すれ違い
アレクシスの滝行事件から翌日。
ニコラウス、ジャンヌ、ジョルジュは団長室に再集合し、団長椅子に座る無表情なアレクシスを囲んでいた。
「ほら、ルイーゼちゃんに謝りに行くわよ」
「団長、ルイーゼに謝りたくないという気持ちはものすっごく分かりますけど、状況的には団長が100:0で悪いっすよ。さすがに立場的にもヤバいっす。女の子を、ねえ・・・いでっ」
「言い過ぎだ。だが、一理ある。」
考え込むようにテーブルを見つめて椅子から立ち上がろうとしないアレクシスにジャンヌとジョルジュは焦りを抱き始めた。
「さっさと立ちなさいよ!いい?絶対に怒っちゃだめよ!」
「うわぁ、怒るのは男として情けないっすね、ありえない」
つい会話の流れで口を滑らせた瞬間に、アレクシスから感じた視線と殺気を感じ、命の危険を察した。
「ジョルジュ、お前「応援してます!団長ならできます!お疲れさまでした!いってらっしゃいませ!」
アレクシスの殺気に怖気づいて、ジョルジュは叫んだ後、団長室から足早に出ていった。
「ガハハハッ、アレクシス、早くジャンヌと行ってこい」
「分かったよ、うるせえな」
アレクシスは半ば諦めつつ椅子から立ち上がり、ニコラウスを片手で払うように追い返した。
歩き始めるとジャンヌは、すかさず声をかけた。
「どう謝るつもりなの?」
「あ?」
「素直に謝れっこないでしょ、どう考えても。貴族のお坊ちゃまの癖に男臭いところばっかりにいるんだから、若い女の子相手に手を取って片膝ついて、なんて出来っこないのは分かってるのよ」
見るからに不機嫌そうなアレクシスを横目にジャンヌは閃いたと手を叩いた。
「そうだ!お花よ!女の子への謝罪には、花束が必須だわ!それを持ってルイーゼちゃんに会いましょう!」
「いらんだろう、そんなもん」
アレクシスがぶっきらぼうに言うと、ジャンヌは立ち止まり、目付きを鋭くして言い放った。
「あんたね、何も分かってないわ。本当に謝る気あるの?申し訳ないっていう気持ちを団長室にでも置いてきちゃったわけ!?お花があるだけで女の子はみーんな笑顔になるのよ!」
「…」
「ミランダに準備してもらうわね!」
納得いっていなさそうな表情のアレクシスをおいて、ジャンヌが意気揚々と歩みを進めていくと、レオンがジャンヌの家の玄関を出て、門に向かって歩いているのが見えた。ジャンヌは走ってレオンを捕まえると息する間もなくルイーゼの安否を確認した。
「レオン!ルイーゼちゃんになにかあったの?!大丈夫だったのよね?」
「なんだよ、急に掴んでくるな、馬鹿力。あいつなら大丈夫だ。今頃寝てるだろう」
「はぁ…よかった。レオンがいるからなにかあったのかと思ったわ」
ルイーゼが無事だと聞くと安心してレオンから手を離した。
「熱があるってお前んとこの執事から連絡があったんだ。聞いてないのか。」
レオンはジャンヌに掴まれた腕をさすりながら、しかめ面で答えていると、ようやくアレクシスも2人のもとへ到着した。
だるそうに歩いてくるアレクシスを見て、片方の口角を上げながらレオンは声をかけた。
「よお、アレクシス。お前、ルイーゼを養子にするって言ったらしいな」
「…だったらなんだ」
レオンはいつになく真剣な眼差しに変えて、アレクシスに耳打ちをした。
「あいつを生かしておきたいなら、1年、いや半年でいい。絶対に魔力を使わせるな。いいか、絶対にだ。」
「命令か?」
目つきを鋭くしたアレクシスが一歩レオンに近づき、睨みつけた。
「これは俺からの助言でもあり、警告だ。あいつを、ルイーゼを生かしたいと思うなら、従え」
「理由を言え」
「大した社交もしてないお坊ちゃんには、到底分からないだろうな。…ただ俺は、嘘はつかない」
数秒アレクシスとレオンのにらみ合いは続き、無言の肯定ととったレオンは満足げに口角を上げ、そこから姿を消した。
「ちょっ、アレクシス!どうしちゃったの?いつもは折れないじゃない!」
「…うるせえな」
「怖いわ。これから槍でも降ってくるわよ、絶対」
心配そうにジャンヌは、空を見上げた。
「おかえりなさいませ、ジャンヌ様」
いつの間にかいたセバスチャンとミランダが玄関に揃い、ジャンヌはミランダにルイーゼへの花束をお願いした。
「セバスチャン!ルイーゼは部屋に?」
「えぇ、お休みになっておられます」
「そう!ミランダ!花束が準備出来たら持ってきてくれる?」
笑顔のジャンヌとは反対に、表情が曇るミランダは、ジャンヌとアレクシスに近づいた。
「失礼ながら、ジャンヌ様、アレクシス様。申し付けられた花束は、ルイーゼ様へのお見舞いの品ということでございましょうか」
「えぇ、そうよ!アレクシスの謝罪とともに贈りたいと思ったの!好きな色とか分かるかしら?」
ジャンヌの笑顔にミランダの顔は、より冷たく笑った。
「お言葉ですが、お二人様。今、ルイーゼ様はお熱があり休まれていらっしゃいます。先ほどレオン様が診察してくださったお陰で休まれているんです。それなのに加害者側がのこのこやってくるとはどういう了見ですか。」
「アレクシスに謝ってもらおうと思って、ね?」
ジャンヌはアレクシスに目配せをしたが、アレクシスはミランダを見ていた。
「相手側への配慮は何一つお考えになれませんでしたか?体調が回復し、ルイーゼ様が謝罪を受ける、というのでしたら別ですが。あなた方、上級貴族の言うことは下級貴族にとっては断りも出来ない命令となります。そんなこともお忘れですか?それとも謝りにきてやったんだから、とでも言うおつもりですか?体調がつらいときに、無理やり笑顔を作らせて対応しろと?」
淡々と声を荒げずに2人に問い掛けるミランダの迫力は、団長をもってしても口を噤むことしか出来なかった。
「本日は、お引き取りくださいませ。」
気づけばミランダの後方に控えていたメイドたちとミランダに丁寧に頭を下げられ、アレクシスもそれ以上進むことはしなかった。
「差し出がましいのですが、アレクシス様」
「なんだ」
「謝罪の気持ちというのは、顔に表れるものですよ。」
無言でどこからともなく出したハンドミラーをミランダから向けられると、そこには眉間に皺を寄せたいかにも不機嫌そうな顔が映っていた。
メイドたち
「謝罪にきたのはいいけど、体調不良のところに来られてもね」
「一応、客人として対応していることお忘れなのかしら」
「ルイーゼ様、お可哀想に」




