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魔法使いになりたいんです!

神の国ーーー ヴィルフレイム王国は、1年の始まりを盛大に迎えていた。


この国では、毎年18歳の成人になる魔力を持つ貴族の中から4人が神のご意志により選ばれ、命ある限り、王国の振興と平和を願い、祈りを捧げてきた。

今年は1000年に1度、「四神聖」と呼ばれる4人が神によって選出され、この国の崇拝対象となることが決まる記念すべき年だ。


そんな記念すべき年が始まって2時間弱・・・王国国境付近を守る騎士団の男が森の中で枯れ葉を踏む音を聞き、警戒を高めていた。


カサカサカサ・・・

草木が風で重なり合っているようにも聞こえるが、明らかにおかしかった。風は吹いているが規則的に聞こえる枯れ葉の音が少しずつ男に近づいてきた。

何が潜んでいるのか、この寒い冬に家畜としても食べられる動物は冬眠しているし、人に違いないと確信すると、男は息を潜めて、音の発生源に近づいて行った。


この垣根のように生えている木々の向こう側に奴がいる。


そう確認した男は、息を整え、垣根を越えて叫んだ。


「おい、誰だ!何をしている!」

剣を両手で握り、いつでも振り下ろせるように構えて奴をまっすぐ見つめた。


「へ?」


そこには、白い布だけを纏った女がいた。正しく言うと、振り返ったか。

あきらかに身体の線が細く、伸びた髪が振り向いた際に揺れた隙間から見えた顔は、あどけなさが残る顔をしていた。

なぜ、そのような年ごろの女がこんな森の中に?

疑問に思い、とぼけたような顔でこちらを見ている奴をよく見ると、靴も履かずに素足のままだ。


素足で歩けるような森ではないぞ?!あんななりをして、こちらを動揺させる目的か?

・・・落ち着けジョルジュ。俺は王国第三騎士団所属だ。気を引き締めろ。


そっと目を閉じ、深呼吸をして集中力を取り戻した後、すぐ目を開けた。

女は、動じず、こちらをまだ見つめていた。

今年は王国の記念すべき年だ、悪さをされては縁起が悪い。ここから離れさせ、反抗するようなら斬ってやろう、とジョルジュは意思を決めた。


「何をしている、このような森の中で。油断させようとしても無駄だ!」

武器はもっていなさそうだが、真っ白な両足もほぼ隠れておらず、淑女であればこのような無神経な恰好はしないだろう。目的が分からない女に不気味さが増し、ジョルジュは両手剣を握り直し、最大限に警戒心を高めた。


