極上の観覧車
カレンダーのマークが示す期待の今日に、ルームメイトが叩き起こす少し遅れた日曜の朝。
デートをしている夢の中で何を言ったか、寝言に対するルームメイトのアナウンス。
「恥ずかしいのはおまえだバカッ!」
興冷めする喝を入れられ目を覚まし、焦り飛び起き顔を洗うも歯磨き粉、ミントが漂うピリつく肌に化粧水とクリームで準備を整え作る顔。
夏のプールサイドで見付けた春に、お嬢様学校の制服を使える最後のチャンスと全力を注ぐ学校帰りは秋の午後、卒業前にと告白しまくり冬休みを前に漕ぎ着けたデートの約束。
制服は使えず今日のデートは生身の自分を試される。
逃げの一手に急いで作るお弁当、昨夜から準備していたものと朝に作るものとを合わせて箱の中に描く恋。
ルームメイトを被験者にトレーニングを重ねただけの甲斐もあり、絵画の如く完成に願掛けしつつ蓋を閉め、バッグに詰め込み着替えを済ませて駆け出した。
駅を目指して駆ける背中に、モテない者同志に絆を深めたルームメイトが二階のベランダから応援を叫び手を振る姿、勇気と恥じらいを貰い笑みに頬を紅く染めて前を向く。
夜露滴る葉の雫にも陽光煌めく虹の彩り、冬を忘れる微睡みのオレンジが街を照らして上着を脱がし、公園を離陸した紙飛行機が空に舞う。
駅に着いて直ぐに見つけた彼の姿に嬉しさ湧いて、吹きこぼれる笑顔が止まらず駆け寄ると、磯の匂いに外を見る。
海の見える街を二人で散歩するのが夢だったけど、初めてのデートで何を話せば良いのか分からず見上げた丘には観覧車。
手を繋ぎ浮かれる心に戸惑う事実、何処で食べるのお弁当。
持ってくばかりを考え作ったは良いけど、彼がランチの店まで調べていたなら無駄になる。
少し落ち込む焦りに反して並ぶ事なく乗り込むと、ピタリと閉ざされ二人の空間。
ついつい食べられる場所を探そうと、窓から眺める外の景色に驚いた。
乗って初めて知る高所恐怖症、高さに慄き震える足と引ける腰、恥じらいもなく咄嗟に掴んだ彼の腕、こうじゃない! 頭で叫ぶも恐怖が勝る。
所要時間35分の文字が脳裏を過ぎる。
不意に窓の外を横切る紙飛行機にまさかと目で追い、回る頭に飲食禁止の文字はなく、貰った勇気をご覧あれとばかりにバッグを開いて差し出した。
ランチタイムを使い切り、開いた扉に残り香を気にして降りたら小走り、吹き抜ける風をも遮るように心と身体を引き寄せる。
外は観ずとも至福の時を味わう空間に想いも詰めた恋の箱。