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そして、物語は始まる


「うわあぁぁぁぁ!!!!死ぬー!」


大量の枯れ葉の山に落ち、るいは、九死に一生を得た。

いててて、と枯れ葉の中でなんとか立ち上がり、全身についた枯れ葉を落としていった。


「さむっ」

ぴゅうっと吹いた風に身体を縮こまらせ、自分を抱き締めるように体をさすった。

よれよれの白Tのままって、コートとか着せてくれなかったわけ?

「雑すぎるだろ、佐々木!」


その時、カサカサカと背後から草木の音がした。


「何者だ!!!」


そして、物語は冒頭へ遡る。


ーーー



「魔法使いになりたいだけなんですぅーーーー!!!命だけはぁー!」


周辺警備をしていた騎士団のジョルジュの足にしがみつき、命乞いをするるいに彼はドン引きしていた。

るいは涙も鼻水も流しており、騎士団の下っ端をしごいているような感覚に陥りそうになった。


「お、おい、分かったから、足から離れろ!」

彼は両手剣を鞘に納め、るいの頭を押して自分の足から引き剝がそうした。

「殺さないでくださいいいい~!!!!!」

「わ、分かった!剣はもう納めた!ほら、みてみろ!持ってないだろう!」

両手を上げ手のひらになにも持っていないことをるいに示すと、今すぐ自分を斬ろうとはしていないことに安堵し、るいは素直に足から離れた。


「はぁ・・・身分証をみせてみろ。それだけにしてやる。」

ジョルジュは目的が分からないるいを不審に思うも、国に危害を与えるほどの存在ではないことを確信した。そこで穏便に済ませようと片手を伸ばし、身分証を催促することにした。


「・・・」

え、身分証なんてない!財布も置いてきてるし、自分を証明するものなんてないよ!

それに佐々木は、本名のるいじゃなくて、「ルイーゼ」って名乗れって言ってたし・・・

ルイーゼの証明なんてもっと無理だ!!!!考えろ!宮城るい!!!!


「おいおい、まさか、身分証がないなんて言わない、よな?」

「・・・」

ジョルジュは、一向に口を開かないるいに恐る恐る聞いた。

「ない、のか?」

「・・・やっぱり斬られちゃいます?」

てへっと笑いながら自分を見下ろしてくるジョルジュに冗談めいて口を開いた。

あちゃーとジョルジュは手を額に当て、天を仰いだ。


その姿を見たるいは、迷惑をかけてしまうからさすがにこの場には居れないと判断し、意を決して森の奥に進むことを決めた。

サク、サクと枯れ葉を踏みながら歩き始めたるいに気づき、男は焦って引き留めた。

「おい!どこに行く!」

「やっぱり死は免れないと思ったので、とりあえず逃げようと思います!お兄さんにご迷惑はかけませんから!」

振り返ることなく足を前に進めながら、決心を決めてに言い切ると、男は焦ってるいを追いかけてきた。


「まてまてまて!森の奥には魔物がいる!危険だ!」

「いやいや!ご迷惑かけないって言ったじゃないですか!追いかけてこないでくださいよ!」

追いかけてきたジョルジュから逃げようと、足の進みを早めるが、足が長くあっという間に追いつかれ、腕を掴まれてしまった。


「逃げるな!」

「じゃあ、追ってこないでください!どうしろっていうんですか!私はまだ斬られたくないし、身分証もないし、家もない!お兄さんは私を斬るしかないじゃないですか!私はただ!魔法使いになりたくてここに来たんです!大体!お兄さんも誰なの!」

溜まった鬱憤を晴らすように地団駄を踏み、思いの丈をぶちまけた。


「落ち着け・・・騎士団長に相談する。」

「出来るんですか!そんなこと!お兄さん下っ端ぽいし!身元不明者を斬らずに騎士団長にそう・・d」

「下っ端だと?!わっ・・なんだ!」

下っ端という言葉を不快に感じたジョルジュは反論したが、それが聞こえていないのかるいは目を輝かせながら顔を近づけ、ジョルジュを見上げてきた。


「騎士団長って言いましたよね?!っていうことは、お兄さんは騎士団の人だ!

