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選ばれてきた者たち


すべての国民は魔力を持ち、土を耕し、水を清め、火を起こし、風を操り、空気を循環させている。

そのお陰で各領地の収穫量は毎年豊富で、豊穣の国としても有名なこのヴィルフレイム王国では、毎年、国の繁栄や国民たちを守るために神々に祈りを捧げる習慣がある。

それが『祈念の儀』と言われる儀式だ。


毎年、国を想い、祈りを捧げるその儀式は、多くの魔力量を誇り、各領地を管轄している四大侯爵家が担当している。


ーーー


石造りの教会に似た建物の最奥部にある高い天井の部屋では、男女4人が中心にある像に向かい、膝をついて祈りを捧げていた。その者たちは、白い一枚布を巻いた古代ギリシャ人が着ているキトンのような服装で、手を組み、目を閉じて国を想い続けた。


「「「「大いなる神よ、この地と民を守り給え。我らが祈りを奉らん」」」」


同時に祝詞を唱えると、魔力が身体から煙のように立ち上り、中心にある像に注がれていった。祈りの時間は毎日決まった時間に行われるが、年に一度行われる祈念の儀では、開催場所であるこの最奥部の部屋は開放され、すべての国民が祈りの場を見ることができ、一緒に神に祈りを捧げることも多い。

しかし、彼らのように魔力が見えるほどの量を捧げることは難しいとされている。


それ故、人々は彼らを「神に選ばれし者たち」と称賛をしていた。


ーーー


新年を迎えたある日。

祈念の儀が行われる建物に向かう階段を上りながら、楽しく会話をしている4人がいた。着慣れていない白いキトンを纏い、軽い足取りで最奥部へ向かって進んでいた。


「ねえ!今年が18を迎える年だなんて最高すぎない?!四神聖は必ず私よ!ソルブーレ家は常に国を想い動いてきたわ!ミシェルもそう思うでしょ?」

「リュシー、声が大きい」

ふわふわと赤毛ウェーブの髪を揺らしながら、元気いっぱいに話す女性、リュシーをたしなめるのは、光にあたると青みがかった黒髪をもつ大人びた雰囲気をもつまだあどけなさを残す男性のミシェルだ。

「リュシー?あなたは声が通るからもう少し小さくてもみんなには聞こえるわ」

「グレース!あなたって本当に優しいわね!嬉しくてもっと声が出る気がするわよ!」

「ありがとう、リュシー。でも、それじゃあ内緒の話が出来ないわよ?」

「そうね・・・内緒話が出来ないのは困るわ。少し小さくするわね!」

リュシーの隣には、茶色のストレート髪をひとつにまとめた真面目そうな女性、グレースが並んでいた。助言をきちんと受け入れるもその声はまだ大きく、苦笑いをする二人に隠れて遠慮がちな声で話す男性がいた。

「僕はみんなみたいに選ばれないかもしれないから、みんなを応援することにするよ」

やや下を向きながら歩く彼はエメラルドグリーンのストレート髪をひとつにまとめ、風を纏っているようにさらさらと靡かせていた。


「何言ってるのよ!アントニオ!あなただって今こうして私たちと一緒に頑張ってきたじゃない!あなたはヴァンブリーズを背負ってるのよ!」

「そうよ、プランテールだって、領民のためにも国に捧げてきたわ!そう教わったもの!」

リュシーとグレースは、アントニオを励ますように声をかけたにも関わらず、ミシェルは現実を突きつけるように事実を述べ、アントニオの意見に同意していた。

「今年ばかりは僕たちが選ばれるとは限らないからね。アントニオの言ってることはあながち間違っていないよ」

「ミシェル!オークリュラ公爵家として、その発言はいかがなものなの?!あなたが一番プライドをもつべきだわ!」


リュシーは、ミシェルに対して「あなたは選ばれて当然なのよ」「プライドはどこにいったの」などと反論を続けるもミシェルはいつも通りにスルーしつづけていると、あっという間に建物の入口に到着した。リュシーの熱い想いがすれ違ってしまうのはいつものこと、というような顔でグレースとアントニオは静かに階段を上っていた。ミシェルに話しかけ続けたリュシーは、少し息が上がり、深呼吸を繰り返して息を整え、グレースはリュシーを気にかけつつも目の前にある高く白い建物の荘厳さに息を呑んでいた。


