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魔力と反撃

アレクシスが呟いた「非常識」という言葉にひっかかったジャンヌは、顎に手を当てながらルイーゼの行動について考え始めた。


・・・確かにルイーゼちゃんのやったことは、非常識と言われてもしょうがないわ。

国民のほとんどが魔力を持って生まれるこの国では、魔力の扱い方を小さな頃から教わるもの。それに他人の魔力を取り込むなんていう禁忌事項をやる国民なんていないわ。そもそも属性や魔力量がかけ離れすぎているとアレルギー症状を起こすし、なにより自分以外の魔力が入るなんて気持ち悪くて最悪な気持ちになるのよ?!

こんな常識を知らないってことが、ありえるのかしら。魔力の使い方も知らなそうだったし、魔力を使わずに生きていたら、いや、魔力を使わずに生きていくことなんてできるわけない。

とはいえ、女の子にとっていい態度じゃないわね。


一通り、考えをまとめたジャンヌは、目をキッと吊り上げ、アレクシスを睨みつけた。


「それにしたって、女の子にもっと丁寧な対応できないの?急に浮かされて、落とされて、ルイーゼちゃんが可哀想だわ。そ・れ・に!あんたがあの子を養子にとるって言ったんだから、魔力の基本から教えてあげないさいよね!こんなことばっかりやってると養子のサインもしてもらえないわよ!」


ルイーゼへの待遇改善を第一に考えているジャンヌは、庇護をすると公言したアレクシスに釘を刺した。互いに納得がいかないような表情を浮かべていると、地響きのような大きな音が二人の耳元で鳴り響き、ジャンヌが音に顔を歪めるとともに騎士団の建物全体が揺れた。


「っうるっさいわね!アレクシス!いい加減にし・・・え?」

眉間に深い皺を寄せながら、睨みつけようと横を向くと、団長椅子に座り腕を組んでいる状態のアレクシスが滝行をしていた。


「…眼鏡、ズレてるわよ」


***


「はぁ~!本当に皆さんの優しさが身に染みて、癒されますぅ~」

ほかほかに温まったベッドの上でルイーゼは手当てをされながら、メイドたちに感謝を伝えた。

「本当に無事で良かったです。庭でルイーゼ様を見た時、心臓が止まるかと思ったのですよ?」

後ろに控えるメイドたちもうんうんと頷いて、強く同意していた。

「本当に痛くて、我慢できずに泣きじゃくってましたよね。アハハ・・・。」

恥ずかしそうに声を抑えるとメイドたちは、「ルイーゼ様は被害者ですよ!」と守ってくれた。


「そんなことありません!悪いのは全てアレクシス様です!決してルイーゼ様は加害者ではありません!」

メイドの一人が拳を握りながらまっすぐな瞳で射貫くように言い切った。

ルイーゼは目をぱちくりさせて驚いたが。ふつふつと怒りが湧いてきてしまった。


確かに、それはそうだ。陰険メガネが全て悪い!

私が何をしたって言うのか。

考えたらまたイライラしてきた。


「やっぱりおかしいですよね!イライラしてきました。言葉も足りない、意味が分からないです!なんで私、浮いて落とされて、ケガをしないといけないんですかね!!!なんか仕事出来そうな感じの癖に、あんなに魔法も強いのに!尊敬?ありえない!あの陰険メガネめ!ぜーんぶ水浸しになっちゃえ!」


おりゃー!と怒りを空にぶつけるように手を天井に向けるとと魔力がゴソッと抜ける感じがした。

ぽすんと少し浮いてふかふかのベッドに包まれたルイーゼは、すこし冷や汗をかいて呟いた。


「…まさか、ね」


***


「チッ」

「くっ・・・修行が足りないの?」

「黙れ」


笑いを堪えながらもからかうジャンヌと全身水浸しのアレクシスが団長室に現れた大量の水を対処している裏で、膨大な魔力と建物が揺れたのがアレクシスの暴走だと騎士団内は騒然となっていた。


騎士たちが騒々しくしている中、怪訝な表情を浮かべたジョルジュは、ニコラウスに近づきそっと耳打ちをした。

「副団長、今のって。」

「ふむ。だろうな。」

「ルイーゼのやつ、またやらかしたんじゃ…」

「アレクシスもまだまだ若いな」


はははと笑うニコラウスとその意味が分かっていないジョルジュは、団長室に向かっていた。


「団長!失礼します!あいつがまたなに、か……え?」


ジョルジュは目を見開いて目の前の光景を信じることが出来なかった。

水浸しの床と水に浮かび、揺れている書類とインクたち、なにより、奥に鎮座する我らがアレクシス団長がずぶ濡れだったのだ。サラサラの銀髪は、キレイな頭の形に沿うように張り付き、灰色のようにくすみ、自分では買えないほどの魔石がはめ込まれている眼鏡もフレームが曲がり、傾いた眼鏡になっていて、立ち尽くすしかなかった。


