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選ばれし者たち




「やっと来た。・・・我が主役だ」




―――


「テステス・・・マイクテスト」


雲一つない晴天の日、雪が解け始めた春の初め。

珍しく午前の訓練がなく、騎士団本部の広間に騎士たちが全員集まっていた。各団ごとに分かれ、誰一人ずれることなく並んでいた。騎士たちが集まっている広場の前には、少し高くなるように積まれた箱があり、そこには緊張と喜びの表情を隠しきれない男が踏みしめるようにゆっくりと足を上げ、箱の上に立ち、目の前の騎士たちを見下ろしていた。


「んんっ。あー、あー。みなさん、こんにちはっ!

いつも元気な第三騎士団の顔、マシューです。はははっ、拍手はよしてください」

意気揚々と制止の声をかけるが、「何を言ってるんだ」、と呆れる騎士が多かった。

第三騎士団の騎士たちは、「またやってるよ」「あいつの心臓毛が生えてるよな」と感心するまであった。


「さあ、みなさん!今年は我々、王国騎士団が最も試される機会がやってきます。

分かりますね?ふふふ

それは、なぜか・・・なんていったって!

千年に一度、選ばれし四神聖は、一体誰の手にぃーーー!!!

まさか僕が生きてるときに四神聖が見られるなんて…はぁ。運が良すぎます!感謝します!神よ!

この記念すべき年を迎えて3ヶ月が過ぎましたが、とうとう迫ってきました、『神聖祈念の儀』!

ひと月後に開催されます!

国民たちも雪深いにも関わらず、せっせと準備を進めているのをみなさん知っていますよね?

笑顔で始まり、笑顔で終われるように我々王国騎士団が一致団結して、国を守っていきましょう!

そして、いつも以上に気を引き締めていく必要があります。

例年に比べ、非常に多くの賓客がいらっしゃるからです。国際問題にならないよう全員で支えていくのです!貴族だから、平民だからと言っていられませんよ!

国民たちも活気に溢れていますから、何事もなく平和に終われるよう、我々が頑張りましょう!

以上です!」


パチパチ…パチ

清々しい顔で箱を下り、騎士たちに一礼をするマシューにある一部から拍手喝采であった。

半分以上の騎士たちは、また言ってるよと少し呆れるように手を叩いていた。


毎年行われる祈念の儀は、毎年第一騎士団から第三騎士団交代で警備をしているが、今年は四神聖が選出される特別な年で神聖祈念の儀と呼び方も改り、国全体が会場として豪華絢爛に装飾がされるのだ。

さらに、四神聖は魔力を持つ者全てが、選出対象である。

つまり、毎年の祈念の儀で選出されてきた貴族以外の平民も四神聖として崇拝対象になる可能性もあるのだ。平民が貴族を喰らうことができる下剋上の年とも言われているため、平民に対してのやっかみを防ぐためにも警備は手厚くせねばならない。


騎士団全員で警備体制を整えるべく、一人の騎士が一歩前に出て、全体会議が始まった。


「第一騎士団団長のヴォルティスだ。今年は四神聖が選ばれる。いつものような貴族の遊びのようなレベルじゃないぞ。まぁ、貴族の方々からの様々なご依頼がある可能性は高い。よって、警備は始めから手厚くする必要がある。今年は建物、賓客、貴族、平民と配置場所はかなり多くなる予定だ。情報や位置を共有し、不審者が入ったらすぐに動けるようにする」


黒髪を撫で付けたオールバックに胸筋ムキムキのヴォルティス団長は、体育会系ニコラウスと並ぶほどに身体がでかい。「おおおーーー!」とヴォルティス団長の後に続く大声を出す暑苦しい部下たちは、第一騎士団っぽいと言われるほどに分かりやすい。


ヴォルティス団長の左隣にもう一人の団長が並んだ。

「第二騎士団団長のヘルマンだ。段取りや指揮は、いつも通りに我々が担当する。脳筋な奴らにも分かりやすいように段取りをしているので励むように」


片眼鏡をした至極真面目に騎士団服を来ているヘルマン団長は、線が細く知的な印象をもつ。ヴォルティス団長がでかいこともあるが、ヘルマン団長もしっかり筋肉はつき、均整の取れた体つきだ。第二騎士団は第一騎士団のように声を荒げる訳でもなく、規律に従うように静かに並んでいる。


