なけなしの勇気
雲一つない晴天―――
王国第3騎士団は、訓練場でいつものように訓練をしていた。
重い鎧を着て、走り込み、剣術、体術など国民を守るために互いを高め合っているのだ。
その中でも一際存在感を放っている第3騎士団長、魔導師団長のアレクシスは、仁王立ちで団員たちを監視していた。
「…団長めっちゃ怖いんですけど!息しにくいですって!ルイーゼがまたなにかしたんですかね?」
「緊張感があるのは良いことじゃないか。フハハ」
副団長のニコラウスさんが呑気に笑っているが、俺は笑えない。
今日の訓練は、異質だ。
なぜなら、最強の団長が朝からいるからだ。ほぼ訓練には参加せず、事務作業などを行っているともっぱらの噂なのに!いつもは副団長が指揮を執り厳しくも穏やかに、みんなで協力している雰囲気でやれているのに!本来はいるべき団長がいるだけで、なぜこんなにも殺伐とした雰囲気と化すのか。
とはいえ、今日の団長はいつもより殺気が10倍に膨れ上がっている!これは死人がでると直感が言っている!
「いやそれにしたって…「ジョルジュ」」
「ひぃっ!はいっ!」
視界の端にいたはずの団長がいつの間にか俺の背後にいて、死を覚悟した。
「これじゃ、足りないか?」
うん、これは死ぬ。堂々とした殺害予告なんて聞いたことがない。いや予告されているから俺はまだ猶予を与えてもらっているんだ。考えろ、だめだ、命が足りない、逃げられる訳もない。いつもは訓練になんか来ないはずなのに!なぜだ!・・・ルイーゼのせいに違いない。あいつ今度は何をしでかしたんだ!
目の前にいるはずの副団長はきっと笑っているんだろう。…決めた。全員を巻き込む!
「おい「はいっ!足りています!今のでより実践に向けたシュミレーションができました!全員の背後に回り、団員がどのような対処を取るか、訓練をつけていただけないでしょうか!」
生き残るには、これしかないんだ。皆、許せ。
「「「「なっ!!!」」」」
団長、副団長以外の全員が一斉にジョルジュの方に首を向け、怒りと恐怖が混じった目線を送った。
「…そうか。ジョルジュ、良いことを聞いた」
「さぁ!気を引き締めろー!」
ニコラウスは楽しそうに恐怖に震える団員たちを盛り上げた。
((((((ジョルジュ、覚えとけよ!!!))))))
団員たちの心の叫びは、無惨にも散っていった。
―――俺は機嫌が悪い。
いつもはニコラウスが訓練をやっているが、じっとしていられず訓練場に来てしまった。
ジョルジュの一言で全員の背後を取るゲームを始めたが、まったく動けていない。他の団よりはマシだが…イライラは収まらない。加減をしているが、立ち続ける団員は徐々に減っていった。
「チッ」
「「「ひいっ!!!」」」
理由は、ルイーゼだ。
せっかく会いに行ったのに門前払いで、ジョンの執事たちもルイーゼに過保護すぎる。
養子縁組の用紙も返ってこないと思えば、今度はレオンのところにいるだと?
よりによってなんでアイツのところに。
確かにやりすぎたと思ってはいる。ただ、あいつも考え無しに魔力を混ぜてきたし、魔力操作も比較的出来た。浮くなりなんなりできただろう!こっちもジョンの庭に転送させたが、まさか浮くことも出来ずにそのまま落ちるなんてこと、予想できるわけがない!・・・いや、あいつはそもそも教養がなさすぎたから、選択肢には入っているか。あぁ、くそ。頭がスッキリしない。
「実践なら死んでるぞ」
「はいっ!」
八つ当たりと分かっていても、訓練と称してやっているから問題はないだろう。戦力向上の必要性も最近上から言われているから、当然の行動でもある。
訓練を続けながらも頭の片隅には、イライラが残っていて、頭を真っ白にしたい。
最後の団員が倒れ、見渡す限り息も絶え絶えな奴らが訓練場に転がっていた。はぁ、やはりここではストレス発散は出来ないか。この空間にいる唯一の全力を出せる相手に声をかけるしかなかった。が、あいつはいつも図星なことを言うから、余計イラつくことが多い。
「ニコラウス、付き合え」
「八つ当たりは終わりか?」
「うるせえな」
訓練場の真ん中で対峙した団長と副団長をみて、団員たちは自分に被害がないよう避難し始めた。
ジョルジュを中心に団長の殺気に耐えられず失神した団員たちのことも引きずりながらなるべく遠くへ避難させていった。
「ジョルジュ!お前のせいでこんなことになったんだぞ!いい加減にしろよな!」
「うるせえ、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろう、本当に死ぬぞ、今日は。早く避難を進めろ!」
ジョルジュを責めていた団員たちもさすがに今日はおかしいとは気づいていた。
「あとで覚えとけよ」と呟きながら、被害を最小限にするため慣れたように安全確保に勤しんでいた。
合流した救護班はケガした団員の応急処置をし、いつも以上のけが人の多さに混乱をしていた。
「どうしたんです、今日の訓練は実戦形式だったんですか?それだったとしてもおかしいですよ」
「いや~今日はね、団員が、あのぉ、少しね。ここなら安全だから安心して続けてもらえる?」
なんとも気まずい表情で事情を説明しにくいジョルジュは、察してくれと言わんばかりの説明をしていた。
「おいおい、久しぶりじゃないか?やり合うの」
「団長はすげえけど、あれを相手できる副団長もただ者ではないよな」
「団長が背後に来たとき、本気で死を覚悟したわ」
「確かに、まだ生きてるよな。俺たち」
ドカーン!