チャキ・・・

握り直した際に刀身が月明りに反射し、その光が女の顔を一瞬照らした。

目を見開いた女は突如、口を開いた。

「えっ!?殺されるんです!!!お願いします!殺さないでください!!!」

必死の形相で女は、ジョルジュに命だけはご勘弁を!と額が地面に着くほどに土下座をし、懇願した。


なぜ、地面に座り込むのだ!?女の動きの気持ち悪さに慄いき、1歩引き下がりひるんでしまった。

「な、なんなんだ、お前は!」

そいつは地面に額をつけたまま、ジョルジュの足元まで進み、こう叫んだ。


「魔法使いになりたいんです!!!!」


ーーー


「おはようございまーす。担当の宮城です。体調どうですか?」

体温計を差し出しながら、担当の患者さんとコミュニケーション重ねて日々の体調の変化を確認していた。


「いやあ、あまり眠れなかったな~」

「やっぱりご自宅じゃないからですかね?あ、熱はなさそうですね。」

ピピピとなった体温計を受け取り、手元のPCに入力していく。

「それはあるかもな~、普通はほかの人がいるところで寝ることなんてないだろう?」

病衣を着た老人が点滴をしている手をみながら笑って話していた。

「確かにそれはそうですね。じゃあ、今日寝る前に飲んでもいいお薬あったら、先生にお願いしておきますね~」

「看護師さん、るいちゃんっていうのか。いつも明るいねえ、ありがとう」

穏やかに笑いながら、また来ますね、と声をかけ、カーテンを閉めた。


数人の担当患者さんのところへ行き終わり、ナースステーションに一度戻ると、同じユニフォームを着た茶髪のいわゆる可愛い系女が駆け寄ってきた。


「るいさーーーん!採血難しくて、無理なんですぅー!」

「宮城さんな?」


甘えるような声を発する後輩の佐々木が病室からこちらに戻ってくる宮城に狙いをつけ、泣きついた。


「それに採血といえばの高梨さんがいるじゃん!そっちにお願いしてよ。毎回来るな。」


佐々木の訴えをさらっと躱し、今日分の点滴を持って再度病室に向かおうとしていた時・・・

「る・・み・や・ぎさん。逃しませんよ?」

ニヤァと悪魔の笑みを浮かべた佐々木に左腕を掴まれ、逃げられなくなってしまった。

立ち尽くす私を逃すまいとこちらを見ながら採血準備を進め、採血物品を押し付けてきた。


「るいさん本当にお願いしますってば!8年間の経験がるいさんの技術の高さを証明していますよ!」

「誠意が感じられない。だから、宮城さんな?」

「高梨さん苦手なんですよぅー!準備はほら、これを!サクッとお願いします!!!」


一度ターゲットを決めるとイエスと言うまでしつこいと病棟では有名な佐々木の対応をするのが、宮城は面倒くさくなり、しぶしぶ頷いてしまった。


「はぁ・・・」


ため息の後に気合いを入れ直して踵を返し、お願いされた患者さんのところまでいって、採血をした。

看護師さんは初めてだね。僕の血管は難しいんだよ、欠陥血管、ってね。

と持ちギャグを持っている患者さんの声を振り切って「チクっとします」と声をかけ、奇跡の、いや。

執念の1発成功を収めた。


佐々木に邪魔されながらも占いが1位だったのか?というほどスムーズに業務は進み、定時で退勤を押した。

「っ奇跡・・・おっさきに失礼しまーす!」

普段は疲れ切って帰宅するはずが、待ち望んだ連休に浮かれていると思われたるいの明るい声に、他のスタッフは優しい目で見守っていた。


るいがスキップする勢いで更衣室に向かっている途中・・悪魔の囁きが聞こえた・・・


「みーやぎさん♪」

佐々木が後ろから肩を叩いてきた。

「うわあぁぁぁ!」

驚いて後ろに後ずさると、悪魔は笑顔で私を見つめてきた。


「ははは、そんなに驚かないでくださいよ~」

「なんでここにいるの」

「私も終わったからですよ~ だ・か・ら!ご飯行きましょう!「いやだ」


るいは悪魔、もとい佐々木が話し終わる前に誘いを断り、返答を聞かず更衣室に向かった。


定時を迎えたすぐの更衣室は、誰もおらず、るい一人だった。


「今日は早く家に帰るんだ!明日から連休!さいっこう!!!」


猛スピードで着替え、ユニフォームを洗濯カゴにダンクシュートして帰路についた。


♪:次は、○○駅~○○駅~


帰りの電車の中でるいは、スマホを見てマスクがもごもごと動いていた。

時折、目を瞑り、規則的な呼吸法を繰り返し、膝に置いた右手の指先が何かの法則性に則って動かしていた。


最寄り駅から自宅までの道でも手の動きや呼吸法を続けており、変な目で見られていることにも気づかず、楽しげに繰り返していた。

自宅の玄関の鍵を開け、着替える間もなくPCを起動し、推しのストリーミングチャンネルをクリックした。


「間に合ったあああーーー!!!」


ドサッとバッグを離し、通勤着を脱ぎ捨て、部屋着のオーバーサイズのよれよれ白Tに着替えた。

ペットボトルの残りの水をごくごくと飲み干し、引きこもり生活の始まりを告げた。


「始まりました!!!マジックジャーニー!魔法の旅!!!今日は生配信でーす!」

るいの目線の先には、画面の奥に狐の仮面をつけた配信者が、魔法を使おうパーティーだー!と言い放つとチャット欄のリスナーたちも大盛り上がりになっていた。


「うわー!今日の推しもミステリアスな狐顔だねえ!この仮面がいい味だしてるのよ!魔法使いというか化かされてる魔術というか?でも、私は毎日ちゃんと訓練してますよー!」


そう、帰路についたるいがしていたことは、魔法を使えるようになるための訓練内容だったのだ。


なんと宮城るい30歳は、魔法使いになるという夢を諦めていなかった。



                                    



るい「おっさきに失礼しまーす!」

同僚A「るい、よほど楽しみだったんだね連休。」

同僚B「ずっと仕事してたもんね、夏休み返上だったしな~」

同僚C「このまま来なかったりして?」

同僚ABC「「「あははは、なわけないか!るいだもんね!」」」

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