス・シルフィードね?」


 深い緑色の髪を短くまとめたその女性……モリアン・パカルディはシオンに会うなり、見下すような視線で彼を見た。


「はい。よろしくお願いします、先生!」


 だが、そんな視線の意図にシオンは気付くことなく、彼女を歓待した。


「ご希望でしたら泊まれるように客室も用意させてもらっております。どうか旅の疲れをごゆっくりとお癒し下さいませ」


「それより前に一つ確認させてちょうだい」


「はい? なんでしょう?」


「あなた、三級魔術師って言うのは本当なの?」


「はい、そうですけど」


 シオンが肯定すると、モリアンはシオンを鼻で笑った。


「三級魔術師のあなたが一級魔術師の私の時間を奪うなんて罪深いことだとは思わなかったの? どうせ何も考えていないんでしょうけど。ま、お仕事としてやる以上はちゃんとやってあげる。でも優しくはしないからね? というか……」


 ずい、と身を乗り出したモリアンはシオンの額を指先でつつく。


「──才能ないのにさ、なんで魔術を専攻しようなんて思っちゃったの?」


 その言葉を聞いて、シオンは思った。

 ああ、確かにこれは性格が終わっている、と。

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