騎士団長はやっぱり大きいですか?かっこいい?強くて、魔法も使えたりしますか?!」

るいは手を組み目を閉じながら、神に祈るな姿で妄想の旅に出てしまった。


ジョルジュは、るいが急に話し始めると思えば、祈る姿で黙りこくったるいをみて、さすがになぜ斬らなかったのか、反省し始めた。

ため息をつきながら、今後の対応をどうしようかと悩んでいると、遠くから声が聞こえた。



「ジョルジュー。交代にきたぞー。ったく・・・どこ行ったんだあいつは。」


警備路になっている道を松明を持った騎士がジョルジュを探していた。

その声の主を確信したジョルジュは、合流するのをなるべく引き延ばす方法を考えていた。


「この声は・・・まずいぞ!」

「え!なになに!騎士団長!?!?」

妄想世界から戻ってきたるいがジョルジュにまた近寄ってきた。


「離れろっ・・!騎士団長ではない。こんなところに来るわけないだろう。副団長だ。」

「副団長っ!やっぱり冷徹なクールな感じですか?眼鏡でもいいかも!」

「失礼だぞ!副団長は、非常に力にも優れたお方だ!適当なことを言うな。」

ジョルジュは、るいを自分から引き剥がし、いかに副団長が優れた人なのかを語り始めた。



交代の時間になっても出てこないジョルジュにしびれをきらして、探し始めた副団長は、なにやら男女が言い合っている声が聞こえ、「こんなめでたい日に、喧嘩か?」と仲裁しようと声のする方向へ進み始めた。徐々に声が大きくなってくるにつれ、男の声が聞いたことのあるような印象があった。

森の中を進むにつれて声が大きくなり、何を話しているかはっきりと聞こえるまでに近づくと、聞き慣れた声は、探していたジョルジュの声だったことが分かり、女の声と交互に聞こえ、副団長は示しがつかんなと呆れた。


「おいジョルジュ、こんな日に逢い引きか?仕事中だぞ、まったく。・・・お?」


森の茂みから身体を出した副団長と呼ばれる大男は、警備用の重厚な装備に身を包んだジョルジュと寒くないのかと疑いたくなる白い布を纏っただけの女が痴話喧嘩をしているように見えた。


副団長の声がはっきりと聞こえた途端、身体が勝手に上官への挨拶をとった。

「はっ!副団長!第三騎士団ジョルジュ、ここにおります!」

るいがいるにも関わらず、両手剣を抜き、顔の前で構え挨拶をした。


「わっ、あっぶない!距離を考えてよ!斬られたくないって言ってるでしょ、さっきから!」

顔の前を刀身が通ったため、るいはジョルジュに反抗して声を荒げた。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                

「うるさい、お前が離れないからだ。当たらなかっただろう!これは上官に対する挨拶で誰もが知っているマナーだ!」

ジョルジュは目線をまっすぐに姿勢を崩さず、声だけをるいに向けた。


「よい。直れ。」

「はっ」

副団長からの号令に従い、ジョルジュはジャキンと剣を納めた。

急に溜まりこくったジョルジュを不思議に思いながら、るいは二人の騎士団を交互に見つめていた。


「で、誰だ。なぜ斬っていない。身元の保証が確認できたのか?」

沈黙を破ったのは、るいの想像していた副団長とは正反対の団長みたいな人だった。

オレンジ色の目でいわゆるムキムキの筋肉お化けのような鍛えられた身体つきだった。


ぼけぇっと突っ立っているるいを横目にジョルジュは副団長に報告した。

「はっ。斬る予定だったのですが、不審な言動もあり団長に相談することが第一と判断しました!」

不審な言動と言ったとき、眉間にしわを寄せるいはジョルジュを睨みつけていた。


「身元が証明できておらず、不審な言動・・・?」

副団長は腕を組み、目を細めながらジョルジュの隣に立つ女を見極めようとした。

ジョルジュは副団長の癖でもあるその目線に気づき、そっと横目でるいに助言をしようと口を開こうとしたとき、隣から高い声が副団長に向かって発せられた。


「魔法使いになりたいんです!私!」


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