「いこう」


リュシーの息が整ったことを確認すると、ミシェルが先導を切って入口に足を踏み入れた。今までの賑やかな雰囲気が一気に変わり、覚悟を決めたような顔つきで4人は建物の中に足を進めていった。


天井が高く、5種類のステンドグラスから光が降り注ぎ、4人のキトンが様々な色に染まっていた。先ほどまで話していた4人だったが、荘厳な雰囲気に飲まれ口を開く者はおらず、ただまっすぐに進んでいった。


何千年も前に建てられた建物だというのに塵一つなく掃除が行き渡っており、今年作られたばかりと言われても分からないほどだった。石造りにもかかわらず、風化もしていないように見えた。

入口をまっすぐ進むと祭壇があるが、そのまま壁に向かって足を進めると、ぐにゃんと目の前の景色が揺れ、最奥の間への近道が開いた。

迷うことなく足を進めるミシェルに続くように壁に進む瞬間、リュシーは目を閉じ、本当に通れたのかと目を見開くと、目の前には天井まである大きな白い扉がそびえたっていた。

周囲には何もなく、ただ白い空間と目の前の白い扉があるだけだった。その扉には、装飾はなにひとつなく、扉を上げるためのくぼみや取っ手も見当たらなかった。


「ここが聖堂の入り口・・・なのよね」


緊張が伝わってくる声でリュシーが呟いた。

4人はどうしたら開くのかと目で扉を観察し、開けるヒントがないか探り続けていると突然、目の前の白い扉が内側に開いた。人ひとりが入れる狭さしか開かず、4人は目を合わせ、ミシェルから最奥の間に進んでいった。




「・・・来たわね」

進んだ扉の先には、祈念の儀が行われる場所があり、進んできた道は、祈念の儀を執り行う者しか通れない特別な道だった。この日は、四神聖が選出される前、最後の祈念の儀が執り行われていたのだ。

中心に鎮座している像の周りにはすでにキトンを身に纏った4人が祈りを捧げ終わり、ミシェルたちを待っていた。


「ミシェル」

「兄様!次はいつお会いできるのかと待っていたのです!」


ミシェルより少し低めの声が聞こえると、大人びた印象をもったミシェルが目を輝かせ、兄と言った人のもとに駆け寄った。撫でてほしいと言わんばかりの上目遣いで子供のようにイキイキとした笑顔で見つめる姿は、まるで兄を神のように崇拝しているようにも見えた。その兄は表情を崩すことなく、ミシェルの青みがかった黒髪をひと撫ですると、目を閉じて満足げに口角が上がったミシェルの顔を見つめた。


リュシーたち3人は、年齢以上の落ち着きさを放つミシェルではなく、子供のようにニコニコと笑うミシェルを見て嬉しそうに見守っていた。


祈りを捧げていた中の一人の女性がリュシーたちのもとへ近づいてきた。

綺麗な赤髪をひとつに結い上げた女性は、ミシェルの兄と目配せをし、口を開いた。

「姉様・・・」

リュシーがぼそっと呟くも、反応することなくリュシーの姉は話し始めた。

「さ、ミシェルもそろそろ離れる時間よ。あなたたち以外に四神聖が選出されたとしても、一度選ばれた者は日々国を想い、祈り続けるわ。私たち貴族は、どんなことがあっても祈りを捧げ、魔力を奉納することで領民たちを、そしてこの国を守るのよ。18歳になったあなたたちなら、正しく理解できるわよね?」