続いて、ヴォルティスの右隣には、赤髪が眩しく輝いている大きな体躯が並んだ。

「第三騎士団副団長のニコラウスだ。今年は千年に一度の記念すべき年。誰もが安心して、国の繁栄を祈り続けられるように我々の力を存分に発揮しよう!」


ニコラウスは他の団員からも人気があり、「おおおーー!」と全体の士気が上がったように感じた。

その姿をみて頷きながら微笑むニコラウスに対して、左側から嫌味が届いた。


「ニコラウス。今年もお前のとこの優秀な団長様は出てこないのか?全く困ったものだな」

黒髪を額から撫で付けるようにかきあげ、自信溢れる第一騎士団のヴォルティス団長


「ヴォルティス、お前もアレクシスのことが好きなようだな。毎年よくも飽きずに」

笑顔をくずことなくあっけらかんとした態度をする第三騎士団のニコラウス副団長


「全く、いつものことじゃないか。あの第三をまとめられているのは、ニコラウスとアレクシスのお陰なのは、お前も認めざるを得ないだろう」

無駄な会話を嫌う、効率化を求める第二騎士団のヘルマン団長


三人とも目線を騎士たちから外すことなく話しており、ヘルマンは、話し合いを進めるためにヴォルティスを黙らせた。そして、ヘルマンのの号令で集合会議は終了した。

騎士たちは騎士団本部の訓練場に移動し、毎年恒例の合同訓練の準備は始まっていった。


各騎士団のトップ3は広間に残り、神聖祈念の儀の警備について会議を進めることになった。

多くの騎士たちが移動したことで、風が通り、蒸し暑い空間から快適な空間に変わった。

20人は座れる長いテーブルにそれぞれが着席し、進行役のヘルマンの声を待ったが、第一声を放ったのは別人だった。


「はぁ、今年はめでたいとこだが、賓客も来るわ貴族のお守りもするわで、手が足りると思うか?騎士団の人数はそこまで増えていないんだ、毎年の警備で丁度いいってのに。四神聖候補の警備もだぞ?名だたる名門方には、お抱えの騎士団で自己防衛しろって言ってみたらいいじゃねーか」

ヴォルティスは背もたれに身を預け、姿勢を崩して座りながら火のついていない煙草を咥えていた。

火をつけようとしているヴォルティスの手の甲からバチっという音が鳴り、ヘルマンが目を細めながら指摘した。


「そんな軽口を叩いていると、また呼び出されて、今度は職務停止になりますよ」

「いってぇな。いちいち電気流してくんな。分かってるが、ここでくらい言ってもいいだろ。まともに俺たちの職務について理解がある貴族様たちは少ないだろうよ。候補者に平民がいた場合、王城で教育が始まるが、それまでになにかあれば……おい、ニコラウス。あいつがいないのはもういいが、ジョルジュはどうした。ったく、第三は自由すぎやしないか?」

まだまだ不満が言い足りないようなヴォルティスは、ニコラウスだけで座っていることに気づき、また嚙みついた。

「……そうだな、言っておくべきだろう。ジョルジュは今、レオンの治療中だ」

いつも明るい表情しかしていないニコラウスの顔が少し曇った。


「おいおい、それじゃあ、騎士の配置バランスが崩れちまうじゃねーか!」

「おい、そこじゃないだろ。ニコラウス、ジョルジュの容態はどうなんだ。レオンのところにいるのだから、治療は進んでいると思うが……」

背もたれに寄りかかって座っていたヴォルティスが前のめりで声を荒げると、ヘルマンは顎に手を置き考え込むようにニコラウスに聞いた。


「訓練中に右腕をケガをしたんだ。訓練用の武器の点検不足が原因だと考えているが、傷はかなり深かったと思う。レオンからは安心していいと言われたが、それ以降の連絡はまだきていない」

会議に参加している7人は、口を噤み黙るしかなった。


「……ジョルジュ抜きとなると、かなり警護配置が難しくなるな」

ヘルマンは、騎士名簿を見ながら警備配置を考え込んでいた。


ジョルジュはああ見えて、かなり優秀だ。あの第三騎士団でアレクシスとニコラウスに次ぐ実力者と言っていい。気さくな性格が弱そうに見えることもあるが、頭も切れるバランサーだ。部下からの信頼も厚い。パワーと戦略のバランスがいい第三騎士団がうまく機能しないと正直、今年の護衛は厳しいと言える。これは、さすがにヴォルティスも同感なはずだ。

今年は、貴族だけでなく、国民全員を護衛する感覚に近い。不可能に近いが、なるべく実現せねばならない。貴族はもちろん、18歳すべての国民が第一優先、王族、貴族に来賓客・・・頭を抱えてしまうな。

