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グルメ小説だったっけ

華やかな廊下を通り過ぎ、二人だけの食事にはもったいないくらいの広さをもつ食堂に到着した。

シャンデリアやいろんな装飾品、骨董品などをみていると、ルイーゼのお腹の虫が響いてしまった。


「お腹減ってたみたいです。」

昔のような贅肉がない、ぺたんこなお腹をさすり、素直に食事を喜んでいる姿は年相応なものでジャンヌも笑顔にさせた。

「空腹は一番のスパイスよ。うちのシェフが腕によりをかけて準備をしているから、たくさん食べてちょうだいね。」

ウインクをしてルイーゼに料理をお勧めすると、テーブルに置かれたベルを手に持ち、3回鳴らした。

銀が鳴らす透明感のある音が食堂に響くと、様々な食事が奥から運ばれ、テーブルいっぱいに並んだ。

メイドに誘導されるがまま、椅子に座り、たくさんの料理たちが取り皿に一口大ずつ取り分けてくれていた。いろとりどりの食材たちが並ぶお皿をみて、ルイーゼは口にたまった唾液をゴクリと飲み込んだ。



「召し上がれ」

「いただきます!」


待ちきれないという表情をしているルイーゼにジャンヌは、美味しく食べて、と笑いかけると、手を合わせてルイーゼは食べ始めた。


「おいっしいいい!」

一口を噛みしめながら味わうルイーゼの嘘のない表情に、メイドたち使用人とジャンヌは非常に嬉しく、ほほえましく感じていた。


はぁ・・・感動しちゃう!

見たことのないカラフルな野菜たち・・・触感もサクサク、シャキシャキで歯ごたえもあり、食べ応えもある!お肉もお魚も臭みがなくて、ジューシー!!!これはさすがに美味しすぎる!

当たりだよ!この世界!

見たことのない魚?が煮込まれていたけど、ほろほろと崩れる煮物でとっても美味しい!


油で揚げているようなものはなくて、煮込みや炒めもの、蒸したものがほとんどだったけど、ものすごく満足できる食事だった。パクチーみたいなパンチのある香草もあったが、ここの人たちも苦手な人がたくさんいるんだとか。意外と異世界も地球と変わらないのかも?


でも......ただひとつ箸が進まないものがあった。それが、スープ料理だ。

これは、まずいというか、無味?水?具も入っていないから口をリセットするためのものかもしれない、でも、それなら水でいいじゃん。


先ほどまでスムーズに箸が進んでいたルイーゼが、急にスピードダウンすると、気になったのかジャンヌが味を聞いてきた。


「どうお味は?」


あの水のような無味汁を見惚れるほどに完璧なテーブルマナーで丁寧に食材を口に運んでいるジャンヌさんを私は尊敬した。そして、笑顔を崩さないように意識をして表情を作ることにした。


「美味しいです!・・・スープ以外は。」


具材が見えるほどに透き通るスープをみて、ジャンヌは何が美味しくないのか考えていた。


「はい。ほかの食事が少し味が濃い目なので、それに合わせてスープを薄くしているのかと思ったんですが、それにしてもちょっと…」


やばい!話過ぎた、失礼かもしれない!タダでごちそうになっているというのにクレームなんて、さすがに失礼すぎる!


焦ったルイーゼはすぐに口を噤むが、聞き捨てならないと動き始めたのは、控えていたメイドたちだった。

「どういうことでしょうか。ルイーゼ様」

「なにが美味しくなったのでしょうか。」

「教えてください。ルイーゼ様」

「塩味を増やせばいいということでしょうか。」

「より高級な食材を取り寄せなければならないのでしょうか。」

5人のメイドたちがルイーゼを取り囲み、真剣な表情でにじり寄っていった。

急に囲まれ、蛇に睨まれた蛙のように小さくなって震えているルイーゼをみて、スプーンを置き、ナプキンで口を拭ってから、ジャンヌが口を開いた。


「みんなルイーゼがびっくりしているよ?」

対応が出来ずにあたふたしているルイーゼを見かねたジャンヌがそれ以上の質問を止めてくれたが、その甲斐も空しく、適切な距離に離れてくれたメイドたちにほっと息を吐くと、安心したようにルイーゼは口を滑らせた。


「少しは塩味を増やしてもいいと思いますが、どう調理しているのですか。」

話終わると同時にメイドたちに両腕を抱えられ、逃さないというようにガッチリ掴まれた。


「ジャンヌ様、厨房にルイーゼ様をお借りしてもよろしいでしょうか。」

「逃さないってさ。いってらっしゃい、ルイーゼ」


真剣な眼差しのメイドに負けたジャンヌは、降参というように両手を上げてルイーゼを差し出した。


余計なことを言うのも異世界あるあるだったー!


ズルズルと身体を引かれながら、メイド長を先頭にルイーゼは厨房に連行された。

ジャンヌの家の厨房はかなり広く、たくさんのコンロや水場にオーブンまで完備ときた。

たくさんの食材が集められ、この館の主であるジャンヌのために料理人たちがせっせと下ごしらえをしている、料理人たちの聖域と呼ばれる場所のはずだ。


「さあ、ルイーゼ様。作り方を教えてくださいませ!」

メイドたちはメモ担当と料理人の配置担当に分かれ、数人のメイドが一気に厨房に来ることはないため、料理人たちもざわざわしていた。

「なんだなんだ、メイドたちと・・・あれは、ジャンヌ様のお客様か?」

「おいおい、お客様をここに連れてくるなんて、料理長が怒鳴り散らかすんじゃないか?!」

手を動かしながらも口も同時に動いている、いつもと違う厨房に気づいた料理長が騒ぎの中心となっているルイーゼたちに向かってきた。


「メイド長、これはどういうことだ。」

メイド長は料理長と一瞬目を合わせ、すぐにルイーゼに視線を戻した。

「ルイーゼ様、こちらは料理長のアドルフでございます。アドルフ、こちらはジャンヌ様のお客様でルイーゼ様でございます。これからスープの作り方を教えてくださるんです。あなたも聞いてみますか?」

わざと刺々しい言い方をしたメイド長を一瞥し、アドルフはルイーゼを見下ろした。


「料理人か?」

「・・・いえ、違います。」

めっちゃ怖いんですけど、この人ー!!!料理人にそんな筋肉と身長いる?!片手だけでリンゴ割れるよ、この人!


