斬るか斬らないか
「・・・まほう、つかい?」
首を傾げた副団長とため息をついたジョルジュ
「え、魔法使いってないんですか?まさか魔法もない・・・の!??!?」
佐々木の嘘つき!魔法使いになれないじゃん!!!と天を仰ぎ、怒りの感情を示した。
「ふむ・・・たしかにこれは団長に相談だな。」
副団長は片手を上げ、「イスタード」と唱え、手のひらから青い光がどこかに飛んで行った。
「い、いまのはなんですか!!光がぴゅーって!!!」
「やめないか!副団長にもっと敬意を払え!」
「質問してるだけでしょ!ジョルジュは黙っててよ!」
「おまっ・・勝手に名前を呼ぶな!」
ジョルジュは、後ろから羽交い絞めにするように副団長に進もうとしているるいを止めた。
「見かけと違って・・・。団長には報告した。応援が到着したら詰め所に向かおう。」
るいとジョルジュが言い合いをしていると、あっという間に応援がきた。
「副団長、到着しました。」
「ジョルジュは連れていく。警護を頼む。」
「はっ」
応援にきた騎士は、ジョルジュと同じような装備をつけていた。
「あー・・・ここで見聞きしたことは、すべて口外禁止だ。いいな。」
ジョルジュの横にいる見知らぬ服を着ている女に目線だけ動かし、改めて敬礼をした。
「ジョルジュ、行くぞ」
「はっ。ほら、いくぞ。」
ジョルジュは、自分と副団長の間にるいを挟み、不審な行動をしないか目を光らせることにした。
そんなジョルジュの考えはお構いなしにるいは、副団長と後ろにいるジョルジュの装いの違いに目を付けていた。
副団長って偉いんだろうな、たしかにマントの質と色、ジョルジュと違うなー
それに髪の色、副団長って冷徹な頭脳派って感じがしたけど、赤髪で武闘派って感じだ。
団長と正反対って言ってたってことは・・団長が冷徹?なんか陰険そう~
ジョルジュは茶色と金髪って感じだし、黒髪って珍しかったりして。
ふふふっと笑いながら自分の髪の毛を一房掴み、髪色を比べようと目の前に毛先を持ってきた。
「(この女、静かだとなんだか妙だな・・・嵐の前の静けさか?まあ、このまま副団長に失礼がないようにすれば安心d「えええっ!?」
叫び声に反応した副団長とジョルジュは、魔物が出現したのかと剣を抜き、辺りを警戒した。
「魔物か!?・・・あ?」
辺りの異常はなく、るいの安否を確認しようとしたジョルジュの視線の先には自分の髪の毛をみて、絶叫していた。
「髪の色・・・変わってる!!気づくの遅くない?!私!しかもなんだこの色・・・ベージュ?ミルクティ?」
「今度はなんなんだ!驚かせるなよ!!!」
自分の髪の毛を掴み、驚きを隠せない表情をしているるいをみたジョルジュは、剣を納め、斬られたいのかとるいに詰め寄った。
「斬らないでよ!!!でも、髪の色が変わってたらびっくりするでしょう?」
ほら、みてよと言わんばかりに自分の髪の毛をジョルジュに見せるつけた。
「髪色が変わった?俺が見た時からその色だったぞ。はあ・・・詰め所に着くまでの道のりも静かに出来ないのか。」
「だって、驚いたんだもん!いてて」
そう言った勢いで足に力を入れると、ピリッと切ったような感覚が走った。
「どうした?」
本当は優しいんじゃないかと思うほどに、心配してくれた目をしたジョルジュの腕を掴み、痛みが走った足の裏を見ると汚れとともに石か刃物の破片のせいか、血が流れていた。
「わぁ・・・」
足裏の汚れに驚いたるいは、ぱっぱと汚れを払うと気を取り直してまた足を地面におろした。
「おいおい!血が出ていただろう!なんでまた足を下ろすんだ!」
ビリッと音がするとジョルジュには驚きの光景が目の前で繰り広げられていた。
るいは、自分のきていたよれよれの白Tの裾を破っていた。
「おい!お前!なにをやってるんだ!!!!」
焦ったジョルジュが声を出すと、るいは落ち着いた声で言った。
「なにって、足を拭こうと思って破ってるだけ。」
悪びれもせず答えるるいに明らかに動揺したジョルジュは、るいの腕を掴んで服を破るのを止めた。
「やめなさい!もうそれ以上足を出すな!あと足も地面につけるな!」
「はあ?なんなの、それ。片足で歩けないんだけど!うわっ!」
また浮いた感覚になったるいの視線が一段と高くなり、ぐるっと見回すとジョルジュの目線がすぐ目の前にあり、るいはお姫様抱っこをされていることに気づいた。
ジョルジュのマントにくるまれ、鎧が当たりながらも冷たい風から遮られて温かさを感じられた。
「まったく、手が焼けるな。」
肩を落としたジョルジュの肩を副団長は叩き、にやっと笑いながら声をかけ、足を進めた。
「ジョルジュ、魔物じゃなくてよかったな。」
副団長は、ジョルジュに抱っこされているるいの目線に合わせるように少し屈むと、子供に言い聞かせるようにゆっくりわかりやすく伝えた。
「もう少しで詰め所に着く。驚くこともあるかもしれないが、まだ夜中で住民たちが混乱してしまう可能性がある。近くに住居はないが、君の声はとても通るからな。すこしの間だ。静かにできるか?」
まっすぐ見つめてくるオレンジ色の瞳に嘘はないと感じたるいは首を縦に振り、すみませんと謝罪をした。
「偉いぞ。さ、進もう。」
副団長は子供を褒めるように頭を撫でた。
一気にしおらしくなったるいの姿に副団長の凄さを再認識するジョルジュだった。
あれから10分ほど歩くと石で出来た門が見えてきた。
「そろそろだ。」
門に近づくと、高さは3mほどまでに見上げるほどに高かった。
三人が到着すると同時に門番の男性が副団長に言付けをしているようだった。
「副団長、おかえりなさませ。団長室で団長がお待ちです。」
「あぁ、分かった。」
建物に入ると、副団長を見た人全員が立ち止まり挨拶をしていた。
ジョルジュのマントに包まれてお姫様だっこをされているるいに不審な目で見ていることには気づいていなかった。