団員達が避難して自分たちの命があることに感謝をしていると、爆発したかのような音が響いた。
「アレクシス、随分イラついてるな」
「だったらなんだよ」
互いの剣を払う度に訓練場は揺れ、2人を中心に強風が吹き荒れた。
「ルイーゼか?」
「あ゛ぁ?」
「ハハハ!そうかそうか!許してもらえなかったってわけか!勇気を振り絞ってせっかく会いに行ったのになぁ」
「だまれ」
「まさか会えなかったのか?」
「………」
「図星か!ハハハ!」
「だ、まれよ!」
魔力をグッと込め、ニコラウスに剣を振り下ろした。
「ぐっ…!おいおい、そんなに怒るな…よっと」
キーンと耳をつんざく音が鳴ると、団員たちは耳を塞ぎ目を瞑った。
ザクッ
団員の前髪がパラパラと落ち、少し明るくなった瞼の外を不思議に思い、目を開けると顔の横にアレクシスの剣が刺さっていた。
「はぁ...クソッ!」
「少しはスッキリしたか?」
ムッとした顔で無言のままニコラウスを睨んだ。
「そう焦るな。お前のなけなしの勇気は無駄じゃなかったと思うぞ。」
アレクシスの背中をバシンと叩き、豪快にニコラウスは笑った。
「ガハハ!終わったぞー!うまい飯を食うなら死ぬ気で訓練再開だ!」
「「「「お、おぉーーー!!!」」」」
アレクシスの人間味を久しぶりに感じたニコラウスは、満足げに笑い、彼の下についたことを改めて嬉しく感じていた。
***
訓練は、負傷者の手当などが落ち着いたたら再開することとなった。
ジョルジュは団員たちをみて、他にケガをした人がいないか状況も確認していた。すると、ふと正面の少し遠くから壁に刺さった団長の剣が抜け、団長の手元に戻っていくのが見えた。だが、その手前になにか塊があると思い、じっと目を凝らすと団員が倒れていた。
「おいおい、まさか刺さってないよな・・・?」
大きな不安を心に抱いて、すぐにその団員に駆け寄ると、胸が上下に動いており息をしていることが判明した。安堵した大きなため息をし、運びやすいように体勢を整えると服から短く切られたかのような髪の毛がパラパラと落ちてきた。
「ん?髪?」
救護班のいるところに団員を担いでジョルジュが向かうと、多くの団員の手当が終わり、訓練再開の調整をし始めているところだった。
「よいっしょ、おそらくこれが最後だ。手当を頼む」
救護班に伝えると、くすくすと笑い声が聞こえてきた。
何に笑っているか分からなかったが、訓練再開の準備をしていると一人だけなにか異様な団員がいた。
「ジョルジュさん、俺を担いでくれたそうで、ありがとうございました!」
最後に担いだ団員だと気づいた。
「最近、この団に加入したんだよな、大変だった、な?」
深々と頭を下げた団員が頭を上げると、見事に眉の上まで切られた斜めの前髪があった。
これか、これで救護班たちは笑ってたのか!これ、気づいているのか?
より幼く見えるな・・・
「あ、あぁ、身体は大丈夫か?」
「はい!だいj「おい!マルク!どうしたんだその前髪!」
「え?前髪?」
やばい、気づいてしまう!変な前髪については触れてやるなよ!
よし、逃げよう。
「そろそろ訓練再開するぞ、準備しておけよ」
「あ、はい!ありがとうございました!」
逃げるように訓練再開準備を進めているニコラウスのもとへ戻り、何事もなかったように訓練再開を促していった。
***
マルク「これ、坊主にした方がいいのかな・・・」
ひとしきり団員全員に笑われたあと、本気で坊主にしようか悩むマルクでした。