「違うってのに料理人相手に料理教室か。贅沢なご身分だな。ジャンヌ様のお客ってことで、ここのコンロは貸してやるが、1人でやってくれ。こいつらは他の仕事があるから返してもらうぞ。」

メイドたちが勝手に引っ張ってきた下っ端料理人たちは、料理長に引き戻され、ルイーゼはその迫力に負けて何度も首を縦に振った。


こうしてルイーゼの周りにはメイドだけとなり、気を取り直して食材を手にした。

「ふぅ。では、簡単に野菜スープを作ります。あの人怖いのでパパっと作りますね。」

料理長の居場所をちらっと確認し、怒られないかヒヤヒヤしながら下っ端料理人たちが持ってきたくず野菜を手に取り、ナイフを握った。


「ルイーゼ様、ナイフは危ない・・・」

焦ったメイドがナイフを取り上げようと声を出したときにはすでに遅く、ルイーゼは日本での経験をふんだんに使い、慣れた手つきでくず野菜たちの過食部分を判断し、刻んでいった。


下ごしらえ用、賄い用と言っていた野菜たちは、くず野菜と言われ、野菜の皮やヘタ、形が不ぞろいなものたちが集まっていた。腐ったり、変色している部分をトリミングし、過食部位以外は出汁をとるためだけに使った。丁寧に灰汁を取り、弱火でコトコトと煮込んでいくと、野菜の出汁がしっかり出たほんのり甘いスープになった。


「ルイーゼ様、このような火の強さでよろしいのですか?もう少し強くないと中まで火が通らないのではないでしょうか?」

メモを取っているメイドが恐る恐る質問をした。

「野菜たちはじっくり火をいれてあげると、とーっても甘くなるんですよ。」

ルイーゼは、自分で作った砂糖では作れないあの野菜の甘さを思い出しながら、煮込まれているスープを見ていた。


過食部位と判断した野菜たちは、皮はなるべく剥かずに0.5cm角に刻み、深めの鍋にオイルをいれ、軽く塩を振りじっくり炒めていった。そこに野菜で出汁をとったスープを入れて、塩で味をととのえたら完成だ。


「それだけでよろしいのですか?」

「これだけです!香味野菜も入っているので香りもいいし、旨味がたっぷりですよ!」

釈然としない表情でメイドたちは、鍋を見守り、ルイーゼは楽しみ~と思いながら、ゆらゆら身体を揺らしながら鍋の前で待っていた。


会話は聞こえないが、なにやら珍しいことをしていると、ちらちらと料理長のアドルフはルイーゼたちを盗み見していた。



ふわ~っと野菜の甘さとオイルの香りが漂ってきたぞ~!これは意外にも美味しいのが出来たかもしれない!

「香りが立ってきたの、分かりますか?ふふっ」

ルイーゼが蓋を開けると、野菜の旨味が溶け込んだ澄んだスープが出来ていた。

「うわぁ、とてもよい香りが・・・」

「でしょう?!ぱくっ、おいしい!完成です!」


3つのスープカップにスープを注ぎ、5人のメイドに振る舞った。

「どうぞ召し上がれ。少ない量なので皆さん均等に、順番に、飲んでみてください。これに干し肉や塩漬けのお肉を入れてもコクが出て美味しいと思います。」


見た目は普通のスープのようだが、香りが違うとメイド全員が目を合わせて軽く頷き合った。

メイド長から一口ずつ食べ始めると、

「これは、、、」

「美味しいですね!!!!」

「見た目は似ているのに足が全然違う、、」

「煮崩れもしてないなんて・・」

「じっくり炒めてゆっくり煮込むだけでここまで。」

「もういつものスープ飲めません!」

メイドたちは少し言い合いをしながらスープを分け合って、美味しいと嬉しい反応をしてくれた。


「ふふ、良かったです!最後のこの1人分は、料理長のアドルフさんにでも味見してもらってください。」

「ルイーゼ様!余っていたのならもっと食べられたではありませんか!」

一人のメイドが悲しそうに言うと、

「いけません!これはアドルフに食べてもらわねばなりません!」

メイド長は、鼻息を荒くさせ、アドルフにルイーゼ特製スープを渡しに早足で厨房内を駆けていった。


どれ、片づけをしようとなにも入っていない鍋を持ち、洗い場に行こうとしたとき、

「ルイーゼちゃーん。そろそろいいかしら?」

「ジャンヌさん!」

厨房の入り口に迎えをきたジャンヌがルイーゼを呼び、メイドたちは「片付けはやっておきます。」と送り出してくれた。


メイド長「アドルフ、これを飲んでみてください。」

アドルフ「料理長の俺が味見しなきゃいけないようなものなのか?料理人じゃない貴族のお遊びなんて御免だな。」

メイド長「黙って飲みなさい!」

アドルフ「……ゴク…なんだこれは!何を使った!?!」

メイド長「賄い用の中途半端に残った野菜たちだけです。特別なものは使っておりません。私たちが証人です。」

アドルフ「なん、だと、、」


料理長のアドルフを出し抜けて、笑いがこみ上げるメイド長なのでした。

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