ワートルラーデの勘違い 後編
翌朝、魔法師団に向かうとすでに団長は不在で、騎士団に向かったとのことだった。
メイド長からの報告では、ひとまずメイドから退職の意思はなかったようだ。引き続き、ケアを頼むと伝えた。
「やはり騎士団になにかあるな。探ってみるか」
ねるべく午前に大方の業務を終わらせ、昼過ぎにレオン様のところに向かうことにした。
さて、レオン様はまた騎士たちの手当てとそのときの悲鳴を聞いて楽しんでいるのだろうか・・・
お楽しみの時間を邪魔してしまうのは、気まずい気もするが、騎士団の動向もみなければならないからな。そろそろ午後の訓練も始まる頃で、レオン様も休憩をとりやすい時間帯になっている。
銀色の装飾がついたマントと手入れの行き届いた長髪を靡かせながら、診察室に向かうと騎士たち数人が診察室の入口に集まり、こそこそと中を覗いていた。
後ろからみるとなんとも言えないほどに情けなく映り、私は佇まいを直すよう声を上げた。
「貴様ら!なにをしているのだ!騎士ならば、威厳のある立ち姿を見せないか!」
うだうだとしながら、謝罪をして逃げ出すなど騎士としてありえない!
しかも診察室の前にいて、入室する者の邪魔になるではないか、まったく。
騎士たちがいなくなったかと思えば、診察室に女がいたのだ!誰だ、貴様!
「おい!答えないか!」
名を名乗ることを催促するとその女は、習ったばかりの形だけは出来ている淑女の礼をした。
「お初にお目にかかります。ルイーゼと申します。レオン様の助手として本日よりこちらに勤めさせていただいております。」
貴族の輿入れ、いや養子にでもとられたのか、家名を問うても返ってくることはなかった。勝手にレオン様の本を我が物顔で読み、それに加え、女は、レオン様を呼び捨てにしたのだ!万死に値する!
「はぁ?本返してよ」
「なんだ!その口の利き方は!」
「その本はレオン様のだけど。雑に扱わないでもらえる?」
「ならば、お前も勝手に触るのではない!」
「レオン!なんなのこの人?失礼な人しかいないんだけど!むかつく!」
「貴様ッ!不敬極まりない」
非常識にもほどがあるルイーゼとか言う女の息の根を止めてやろうと力を込めると、レオン様が芯から冷えるような声で私の名を呼び、身体が勝手に膝をつき、右手を心臓に当てる最敬礼をしていた。
「ワートルラーデ。ルイーゼは俺の助手だ。」
怒りで我を忘れてしまったことに、反省と未熟すぎた自分の行動に恥ずかしさまであった。
さっきまでは気づかなかったが、あの女が呼吸を再開するとともに魔力が彼女の身体を巡り、柔らかい風が髪を靡かせるとベージュの髪色が金色にも見えた。
暖かくも優しい黄金の光を放つ魔力が診察室全体を包みこむように溢れ、思わず涙が出そうになった。
「これは、建国神話の・・・?」
呼吸が落ち着くと、徐々に魔力が安定したのか先ほどの光は消えてしまっていた。
それにあの魔力・・・ただ者ではないぞ。
「アレクシスから少しは話を聞いてるだろう」
団長がなにか噛んでいるだと?聞いてないぞ・・・まさか・・・養子縁組の相手とはこの方か!