「だ、だ、だん、ちょう?」

「こりゃまた傑作だな~ガハハハ。滝行でも始めたのか!俺もまぜろ!」


キョロキョロと左右を見渡し落ち着かないジョルジュの横では、初めて見る光景に笑っているニコラウスがアレクシスの怒りを助長させていた。


「うるせえ!ニコラウス!」

「はっ!そうです!!ルイーゼ!あいつは?!」

この現状に目を背け、やっと現実世界に戻ってきたジョルジュが、ルイーゼを追いかけようと走りだそうとしているとジャンヌの声が聞こえた。

「ルイーゼちゃんはいないわよ。うちで手当てを受けてるの。」

「手当て?」

扉に向けて走り出そうとしていたジョルジュは顔だけをジャンヌに向けて、首をかしげた。


「ここにいるずぶ濡れ団長様が、なんでかルイーゼちゃんをうちの庭に叩き落としたのよ。ありえないでしょ?幸い大きなケガはなかったけど、うちのメイドたちの怒りが収まらなくてね。」

やれやれと首を振るジャンヌにジョルジュも冷たい目でアレクシスに視線を送った。

「えぇ・・・さすがにそれは・・・最低ですね」



「アレクシス!水も滴るいい男じゃないか!ははは」

なぜかバカにしているようには聞こえない副団長の言葉だったが、団長のこめかみにはいくつかの血管が浮かんでいた。

「ニコラウス、殺されてえのか」

禍々しい魔力が団長の周りに広がり、副団長の横にいた俺は死ぬことを悟った。

ごめんな、父さん母さん。もっと親孝行したかったよ。元気でな。

すべてを受け入れようと目を瞑り、瞼の中にいる笑顔の家族に挨拶をした。


「ははは!まだまだ血の気が多かったか!とっくにそんな時期は終わってると思っていたぞ!だが、元凶は全てお前だろう。八つ当たりも俺の訓練にはもってこいだが、まずはルイーゼに謝罪したらどうだ。」


仁王立ちで悪魔のような禍々しさを纏う団長に副団長は軽口を叩いたが、俺は、生きた心地がしない!

副団長!火に油を注いでどうするんですか!俺、ここで死にます?!


ジョルジュが真っ白い顔で絶望している中、ニコラウスの言葉にアレクシスの怒りは助長し、建物は軋み始めた。

「アレクシス、ルイーゼが常識を知らないことなんて最初から気づいていただろう。知らなければ教えればいいだろう、それの何が難しいんだ?」

まっすぐとアレクシスを見つめるニコラウスの声色は、あまりにも穏やかだった。

言葉を発しないアレクシスだったが、徐々に魔力が治まっていくにつれてジョルジュの顔色も戻っていった。

「ニコラウス聞いてよ!アレクシスったら、自分の魔力膜にルイーゼちゃんの魔力膜がぴったり重なっちゃって、思わずびっくりしちゃったって言うんだから、かわいいでしょう?」

「えぇ!?!?」

ニコラウスが驚いたように目を見開くと、顔色が戻ったジョルジュがすぐさま反応した。


「ちょ、まってください!え、団長!ルイーゼに手を、いだっ!」

ジャンヌがジョルジュの頭をパコーンと叩いた。

「馬鹿言ってんじゃないわよ!」

「いやだって!自分の魔力に相手の魔力が溶けていくって「ルイーゼちゃんはただ魔力を練っていただけだと思うのよ。探求心みたいなね。それに動揺して、非常識だ!とかわめいてたのよ。」

「わめいてねえよ。」


そわそわと落ち着かずに動き回っているジョルジュを見て呆れると、ニコラウスに向けた怒気が消え、正気に戻したアレクシスは風魔法で外に水を移動させた。すっかり乾いた団長室でアレクシスは自分に暖かい風を吹かせ、全身をあっという間に乾かしていた。


「・・・団長って死ぬほど遊んでると思ってました。」

ボソッとジョルジュが呟くと、ニコラウスとジャンヌが目を合わせた。


「ジョルジュ、アレクシスはな、社交では数多くの女性に大人気だぞ。なんでも笑顔が素敵らしい。」

「嘘くさい笑顔も何十年やってたら、うまくなるのよ。気持ちのこもっていない笑顔ってやつよ」

「とっかえひっかえ、甘い言葉を囁いているみたいだぞ。ジョルジュ、教えてもらったらどうだ?」

ソファーに座りながら、俺を唆そうとする副団長を見て、俺は怪訝な顔をして団長を見ることしか出来なかった。


その視線に気づいたアレクシスは、どこからともなく出した小石をジョルジュの額に当てた。


「刺激的で飽きない毎日が送れそうね」

見たこともないアレクシスの姿が見れて、わくわくしているジャンヌは笑いながら言った。

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