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お勉強時間


頭がズンズンとしながら、休みを取り返すように仕事を続けた。

でもやっぱり管理が行き渡っているからそこまでやることはなかった。レオンは自分の机以外の部分は、医療者の鑑と言えるくらいに清潔が保たれていた。

ただ、夕方になってもジョルジュのお見舞いとかは誰も来なかった。意外と好かれてないのかな。口煩い小姑みたいなんだろう。さすがに失礼かな。


「ねえ、ジョルジュ。誰もお見舞いに来ないけど、寂しくないの?」

「治療に専念できるように配慮してくれてるんだろう。だからこそ、俺も早く復帰しないといけない」


真面目な顔で話すジョルジュを見て、私は、この世界の仁義は、将軍に仕える武士みたいと感じた。

今まで読んできた小説でもそうだった。

生まれた家が王族や貴族に仕えているという理由だけで、どうして自分自身の命さえも賭けられるのだろうか。自分よりも年下で、家格や魔力量などによって決まる言わばカースト制だ。這い上がることは出来ず、家格が自分のすべてを決めていく、そんな運命というか宿命に抗いたいとは思わないのだろうか。


「ジョルジュは誰に仕えてるの」

「何を言い出すかと思えば、本当にお前は非常識だな。俺が仕えているのはこの国だ、王国騎士団の一員なのだからな。もちろん第三騎士団に所属しているから団長、副団長の指示には従うし、二人を尊敬しているから俺は部下たちにもそう教育している。王国騎士団全員がこのヴィルフレイム王国に仕えているということは常識すぎて質問がくるとは思いもしなかったな」


王国騎士団であることへの誇りがこの人たちの自信に繋がっているらしい。

王様がいれば、ほぼ絶対王政だろう。貴族がいて、国を支えているはずだ。祈念の儀があると言っていたから、神へ魔力を奉納することで国を維持してきたのだろうか。重ねられてきた歴史が、王政や貴族への絶対的な信頼にも繋がっているのかな。さすが、異世界。かっこいい。

ただ、やっぱり文化の違いというのは、反発を起こす大きな要因になるなとも感じた。仕えたいと思う人に仕えることができるのは限られた人だけだろう。日本は選択肢が多すぎたのかもしれない。なんだか窮屈にも感じてしまう。奇跡的に私は、違う国いくことや違う文化があることを事前に理解し、知ろうとしている。普通は無理だろう。

世界史でも宗教戦争が起きたように、知らないことへの恐怖は争いにまで発展するのだ。


「そっか。かっこいいね。そう思えること自体」

「やっぱり変だな、お前は」

「どうして、私を受け入れたの?ジョルジュは知ってるでしょ、私が」

暗い顔をしていたのだろうか、なぜかジョルジュに頭を撫でられていた。

「確かに最初は不審人物だったな。年頃の女性に見えるのに反抗的だし、変な服も着ていた。魔法が

使いたいとか変なことも言うし、団長の機嫌を損ねる天才だしな」

「あれは、あの人のせいでしょ」

「でもお前からは一切の悪意を感じなかった」

「悪意、か」

「この腕、治してくれたんだろう?それに感謝できないほど、俺は愚かではないな」


やっと頭を撫でる手がなくなり、すこし寂しさを覚えるとまた違う手が乗っかってきた。


「こんなところで口説くのはやめておけ、色気がない」


まったくそんな雰囲気でもないし、けが人に口説いてどうすればいいのか。

それにジョルジュは兄にしたい方向だ。恋人なんぞめんどくさい。


「そろそろ終わる時間ですか。ジョルジュの腕もゆっくり動かして慣れさせていかないといけませんね。本当に順調で安心しました、さすがレオン先生」

「男の口説き方、今度は教えてやろうか」

「そんなことより前に言っていた歴史書とかがいいです」


レオンとルイーゼの会話が気心の知れた間柄のような雰囲気で、ジョルジュは驚きが強く黙っていることしか出来なかった。レオンがこんなに話すことができる人物であることもルイーゼがここまでレオンの懐に入っていることもジョルジュにとっては想定外だった。

アレクシスから養子縁組の話がでていたのに進んでいないのは、このせいかと納得できたようだった。

騎士たちの訓練時間が終了した1時間後には、形式的に診察室は終了する。

片づけと明日に向けた補充や準備をしていると、ジョルジュにとってレアな人物が来訪した。


「お疲れ様です。レオン様、ルイーゼ様」

「届いたようだな」

「ラーデさん!また、レオンに何か言われたんですか?」


仲良く話す3人をみて、ジョルジュは目を見開かずにはいられなかった。

(ラーデって、まさかあのワートルラーデ様か?!団長に次ぐ魔力量と繊細な魔力操作で魔導師団副団長にまで上り詰めたって噂の・・・かなり偏屈で細かいって聞いていたが、人は見かけによらないのかもしれないな)