「しかし、団長はまだ書類提出をしていないと記憶しておりますが、」
「拒否してるんだよ、ルイーゼがな」
「拒否、ですか。なぜそんなことを?」
「その話は、お前に入っていないのか。探ればすぐ分かる。俺にとってはいい機会だった」
久しぶりにみる穏やかな表情に、私は、驚きと安心がどっちも襲ってきた。
とにかく、とんでもない事態であるため、私は、ルイーゼに腰を折って謝罪をした。
「この度は、ルイーゼ様に私の謝罪を受け取っていただきたい。今後は、あなた様の盾となり、剣となりましょう」
謝罪だけのつもりがなぜか護ると言ってしまった。それに団長とは避けたい事情があるらしいから、私の立場が都合がよいだろう。レオン様も同意をしているからには、私も全力を注ぐ必要がある。悔いはない。しかし、彼女は、レオン様を裏切らないならいいと。そのついでに護ってもらえばいいと突拍子のないことを言い出した。普通は護られるものなはずなのに、予想もしていなかった返事に返答の言葉がでなかった。レオン様が説得してくれたが、ここまでする理由として、あの魔力の光以外になにか理由があるのではないかとも思う。
腹を括り、レオン様に問うと、まさかの複数属性を扱えた。
しかも、団長でしかみたことのない属性の具現化までしている。参ったな、これは。
保護対象に決まっている。滅多にやらない護りの印を結び、保護観察と基礎魔術訓練を行うことにした。
これはレオン様にも了承を得ている。自衛も必要だからな。
そこから毎日、団長には隠して、ルイーゼの魔力管理と使い方について指導を始めた。
私の部屋や屋敷に飛び、負荷をかけながらも魔力循環を止めないようにすることや、基本的な体力づくりもしてきた。
ルイーゼの見た目は、貴族令嬢のように顔は整い、髪も手入れが行き届いている。
すべては、ヴァロリアント家の者たちの愛が為すことなのかもしれないが、時折、乱暴な言葉やはしたない行動もある。貴族以上と渡り歩いていく未来が見えている彼女には、言葉遣いや教養なども勉強してもらわないといけないが、それはセバスやミランダがやっていくはずだ。彼らは聡いからな。
一方で、魔力量や質、魔力を扱うセンスは私が同年齢と時よりも上と認めざるを得なかった。
「ラーデさんっ、もう走るの、はぁっ、無理、きついよ・・・死んじゃう!」
パンツスタイルにポニーテールを揺らしながら、汗だくで愚痴を言うルイーゼにも慣れてきた。
「そんなはしたない言葉を使ってはいけませんよ。」
話せる余裕があるルイーゼには、もっと負荷をかけられると判断し、普通に魔力を均等に纏っていれば全く問題のないレベルの魔力を放つことにした。
「さあ!ムラがあるといけませんよ~集中しましょう!」
「うわっ!ちょ、待ってよ!」
「お待ちください、ですよ」
どんどん成長していく姿を見られるのが嬉しくてつい笑顔になっている私だが、魔力にムラがあるところは、私の魔力と反発してピリッとくるようにしてある特別訓練もそろそろ佳境に入っていた。
「さあ!最後ですよ!今日はクリアできますよ!」
「もうっ、、早くしてっ!」
無作為に私の魔力の弾を放ち、同等の魔力をぶつけることですべて昇華させるのが最後の訓練だ。
私の魔力と同じ量、質をぶつけないとどちらかに魔力の反発がきて大惨事になる。魔力を見極める能力とそれに見合った魔力を出力すること、同時に訓練できる優れものなのだ。
「ちょっと、!!いつもより、多くない?!」
「あなたのレベルに合わせているのですよ。大丈夫です。集中です!」
「まじぃ?!無理っ、だって、ば!!!」
ルイーゼをいたぶる構図にも見えるが、ルイーゼに合わせているのも骨が折れる。私の訓練にもなって一石二鳥で助かっているのも本当だ。
「終了です」
「はあっ、はぁっ・・・!終わった?!?!終わったあー!!!」
両手を上げて、仁王立ちのまま後ろに倒れて息を整えているルイーゼは、なんとも貴族令嬢には見えないが、さすがに指摘する気も起きないほどに努力の成果が出たのだ。
「おめでとうございます。私もとてもいい訓練になりました。」
息が整うのを待っていると、よっこいしょと聞いたことのない単語を言いながら、立ち上がるルイーゼは優雅に淑女の礼をし、私に挨拶をしてくれた。
「ワートルラーデ様。私の訓練にお時間を割いていただきありがとうございました。引き続き、よろしくお願いいたします」
そのお姿は、聖女というよりも明るく眩しい笑顔で民衆を率いる女神のように見えた。
最初の出会いからとんだ勘違いをしていたことを、再度、心から謝罪をした。




