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眠れぬ悪魔のベイビーフード  作者: 堂島チロル
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第8話:慎み深いスマホ

ストロベリーマフィンとクリームパイの秘密の会話を聞いてしまったタナカ。不審に思う彼が取った行動は…?

――結局一睡もできなかった。

タナカはため息とともに自転車を降りる。

山あいの町の朝は冷え込むため、吐く息はもう白い。


昨夜聞こえたあの声は、スドウ氏のものに違いなかった。


――我々は……だと知られるわけにはいかないのだ。


とかなんとか言っていた気がする。

恐らく誰かとスマホで通話をしていたのだろう。

そう思って声を掛けずにいたが、今になって思えば怪しすぎる。

やはりスドウ氏は、自分に何かを隠している。

それもかなり重要なことを。

思い至り、もやもやとしたものが心に充満しかけた、その時だった。


「よっ、タナカ。じいさん元気か?」


陽気な声でぱしっと肩を叩いてきたのは、

幼馴染であり、職場である「ベーカリーなかむら」の店長、ナカムラである。


「じいさんは死んだよ。3年前に。お前も葬式来てくれただろ?」

「そっちじゃなくて、行き倒れの方」


別にスドウ氏は行き倒れていたわけではないが、

ナカムラの中では勝手にそうなっているらしい。


「元気だよ。不審人物だってこと忘れそうになるくらい」

「そうむくれるなって。わかってて拾ったんだろ?」

「多少はそうだけどさ……」


人にはそれぞれ言いたくない事情というものがある。

あまり詮索するのは好きではない。

だが今となってはスドウ氏はスマホショップの顧客ではなく、

タナカ家の居候なのである。

少なからず知る権利はあるのではなかろうか。

昨夜の一件から、タナカはふとそんな気がしてきたのである。


「なら、聞いてみれば?」

「……は?」

「何事もわかるまでは100倍怪しく感じるもんだ。

 知ってしまえば大したことないかもしれない」

「そりゃそうだけど……」


正面切って尋ねたところで濁されるに決まっている。

それだけならまだいい。

もし万が一、アレがソレだったとして、

この時期の山中に埋められるようなことにでもなったら……。


「ところで昨日預けた試食用のパン、食べてもらえた?」

「ごめん。うっかり自分で食った」

「おーい、頼むよタナカ~」

「悪い」


下手に刺激するのは愚か者の所業かもしれない。

スマホが上達するのを待って出て行ってもらえば、それでいいのかも。

でも――


「今日もっかい食べてもらうからさ。帰りに山ほどくれよ」

「了解。フジさんたちに頼んどく」

「サンキュ」


こうして幼馴染ふたりは、並んで店の勝手口をくぐった。



時計が昼の14時を過ぎた頃。

ストロベリーマフィンのスマホがチカチカと光る。

何かしらの通知が入った合図だ。


ストロベリーマフィンはこのシステムがなかなかのお気に入りだった。

悪魔同士の通信だと、こちらが何をしていようが

無遠慮に使いのカラスが手紙を咥えて窓を叩いてきたり、

最悪な場合直接姿を現したりするものだが、その点スマホは一味違う。

『あなたに報せがあります』と、前置きしてくれるのだ。

なんと慎ましいことだろう。魔界に帰還した暁には、全悪魔に見習わせたい。


「おそらくタナカ君からのメッセージだな」


当たりだった。通知をタップすると、

タナカの名しか登録されていないメッセージアプリが立ち上がる。


『今日はたくさんパンをもらってきます。夕食の支度は不要です』


とのことだった。ストロベリーマフィンは朗報を伝えようと、

食事係と化している部下の名を呼ぶ。しかし返ってきたのは――


「ぐー、ぐー、ぐー……ガハッ! ……ぐー……」


陽だまりで眠りこけるカレーパンのいびきだけだった。


//9話につづく!


新年おめでとうございます!

年末年始は仕事の制作が詰まっており、久しぶりの更新となってしまいました。

これからだんだんとストロベリーマフィンの秘密に迫っていきますので

どうぞよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
新年早々にスマホがおかしくなったのですが、思わずタナカが ここにいてくれたらいいのにって考えてしまいました。 これからも、楽しみにしています。 無理されずに、仕事の合間に書いてください。楽しみにしてお…
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