いつもご飯を食べるテーブルに集まると、ラーデはいくつかの本を持ってきてくれていた。

古びた厚い本が3冊。

レオンが話してくれたこの国の建国についての本と神様と魔力の本だった。


「レオン様からルイーゼ様が読まれる本をとのことで、こちらの3冊をまずお持ちしました」

「ラーデさん、私のことは様をつけなくていいですって」

「そうでしたね、失礼いたしました。この一番厚い本がこのヴィルフレイム王国の建国神話が書かれているものです。それに付随する形で神と魔力についての本をご用意いたしました。基本的なことはこの3冊で補完できると思います」


わくわくが止まらない私は、さっそく建国神話の本を手に取った。

すべて手書きの本にやや興奮しながらも汚したら弁償できないことに不安を感じた。

これ、いくらするんだろう・・・


「汚れても大丈夫ですよ、また書き写させますから。気にせず読んでください」

さらっとラーデが言うと、ルイーゼは驚きを隠せなかった。

「はぁ?!こ、この量を書き写させ?え、絶対に汚しません。ここでしか読みません!」

「お前にしては、懸命な判断だ」


レオンの許可ももぎ取り、診察室での業務の合間に本を読み進めていくことにした。

毎日のように診察の合間に本を読みこみ、昼食も軽く済ませるほどに夢中になっていた。ラーデさんはいつも通り毎日夕方に顔を出してくれる。意味が分からない単語や認識が間違っているところを教えてくれる先生の役割を担っていて、私も分からないところは一旦読み飛ばしてラーデさんに聞くようになっていた。

読んでいる建国神話をまとめていくと・・・


何千年もの昔、ヴィルフレイム王国があるこの土地は緑豊かで恵みも多く、周りは海と断崖絶壁で目の前にある大陸を渡る手段もないある意味で陸の孤島のような地形となっていた。

その当時の人間の文明ではこの土地に足を踏み入れることは出来ず、人間との関わりに疲れた神が休息を求めて住み着いたのが始まりだという。

徐々に住み着く神が増え、季節が生まれ、四季が形成された。独自の環境システムが構築され、生き物や植物が支え合うように食物連鎖が循環していた。

その神の中でも五柱の神、火の神フーフラム、水の神オデュリーネ、地の神キシャル、風の神エウロボーゲ、空の神アリュテーヌが土地を管理し、その加護を強く受けた者たちが五大貴族の始祖と言われている。


「ん?五大?四神聖って言われているからてっきり四大貴族かと思ってたけど」

「今は、火水風地の加護を受けている四大侯爵家が毎年の祈念の儀を執り行っている。そのせいもあってか魔力量は貴族の中でもとりわけ多く、文句を言うやつは誰もいない」

神への祈りは、結果として加護の維持に繋がっていることは明らかだ。

「ふーん。じゃあ、空の神はいなくなったの?」

「いや、この国は五柱のバランスで成り立っている。ひとつでも崩れれば、豊穣の国は消滅する」

「ということは、空の神の加護を受けた貴族は残っているけど、今はそこまで力が強くない?」

「あたらずとも遠からずだな」


うーん、貴族は難しいみたいだ。

スッキリとはしないまま、建国神話を読み進めていくことにした。



神々からの加護を受けてきたこの土地は、大陸の人間たちから秘境と呼ばれ、到達することが至高の夢とまで言われるようになっていた。人間たちは様々な方法でこの土地を侵略しようと繰り返し攻めてきたが、海と断崖絶壁に囲まれたこの地形のお陰で数千年もの間、護られてきたらしい。人間の文明発達はまだまだ及ばなかったようだ。本当に長い間、神と自然が共生してきた土地なんだ、豊穣の国と言われる土台が出来たと思えば、それを維持できさえすれば衰退することはないのかもしれない。いや、人間がいない分祈りは不足するんじゃない?・・・・・・あ、自然だ。生きとし生けるすべてのものが神への感謝を何かしらの形で捧げていたからこそ、その見返りとして神たちはこの土地を護ってきたのか。

よく植物や動物の声も聞こえるとかいう人がいるよね、それか。

神たちはすべての声が聞こえるのかもしれない、神なんてチート存在だし、なんでもありだよね。


神様最高。


十分に休息をとることができた神たちは徐々に暇を持て余すようになっていった。

「やはり退屈凌ぎには、人間が一番。いや、歴史書にこんな一文いらないでしょ」

レオンから聞いたように、神様が暇になってきたときに一人の少女がどこからか侵入したことが判明し、神様は食いついたらしい。なんとも自由奔放な神様だ。いや、神様だから自由奔放なのか?

