武闘派の副団長様と頭脳派の団長様
第三騎士団の詰め所と言っても、三階建てのしっかりとした建物で、一瞬本部かと見紛うほどに立派だった。門には門番が常駐しており、国の警備、国民の警護などの役割を担い、国境付近を中心とした地域を警備している。
詰め所の3階まで上がり、一番奥にある大きな扉の前で副団長とジョルジュが立ち止まった。
その扉は、他の装飾のない扉とは違い、彫刻が施されている重厚な扉だった。
その扉の前でジョルジュはゆっくりとるいを下ろした。
副団長は扉に向かい、はっきりとした口調で声を上げた。
「只今戻りました。ニコラウスとジョルジュです。」
「入れ」
冷静さを感じる声が入室許可を出した。
ジョルジュは最後の最後にるいに注意喚起をした。
「ここからは歩いてもらう。行くぞ、くれぐれも粗相のないようにな。」
コクンと頷き、準備してくれたサイズの合っていないサンダルを履いて副団長とジョルジュに置いて行かれないように入室した。
毛足の短い絨毯が敷かれ団長の前に進み、副団長とジョルジュはザッと膝をつき頭を垂れた。
両隣の二人が膝をついたことに驚くが、粗相のないようにというジョルジュの言葉を思い出し
見よう見まねで二人と同じように膝をついて、頭を垂れた。
「報告をしました通り、ジョルジュの警備範囲内で不審人物を発見したため、連れてまいりました。」
団長と呼ばれた男は、書類から顔を離し、目の前に跪いている3人を順に眺めた。
毎日見ている副団長のマントと団員の装備、真ん中には無造作な金髪に夜着ともみえるような体のラインが分かる白い布を纏っている女がいた。
「よい、楽にしろ。」
両隣の二人は立ち上がり姿勢を正すと、少し遅れてるいも立ち上がる。
「名は。」
団長は時間の無駄を嫌うように端的すぎる言葉で質問したが、るいは両隣のどちらかへの質問かと思い、サンダルから見える白く冷たくなった足を見つめていた。
「・・・おい、答えろよ」
無言の時間に耐えられないジョルジュが隣のるいに肘でつついた。
「え?なに?」
何も知らないといった顔でジョルジュに顔を向けた。
「名乗れ」
正面に置かれている高そうなテーブルの方から声が聞こえ、団長の方を向いた。
そこには、白銀という表現の方が合っている髪をした、青い目をした美丈夫がいた。
「キレイですね」
瞬きするのがもったいないと思うほどに美しかった。
眉間にしわを寄せてるいをみている団長に慌てたジョルジュがるいに回答を急かした。
「団長は名前を聞いてるんだよ、お前の名前!」
「え、あぁ。名前?」
「そうだよ、早くしろ!」
なんでもファーストインプレッションって言うよね!と意気込み、深呼吸をした後、
「ルイーゼと申します。この度はご迷惑をおかけしまして申し訳ございませんでした。」
別人のような所作と口調で団長に謝罪をした。
それをみた副団長とジョルジュは目を開き、驚きを隠せずにいた。
「少しは礼儀を弁えているようだな。」
初めて名乗る名前を呼ばれ、るいではなく、ルイーゼとしての人生が始まるんだと実感した。
「騎士団長、魔導師団長のアレクシスだ。」
「まどう、しだんちょう?」
魔導師という言葉に反応し、もう一度アレクシスの顔を見た。
「そうだ、魔法に興味があるらしいな。」
「はっ、ジョルジュと副団長の私も彼女から魔法に関する言動を確認しております。」
「ニコラウスの報告だけでは信憑性が低かったが、今の反応で確信した。」
???頭の中は疑問でいっぱいのるいこと、ルイーゼは立ち尽くすしか出来なかった。
「ジョルジュ、ジョンを呼んで来い」
「はっ、失礼します。」
キビキビとした動きであっという間に団長室を出て行ってしまった。
ーパタン
扉が閉まり、ジョルジュがいなくなると副団長のニコラウスは息を吐いた。
「あぁー部下がいると息苦しい対応をしないといけないのが面倒くさいな、まったく。」
ジャケットのボタンを外しながら、高級そうなソファーにドカッと座った。
不敬じゃないの?!?!と混乱するルイーゼは、ニコラウスとアレクシスを交互に目で追った。
「ルイーゼだったか、そこに座れ。疲れただろうそんなに薄着で。ここは温かいし、アレクシスが剣を抜かなったってことは、斬られるのは今じゃない。安心していい。」
両手を広げ、ふんぞり返るように座っているニコラウスがそういうのであるから信じていいのだろう。
ルイーゼは、なるべく身体を小さくして、ニコラウスの正面にちょこんと座った。
柔らかいが程よくかたいためとても座りやすいソファーに感動し、何度も座り直して感触を楽しんでいた。
「俺はこういう堅苦しいのは苦手でな、動いてる方が好きなんだよ。アレクシスはあんな感じだから書類整理とか対人対応が俺よりうまいから、団長をしてるんだ。」
「うるさい、お前が脳筋なだけだろう」
「適材適所ってやつだろう」
ガハハハと笑い飛ばしていた。