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ワートルラーデの勘違い 前編

私は、魔導師団副団長のワートルラーデだ。

灰色とも銀とも言えるこの髪色は意外と気に入っている。

長髪にしているのも、私のこだわりのひとつだ。


我らが魔導師団は、王国、王族の護衛を主としており、特に団長のアレクシス様と私は、国家の中枢にまで関わっている。魔導師団の多くは、前線よりも後方支援がメインで、前線も得意とするのは異次元の存在である団長のアレクシス様くらいだ。

無論、私も前線にいけるがアレクシス様が動きやすいように動いているため前線には行くことは少ない。


魔導師団の制服は、騎士団よりも正装に近い服装で魔法を通しにくい生地を特別に使ったローブを着用している。ローブの下は基本的に支給されるグレーのジャケットスーツを着ているが、権威や憧れもあるこの制服には、2着の特別な制服がある。それが、金色の装飾のある団長と銀色の装飾のある副団長の制服だ。この2着のみローブではなくマントの装置が義務付けられ、黒のスリーピースジャケットに勲章をつけた制服を着ているのだ。派手すぎるが、一目で権威が分かるようになっている。


私はこの制服に誇りを持ち、日々の訓練や職務を全うしている。団長は、最年少の18歳で魔導師団団長を拝命し、20歳から第3者騎士団の業務を行っているため、魔導師団の業務は、私が行うこともしばしばある。

いつも通りの日々から一変したのは、年が変わり、1000年に1度の記念すべき年として、多いに沸いたその日からだ。


「養子縁組の書類を準備しておけ」

「はい?今なんと・・・」

なんの話かと思い、反応が遅くなった私を指摘することなく、身体だけはスムーズに養子縁組の書類を探し団長に手渡すと、団長は足早に騎士団に向かっていった。


「……ようし?養子縁組ぃー!?」

何が起こった、誰を養子にするのかと、最近の貴族事情を思い出すも皆目検討がつかなかった。

そのあとずっと誰を養子にするのかをずっと考えていたが、書類が提出された形跡もなく、養子の相手が誰なのかは、分からずじまいだった。

頭の片隅に養子相手が誰なのか考えつつ、日々の業務をこなしていると、団長がかなりの魔力を消費した状態で魔導師団に来た日があった。


「団長、どうしたのですか。随分と魔力を使われているようですが・・・」

「なんでもない」

いつも表情が豊かな人ではないが、その日はいつもより無表情だった。

よく見ると髪や服も乱れており、騎士団でなにかあったようにも見えた。

「湯浴みの準備をさせておきます。」


何も言わずに団長室に入ってしまわれたが、様子についてはメイドたちに聞いてみるとするか。


しばらくするとメイドたちが報告にきた。

「副団長様、湯浴みの準備を終えて団長様も湯浴みをされたのですが・・・」

「どうした」

書類とペンを置き、目配せをしている2人のメイドたちを見た。

2人は、腹を括ったように私に団長の様子を話してくれた。


ーーー


「急に湯浴みの準備をするのも慣れたわね」

「そうね、昔は慣れずにずっと緊張しっぱなしでいつクビになるかなって怯えてたわ」

2人のメイドは、急な指示にも関わらず、狼狽えることなく準備を進めていた。

浴室は使用人専用の出入り口があり、なるべく部屋に入らないよう配慮された動線になっている。

お湯を溜め、タオルや入浴剤、石鹸などを準備し、いつでも湯浴みのお手伝いをする準備ができた。

「よし、出来たわね。いつ来られても大丈夫よ!」

「あ、水を変えるのを忘れていたわ」

浴室内での脱水防止として水差しとコップを常備しているが、それを忘れてしまい、置いてこようと準備をしていると、浴室から大きな音が聞こえた。


ガッシャーン!

「「ひっ!!!」」

急に団長室から何かが割れた音がし、二人はびくっと肩を揺らした。


「あ゛ぁー!ぶっ殺してやる・・・」


割れた音と同時に団長の荒々しい声が響き、二人は息を呑み、目を合わせて頷いた。

メイド人生すべてを懸けた数分が始まる、と気を引き締めた。


ギィ・・・


「誰だ」

殺気を纏った声が浴室に入ってきた。

「っ、副団長様より、湯浴みの準備をと申しつかっております。お入りになられますか。」

脂汗が鼻先から落ち、1秒が何時間にも感じていた。

「どいつもこいつも・・・出ていけ」

魔力の圧がメイド二人を襲い、息が詰まると思った途端、ふわっと浮く感覚に襲われ息が楽になった。

「っ・・・え?」

ストンと団長室の前にメイドの二人は立っていた。


「え?何が起きたの?」

「・・・ひとまず副団長様のところにいきましょう」


ーーー


「あっという間だったのですが、まずは、副団長様に報告にあがらないと思いまして」

「どいつもこいつも、と。出ていけと言われ、気づいたときには移動していたのです。お疲れだったと思うのですが、魔力を使わせてしまったと思うと・・・」

2人ともエプロンを握りしめ、恐怖に飲まれないように踏ん張っているように見えた。

「ケガはなかったか?」

「「はい?」」

2人は目を見開いて、驚いたように私を見ていたが、なぜ驚いているのか私には分からなかった。

「団長にケガはさせられなかったのか?怖い思いをさせてしまい申し訳なかった。決して団長は、女性に手を出すような人ではないが、どこかケガなどしていればすぐに医師に診てもらう。何かあればメイド長から私に伝えなさい。今日はもう帰ってよい」

メイドに辞められるのは非常に困るが、トラウマになるようなことまでして仕事を強いるものではない。メイド長にも話を通して、配慮してもうようにお願いすることに決めた。


「ケガはしておりません。では、失礼いたします」

戸惑いながらも二人のメイドは副団長室を後にした。


いつになく団長が荒れていることを知った私は、養子縁組がうまくいっていないのではないかと考えた。書類についての質問や手続きについても言われることはなく、手続きが進んでいないことも確認できている。貴族で家格も高い団長を拒否できる孤児などいたのか?

・・・まさか、なにかおかしなことに巻き込まれているのではないだろうな。


それに今日の異常な魔力の消費量を考えると、やはりなにかおかしい。

団長の体調回復方法と騎士団の動きを確認するために医学に精通しているレオン様に助言をいただくことを決め、翌日を待つことにした。

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