今まで人間たちの行動で多くの生き物たちは命を奪われ、住処を奪われてきた歴史があり、人間そのものを嫌い、その女の子に対しても威嚇し、この土地から追い出そうとしていた。

しかし、残念なことに暇すぎたのだ、エンタメ不足、マンネリってやつかな。土地を管理していた五柱の神が受け入れを許し、女の子に加護を与えたと。


「この人間は無垢な存在です。我々を守る盾になるでしょう」とこのセリフはこの本の引用だったんだ。

メロスは激怒した、的な有名なフレーズだったりして。


この土地を守るために人柱となり、人生すべてをこの土地に捧げた。

「人生すべてを捧げる、ねえ。敬虔すぎる気もするけど、生きるためにはそうするしかなかったのかな。人間はたった一人だけ。この少女はどこから来たのかはこの本にも書いてないのか。人柱としてこの土地に人生を捧げる人が続きに続いて、人間が住むようになったと。歴史は古い国であることは違いないか」


それにしてもレオンは話しが上手いと思う。建国神話の完璧な要約だった。

人柱とか人生を捧げるとか、現代世界に生きていたらまったく考えることがなかった文言だと思う。

信仰することがないくせに、クリスマスやハロウィン、初詣に厄払い、なんてごちゃ混ぜ文化。信仰している人からしたら理解不明で発狂するレベルだ。

いいとこどりで楽しい文化でもあると思う。今話題の多様性ってやつかな。精神論はもしかしたら本来の意味とは180度変化していることは確実だろう。


そして、ヴィルフレイム王国の初代女王として君臨。

今は王様だから、王位継承権上位には女性がいなかったんだろう。女性が初代女王はなんだか同性としてかっこいいと思ってしまうな。

でも、公爵っていたかな・・・祈念の儀を執り行っているのは侯爵家だったはず。

私が覚えている貴族制度では、公爵が王族を除いた貴族の中で最高位、王族の親族や王族の側近が名乗っていることが多い。親族が少ないのかな。少数精鋭系?

侯爵は辺境伯とも言われ、国境付近を護る。あ、土地を管理しているから祈念の儀は侯爵家が執り行ってるのかもしれない。はぁ~、我ながら納得した。

でも、こんなに歴史のある王国なら、公爵家が複数あってもいい気がするんだけど、それも常識の違いなのかな。



診察室とベッドとの往復、食事中もずっと建国神話の考察をして、メイドたちからの問いかけにも生返事が多かった私は、とうとうジャンヌ様に怒られた。


「ルイーゼちゃん!私を見なさい!」

「はいっ!」


急に声をかけられたことで私はうっかり握っていたカトラリーを皿に当ててしまった。


「す、すみません!ぼうっとしていて・・・」

「最近、私も夕食を一緒に摂れないこともを多かったから、今日は楽しみにしていたのよ?それがなによ、ずっと生返事で悲しいわ」

わざとらしく膝に置いていたナプキンで目頭を押さえるジャンヌさんがいたけど、さすがに失礼すぎたと反省した。

「何か理由があるんでしょう?私にも教えて頂戴」

鋭い目つきで笑うジャンヌさんの圧力に屈した私は、あっさりと建国神話の本に夢中になっていることを伝えた。レオンから本を借りて、毎日のように読んでいること、神様の存在と祈りについてずっと考えていると話し、なんとなくラーデさんのことは言わない方がいい気がして黙ることにした。

「そう、この国について勉強していたのね。何も知らない少女がこの土地に迷い込んだ。まるでルイーゼちゃんみたいね。分からないことがあったら私も協力できるから、いつでもセバスチャンやミランダに声をかけて、私からも伝えておくから」


どこまでも優しいジャンヌさんに感謝しつつも、すこしだけ心に引っかかる言葉を残して去っていった彼女の背中を目で追ってしまった。


ーーー


「レオンはなんのつもりで建国神話なんか読ませているのかしら」

自室に戻ったジャンヌは、カーテンの奥から現れた影に声をかけた。

「現段階では確実なことは収集できておらず、申し訳ございません。新しく情報は入り次第、報告いたします」

「そうしてちょうだい」

音もなく消えた影は、ルイーゼ周辺を調査再開し、ジャンヌももう少し情報を集めようと今後の行動計画を練り直した。







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