宰相から護衛リストをもらうことになっているが、いつもより分厚いことには違いなさそうだ。

実戦経験も十分に積んでいる第三騎士団がうまく動けないと計画は破綻してしまうが、それは絶対に避けたい。アレクシスは毎年いないが、頭脳戦も肉弾戦もいけるから最終的には、問題ない。やはり問題はジョルジュの不在だ。あいつは、第一と第二騎士団のやつらとも関係は良好だし、すべての潤滑剤だ。レオンに治療の進捗を聞いておくしかないか。


焦りはせずとも、この状況でヘルマンは、持ち前の頭脳で神聖祈念の儀での警護計画を修正していき、その内容については、ヴォルティスも納得し、長引くと思われた会議も想定時間内で終了した。


***


騎士たちの会議が終わる頃ーーー


「なんて運がいいんだ!今年は、千年に一度の四神聖が選ばれる年。我らが四神聖に選出されることは間違いないだろう」

「四神聖に選出されたら、わたくしたちも安泰ですわね」


豪華絢爛な彫刻が施された広間では、ヴィルフレイム王国の貴族たちが集まっていた。


火のソルブーレ侯爵家

水のオークリュラ侯爵家

風のヴァンブリーズ侯爵家

地のプランテール侯爵家


それぞれの当主が毎年行われる祈念の儀に向けた会議が行われていた。


「今年もエクレユール家は不参加ですのね」

「毎年選出されないんだ、こちらに来るのさえ憚られるだろうな」


鍛え上げられた身体に赤い髪に赤い瞳が印象的なソルブーレ侯爵は、かっちりとした詰襟の服を着こなしていた。ソルブーレ侯爵に合わせるように会話をするのは、ヴァンブリーズ女侯爵だ。薄緑の髪が風でふわふわと揺れながらマーメイドドレスから伸びる白い脚を組み替えながら話をしている。


「いや、今年はそう悠長なことは言っていられないかもしれないぞ。純粋に魔力量が多い上位4名の18歳が選出される。全国民対象になるのだ。予想外の出来事への対応も考えておくに越したことはない」

「プランテール侯爵、質実剛健であるあなたにぴったりの発言だな。しかし、我々四大侯爵家は毎年の祈念の儀で国の繁栄を祈り続けていることも事実だろう」

ソルブーレ侯爵からの発言に理解を示すように頷くプランテール侯爵は、浅葱色の髪と茶色の瞳でソルブーレ侯爵とは異なり知的な印象を与えていた。


毎年の祈念の儀では、今集まっている四大侯爵家から選出された人々が神への祈りを納めてきた。長年の功績を踏まえ、侯爵位へと上り詰めていった。

広大な土地を治め、神を祀り、神に祈りを捧げている彼らの領地では、大きな問題が起きることなくただ平穏な日々が過ぎていった。領民たちも領主として活躍する侯爵家を尊敬し、均衡を保つことが出来たのだ。


「この長い年月を経てもなお、暴動は起きず、収穫も安定し、国の繁栄は衰えていないではないか。我々の功績も考慮すれば、四神聖に選出されるのも当然と思わずにはいられないだろう」

「そうですわ。わたくしたちを凌ぐほどの魔力を持つものはそう多くはいないはずです」

「それは思い込みが激しすぎるのではなくて? 」

ソルブーレ侯爵とヴァンブリーズ女侯爵の会話に水を打つように声が響いた。


「千年に一度の四神聖選出なのです。今までの功績にあぐらをかいているようでは、王侯貴族として恥ずかしいとはお思いにならないのですか」

青い瞳でまっすぐとソルブーレ侯爵を見つめる女性は、貴族としての品位を崩すまいとするように表情と姿勢を崩すことなく佇んでいた。

「やれやれ、オークリュラ侯爵が不在とはいえ、奥方が勝手に発言されるとは。侯爵も大変そうだ」

「ソルブーレ侯爵、わたくしはオークリュラ侯爵家の代表として参加しているのです。わたくしの発言はオークリュラ侯爵家としての発言と捉えていただいて構いませんのよ」

「これは驚いた!オークリュラ侯爵は随分と奥方を愛されているようで何より。甘やかししぎては、主人に噛みついてしまうことをお伝えしておかなければならないな」


はははと笑い、部屋の壁に控えている執事に紙とペンの用意しておくよう声をかけていた。

ヴァンブリーズ女侯爵もソルブーレ侯爵に続いて、優位に立っていると見せつけるように笑みを含んでいた。


「さて、もうすぐ子供たちが初回の引継ぎを終える頃でしょう。ひとまず、我々の枠でお呼びする賓客の方々を決めておきましょう。今年は各家、大所帯になりますから、騎士団との連携も取っていかねば賓客の皆様の安全を保つことも難しくなる」


プランテール侯爵が空気を切り替え、会議を進行していった。


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