すっと表情を戻したミシェルは、兄から一歩離れると、まっすぐにその女性をみつめ、強く頷いた。


こうして四大侯爵家の選ばれし者たちは、代々祈念の儀の慣習を伝承し続けてきた。

ミシェルたちは教えてもらった通りに像を囲むと、膝をついて、目を閉じ、祝詞を唱え、祈りを捧げた。


「「「「大いなる神よ、この地と民を守り給え。我らが祈りを奉らん」」」」


祈りを捧げているとゆっくりと細長い魔力となり、中心の像に注がれていった。


「そこまでだ」


ミシェルが兄と慕った男の声が空間に響いた。

まだ正式な祈りをしていなかった彼らにとって、長時間の祈りは魔力欠乏にも繋がってしまう。もちろん学園に行き魔力操作を習得している彼らだが、国への祈りは、実践を重ねていくことでどのくらいの魔力を捧げるか感覚で分かるようになってくるのだ。この微妙な塩梅もほぼ世襲制になっていることで良くも悪くも引き継ぎがうまくいっているのが現状である。ただし、今年は四神聖という特別な存在が選出されるため、選出されることがなかった四貴族は、予備としてサポートに入っていくことになる。家格を落とさないためにも今年の四神聖に選出されることは、言わずもがな当然の流れになっている。

ここで選出されなければ、どんなやっかみを言われるか分からない状況で、18歳になった彼らはいつになくプレッシャーに押されていた。


「ふぅ・・・感覚を早く掴まないといけないな」

ミシェルたちは、予想以上に魔力が注がれていたことに驚き、疲労を感じていた。


「今日から毎日この時間に来てちょうだい。こんな感じで徐々に慣れていく必要があるわ。今日は初めてで疲れたでしょう?ゆっくり休むといいわ」


祈りが終わると、全員が歩いて聖堂を後にした。



***



「ミシェルは18歳になっても兄想いの可愛い男の子ね、微笑ましくて笑っちゃったわよ」

「自慢の弟だからな。お兄ちゃん嫌いってなったら泣くぜ?」


先ほど最奥部で祈りを捧げていた4人が初回の引継ぎを終えて、次回の祈りの準備をしていた。

リュシーの姉、アリア=ソルブーレはひとつにまとめていた髪を解き、着ていたキトンをミシェルの兄である、ライアン=オークリュラに乱雑に渡した。

ライアンは4人のキトンを回収し、祈り後の清めを行っていた。塩と酒を用いて洗浄魔法を使うことで穢れを清めている。


「しかしあの顔で兄貴にデレデレって大丈夫か?俺が女ならちょっと引くぜ」

「アントニオのおとなしさを半分分けてもらった方がいいんじゃない?」

「リュカはもっと優しさをグレースから分けてもらえ。もっとモテるぞ」

「毎回同じことばっかり言って、筋肉ばっかり鍛えてんじゃないわよ」


アントニオの叔父にあたるオスカー=ヴァンブリーズは、鍛え上げた体躯に若草色の短髪が爽やかさを感じさせている。体育会系のオスカーはアントニオのもつおとなしさは微塵もなかった。

リュカ=プランテールはいつも通りの会話と言わんばかりに椅子に座ったまま、オスカーの風魔法で浅葱色の髪をまとめてもらっていた。


「オスカー、私の髪もやってくれる?」

「おう、いいぜー」

「オスカー俺もー」

キトンの清めが終わったライアンがそれぞれにキトンを返却しながら、だるそうにオスカーに声をかけていた。声のする方向を見ることなく、オスカーは断りを入れた。

「お前は自分でやれ、俺は女の子の髪しかやりたくないの」

「ちぇー、いいじゃん。俺の髪もキレイに手入れしてるんだぞ」

「ミシェルがこんなお兄ちゃんを見たら、愕然としちまうんじゃねーか?」

「こんな姿を見せるのはお前らだけだよ」

少し寂しそうにライアンが呟くと、髪がまとめ終わったリュカがバシンと全力でライアンの背中を叩き、肩を強引に組んだ。


「っ痛!」

「ライアン、私たちは選ばれた瞬間からもう一蓮托生だろ!どれだけ時間を共にしてきたと思っている。そんな顔をさせないように抱き締めるしかないか?」

「こら、その前に言葉遣いを正せよな。まったく」

少し照れるように笑うライアンをみて、リュカ、オスカー、アリアの三人は目配せをし、にやっと口角を上げてライアンをみんなで抱き締めた。


「四神聖は、誰になるんだろうな」

「そればっかりは、我らが神の思し召し次第だ」


千年に一度の記念すべき年は、四大侯爵家にとっても王国にとっても、歴史が変わる可能性のある危うくも魅力的な一年になることをこの四人は感じていた。


心から笑える時間があることが、四人の唯一の救いだった。



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